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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
30/41

上手く行くとは限らない。

私は最近、本格的に音楽を作り始めた。


青谷様に協力を要請し、音楽を作れる環境がやっと揃ったのだ。


一人。


新しい挑戦は不安がつきもの。

大丈夫だろうか。

そう心が締め付けられるような痛みも感じた。

だけど・・・それと同時に・・・


ワクワクもそこに存在していた。


誰を頼るわけでもなく・・・頼りたくなくて、私は1から作り出した。 


楽しかった。


このときほど集中した時はないと言えるほど私は楽しめた。


数週間。


沢山の名作を聞き、製作欲を沸き立たせる。


取り敢えず自分のこのワクワクを伝えたい。形にしたい。


その一心で私は手を動かし、頭に血を流し続けた。






でもそれは失敗に終わる。

聴き返してみると、不協和音ばっかで不快になったのだ。


『違う、私の出したい音はこうじゃない。』


私は悔しくなった。

想像したものができなかった事に不満を感じた。


取り敢えずベースのギターの楽譜を完璧にさせることにした。


伴奏は入りやすいように少し静かに。


サビは激しく。


終盤こそもっと激しく。


何度も試行錯誤を繰り返した。


実際に弾いて感触も確かめる。


流して聞くことで、つまらなくないか、不快にならないか・・・確認は怠らない。


何度も確かめた。


納得が行けば次に移る。

次の楽器に、また次の楽器に。

一度全部合わせて聞く。

納得がいかない。直す。直す、直す直す直すナオすナオス・・・

・・・次の楽器へ。


朝起きて、音の構成を考える。

歩いてる最中に、好きな音楽を聞き、流れを把握する。

学校で何度も楽譜を書き換える。

家に帰れば楽器に触れ、考えたパターンを何度も弾いて確かめる。

そして、深夜2時になるまで作曲する。


・・・計3ヶ月・・・試行錯誤の結果、一つの音楽がこの世に誕生した。


歌詞はつけない。

BGMとしてネットに流そう。

作った人物の、つまりは私の年代だけ晒し、たくさんの人に聞いてもらおう。



今は評価が欲しい。



その一心で私は数カ月過ごした。

どんな感想が来るかはわからない。

でもあれだけ頑張ったんだ。


私は期待した。


自分の努力が報われることに。






『なんだこれwww』





結果、散々だった。


『製作者の若さでゴリ押しただけの代物。』

『酷い、これは酷い。』


感想はそんなのばっかだった。

怒りが湧いた。


何百時間もかけて作った自分の処女作。

また何百時間もかけて評価されるのを待ち続けた。


『そりゃあ作ったのは初めてだよ。』


『下手ではあろうよ。』


分かっている。

こんな処女作、そこらへんの溝に捨てようと誰も何も言わないほど価値がない。

そんなことは分かってる。


センスがないことも理解している。

才能がないことも自分が一番わかってる。

けど私はやろうと思ったら気が済むまでやり続けることをプライドにしているのだ。


自分にはないセンスは経験で埋める。

才能の分は努力で埋める。


だからまだこれはそれの序章にも至らない場所。


私のこの作品は・・・


踏み台だ。


踏み台なんだ。


踏み台なんだよ。


踏台でなんだけど。


踏み台だけど。


・・・。


・・・。


・・・くそ。


・・・ちくしょうっ。


・・・あぁ、この怒りの行き場がない。



私はベットの上、部屋を暗くして考える。



評価を求めたのは私だ。

それに下手で聞くに耐えない作品を作ってしまったのも事実。

私が怒るのは筋違いってものだ。


・・・そうだ。この怒りを糧にもっと音楽を作っていけばいい。

そうだ。

そうしよう・・・


そうしよう・・・


・・・・











なんで・・・涙の一つも・・・流せなかったのかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここ最近、俺の彼女の様子がおかしい。


朝、俺とあっても抱きついてこなくなった。


いつもなら『おはよう♪天峰く〜ん♬』と言い、抱き着いてくる。

本人曰く、俺成分の吸収とかなんとか。


意味がわからない。


俺は体は接触するだけで、落ち着けるんですか?

