戻らずの大樹海
南の、国の境にある広大な樹海をブルーウッドと呼ぶ。
リッパーナ王国以外にも、様々な国の境が隣接するが、多くの魔物が潜む秘境であるここに踏み入れるモノはほとんどいない。
そんな場所を、フィーロは訪れた。
そして踏み込んだその日に、盗賊団と、魔物と、獣魔術師達に襲われた。
「考える事は皆、同じか」
周囲には魔物の死体が転がっている。
ズキズキと、身体の節々が痛む。
禁じられていた火砕撃を使用したせいだ。使わなければ、死んでいた。
危険は、相当に大きいようだ。
だが。
「……いい場所だな。気に入った」
目標はある。
手加減の必要はない。
衣食住の内少なくとも食が、そのまま修業に繋がっている。
魔物の肉を焼いて喰うと、そのまま身体に力が流れ込んで来る。
身体の痛みが消え、疲労が消えた。
「これが禁呪の力か」
予想以上に分かりやすい効果に、フィーロは頭の中で計画する。
まずは、火砕撃を使いこなすための筋肉の強化。
いや、それ以前に消化をよくする為、胃を強くするべきか。
火を吹く赤龍を相手にするなら、火に耐性のある魔物を喰う必要がある。
……そうなってくると、魔物の知識が必要になってくる。
「やるべき事が、色々あるな」
とにかく今日の所は、寝床の確保だ。
そしてフィーロの修業の日々が始まった。
異常に気づいたのは、それから数日後だった。
「なるほど、これが爺さんの言っていた禁呪と呼ばれる理由か」
腕に鱗が生えていた。爪も伸びている。
川の水面で確かめると、口の中には牙が生えていた。
瞳が猫のようなそれに変わっていた。
耳の端が、尖り始めている。
いずれ、尻尾や翼も生えるかもしれない。
「でも、まあこれぐらいのリスクはあるよな」
龍を殺すというのだ。
死ぬよりはマシだ。
いや、死んでもいい。
赤龍を殺してからならば。
龍を殺せる存在、龍狩になれるなら、この程度の代償、お安いモノだ。
次回から青年期です。