禁呪・獣魔術
半年後、フィーロは西の海をさらに越えた諸島、その中でもこじんまりとした部族を訪れていた。
「遠路はるばるよう来たのう」
日除けの天幕の下、浅黒い肌をした老人がフィーロを出迎えた。
「親父から話を聞いた。ここが禁呪を扱っている部族で合っているんだな?」
「ああ、その男がどういう伝手で聞いたのか知らんが、合っているよ。まあ人が勝手に禁止しただけじゃがな。どういう術かは聞いておるか」
「魔物を喰らってそれを取り込んでいく」
「そうじゃ。そして我らが目指すのは、生物の頂点である龍じゃ」
「魔物を喰らう事が何で、龍を目指す事になるんだ」
魔物の要素を取り込み、人間を越えた強さを手に入れるという理屈はフィーロにも分かる。
だが、禁呪の目指すモノは違うらしい。
「龍は森羅万象の具現。……もっと分かりやすく言えば、動物植物の性質を全て備えておる。ならばすべての動物植物の要素を取り込んだ人間は、龍になれるのではないかというのがこの禁呪・獣魔術じゃ」
「それなら最初から龍の肉を喰えば、いいんじゃないか? 生はともかく、肉なら龍騎士団が保管してるかもしれない」
魔物の肉を喰らい、それを取り込むというのならば、それが一番合理的だ。
王城に忍び込むのは少々厄介だが、絶対不可能ではないだろう。
だが、老人はかか、と笑った。
「身体がもたぬよ。肉体が爆裂して死ぬぞ。運がよくて発狂した肉の塊じゃ。お主の抱く疑問ぐらい、とうに試しておるわ」
「そうか。で、その禁呪ってのはどうすればしてもらえるんだ」
一応、フィーロの財産と呼べるモノは一通り、持ってきてあった。
「慌てるでない。禁呪と呼ばれるには、一応それなりの理由がある。それを聞いてからでも遅くはないじゃろ」
だが、フィーロは首を振った。
「いや、いい。どうせ何聞いてもやるんだから、直接味わった方が早い」
「そこまで急いで何をする」
「赤龍を殺す」
フィーロの言葉に老人は一瞬動きを止めたが、笑いもせず立ち上がった。
「いいじゃろ。術の準備をするから、この薬を飲んでおけ」
禁呪を授かると、フィーロは小舟に乗って再び海の上の人になった。
「魔物が多いといえば、あそこだな」
戻らずの大樹海と呼ばれるブルーウッドを目指す事にした。