えぇ、本人はいい笑顔でうん♪と言ってきましたよ。


でも最近そんな行動はなくなった。

そのおかげで俺の平穏が戻ったので嬉しい。


嬉しいのだが、なんだろう。

元気な犬がハァ!ハァ!と鼻息荒くしてないと、不安になるように、翆さんのいつもが出てないとなんかあるんじゃないかと心配になってしまう。


「・・・いつもと違いますよね。」


俺が肘を付き心配していると、愁という翆さんの格闘技の訓練の仲間がきた。

こいつも違和感を感じているのだろう。


「最近多いよな。

昨日も俺がサボりながら練習してても怒らなかったし。」

「・・・バレたら重りつけてのグラウンド20週ですもんね。」


うん。・・・重りとか初めてつけたけど・・・結構違うのね。

天と地との差があるよ。名の通り雲泥の差だ。

地獄って・・・経験できるもんなんだ。


「・・・不満を言わないない女性って・・・凄い強い。」


何度怒鳴り散らそうと思ったか。

まぁ、怒鳴り散らしても痛めつけられるだけだけど。


・・・やっぱり上下関係って大事なんやなって。


疲れたようなため息をつくと、愁が翆さんの状態を説明してくれた。


「・・・最近噂になってるますよ。

ブツブツと独り言を言ったり、すごく目が死んでたり、急に笑い出したり。

裏の裏の番長の出現っ!可能性大!・・・って、ヤンキーの人たちの中で噂してるらしいです。」

「裏番長って・・・。」


まぁ、翆さんはある意味知られすぎて逆らう人とか少なくなったし、あの目はマジで人を殺しそうな目だからそんな感想を持っても、わからんでもないが・・・。


「てか、いつもの事じゃね?

俺たちは結構見慣れてると思うけど?」

「いや、その今までと雰囲気が違うんですよ。

なんか怖いを超えて恐ろしかったです。」


愁は身震いした。

よほど恐ろしい目を見たのだろう。

同情しておこう。


「ふ〜ん、ま、機嫌が悪いこともあるでしょ。

あの人も人間なんだから。」


俺は知らん。

翆さんより弱い俺に翆さんの悩みは解決できない。

ていうか、俺の惚れた人は自分の問題なんてパパッと解決する人だ。


俺は欠伸をする。


「・・・ハハッ、助けてあげようって思わないんですね。」


愁も俺と同じ考えか、苦笑いした。


「弱い奴が関与しても邪魔にしかならんさ。

精神的問題は解決できようとも、して欲しいか決めるのは翆さん自身。

俺は大人しくしとく、というかそっちのほうが数倍安心だしな。」

「そうですか・・・。なら僕もそうします。」


俺が机に突っ伏して寝たマネをすると、愁の気配が消えた。


(・・・いつもと違う・・・か。)


俺は腕の隙間から、イライラした表情で何かを書き続けている翆さんを見る。

その表情には焦りがあった。

今まで見せたことのない焦り。


集中する姿からは何かに怒っているかのような雰囲気を放っている。

一番仲のいい小林さんも話しかけれないでいるほどの雰囲気。


てか、あの人でも理由は分からないんだな。

確か家が隣で、幼馴染とか。


そんな人でもわからないとなると相当のことなのか。

それとも翆さんがただ単に他人に干渉されたくないのか。


まぁ、翆さんの決めた事だ。

俺達の出る幕はないのだ。


でも彼女のその姿は色々と影響がある。


怖いとつぶやく周りの人達の、翆さんへの考え。

よくある話だと孤立がありえるかもしれない。


だがこれだけは本人の行動でしか根本的な解決は出来ない。

だから俺が出来るのは味方でいること。


今の俺にはそう思うことしか俺にはできなかった。


まぁ、そう思えるのにも俺が彼女の所有物だからと理由もあるが・・・はっきりしているのが周りの人たちの考えが分からないということだ。


俺は・・・今の翆さんを"怖い"とは思わなかった。


いや、思えなかったのほうが近いだろう。


俺は格好いいって思ってしまった。


俺の今までの彼女への印象は他の人とあまり変わらない。

完璧で天才で美人で・・・子供なのに大人のようで、でも子供の無邪気さはあり、誰よりも楽しく生きている"人間離れした人間"だった。


でも今の彼女の姿はどうだ?


我儘な物事を思い通りに進められず憤っている子供そのものではないか。

人間離れなんてしていない。

今の彼女こそ・・・誰よりも子供で人間だ。


俺は、そのギャプといくら子供っぽくてもその頑張ろうとする姿には惹きたてられるものがある。


目は自然と奪われた。


ひたすらに何かを書き込むその姿は見ていて飽きない。


憧れる姿であった。


俺は・・・出来るなら・・・



出来るなら・・・今の彼女を・・・






眺めていたかった。



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