それぞれのやり方
あれから五年が経過した。
リッパーナ王国の東端、オキナ山中腹がヨーフの隠れ家だった。
その家から五分ほど歩いた先にある、森の広場。
ユージンの金の前髪がわずかに散る。
フィーロの大剣の威力は、それほどまでに凄まじい。
が、その大振りは全て空振りに終わっていた。
「……ねえフィーロ、そろそろやめない?」
ユージンの剣も両手剣だが、フィーロのそれよりも圧倒的に軽い。
というか、フィーロの大剣が人並み外れて大きいのだ。齢十歳で振れるだけでも大したモノだが、その威力に比例して重量も尋常ではない。
「……続ける」
滝のような汗を流しながら、フィーロは無愛想で頑固だ。
「確かにそれ、強いけど、当たらないと意味がないよ」
「そうだな」
「このままじゃ、試験で勝てないんじゃない?」
「一発当てれば、勝てる」
「そりゃそうだけど。フィーロがタフなのは認めるけどさ」
「それよりもっと大きい威力がいる」
ぶん、とフィーロは重い大剣を振った。
汗だくに成りながら、フィーロはまだ素振りをしている。
いつものように、倒れるまで続けるだろう。
一方ユージンは休憩だ。適度な休憩を入れなければ、逆に身体を壊してしまう。
広場の端で、陶器の杯で酒を飲みながら二人の修業を見守っていたヨーフに、ユージンは水を飲みながら尋ねた。
「……って話なんですけど義父さん、どう思いますか? 龍騎士団の入団試験って、現役団員との手合わせもあるんでしょう?」
「まあ、そうなんだが。ただ、あれはあれで正しいんだよなぁ」
フィーロの剣風は、ここまで届いてきそうだ。
「どういう事ですか?」
「ドラゴンは、でかぇ」
「はい」
ユージンの記憶にも、刻み込まれている。
あの龍達は、その一体一体がこの森の木々よりも巨大だった。
「対人とはまったく違う。だから、あの大振りもある意味合理的なんだよ。アイツの想定している対戦相手は、人間じゃない。振りゃあ当たるんだから」
ただ、防御とか完全に無視してるけどな、とヨーフはぼやく。
「……お前らと会った時、龍を殺す方法が二つあるって言ったよな」
不意に話が変わったが、ユージンは頷いた。
「それも憶えています。その一つが龍騎士団に入ることだと。龍の皮と鱗で作った鎧、骨で作った剣。そして人間ならではの集団での狩猟ですよね。ボク達が目指しているのも、それです。でも、もう一つは無理ですよね」
「お伽噺の世界だからな」
無精髭を撫でながら、ヨーフも苦く笑った。
「龍狩。龍と拮抗可能な単一戦力でしたっけ。でも、フィーロなら……」
「無理だっつーの。人のままじゃ龍には勝てねえよ。まあ、それに近付く方法ならあるんだが、お前には伝えとくか……アイツと違って分別があるからな」
ユージンはそれを聞いた。
「ボクには無理です」
それが彼の答えだった。