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学園戦記  作者: 藁部 御門
仲間集めと生徒会活動編
49/50

宿題

 神乃家の朝は早い。


 親父は道場で門下生と稽古に励み、汗臭そうな、男臭そうな声を朝も早いのに叫びまくる。


 そんな声を聞き流し、布団に潜り込み惰眠を貪る。


「天下くん。一緒に朝練しない?」


 布団をかぶり直した直後にドアがノックされ、ついこの間同居人になった人の声が聞こえる。


「おはよう、葵ちゃん。そして、おやすみなさい。俺は朝練には興味ないです」


 冷たく、ドアの向こうに言い返し俺は再び目を瞑る。


「ダメでした」


「こういうのにはコツがいるの。天くんは怠け者だから、多少強引にいかなきゃ」


 ドアの向こうで、葵ちゃんが会話しているのが聞こえる。


 会話の相手は恐らく俺の姉だろう。


 ……姉ちゃん、だと。


 俺の姉が朝早く、俺の部屋の前にいるということを冷静に思い返す。


 思い出せ、天下。こういう時、俺の姉は、


 バン!


「起きろ、天くん!」


 突如俺の部屋のドアが開け放たれ、我が姉が俺のベッド目掛け助走して突っ込んでくる。

「甘いぞ、我が姉よ。いつもは俺が眠っているから簡単にマウントポジションを取られるが、今日の俺の目は冴えている。その程度の攻撃躱してみせる!」


 ベッドに中腰で待ち構える。だが、姉は構わず飛び上がって突っ込んでくる。


「その程度の何の工夫もない攻撃なら簡単に躱せるよっと」


 俺はベッドから転がるように姉のボディプレスを躱す。


「姉ちゃんらしくないね。あんな簡単な攻撃を仕掛けてくるなんて」


「えーと、確かベッドの下のココらへんに前は隠してたよね」


 俺の姉は、俺のベッドに寝そべりながら自らの手を俺のベッドの下に突っ込んでいる。


 ……ちょっと待てよ!


「何やってんの! その手を引き抜け。いいから引き抜け。何も掴むな。そこには何もない。あるのは虚無だ。賢者の里だ。男たちの夢の跡だ。いいからその手を引きぬいてよ」


 俺は泣きそうな顔をして、俺の姉の腕を掴む。


 だが、俺の姉の力は馬鹿がつくほど強い。


 俺の抵抗むなしく、一冊の本を掴む。


「あれ、新作? 前掃除した時は無かった気がするけど」


「やめて、男の子の心をこれ以上壊さないで」


「えーと、JKものか。天くん、中身はどうだった?」


 下衆な顔で俺に聞いてくる。


「……知らねえよ」


 はあ、諦めの境地に立てた気がする。


 ふと、俺はドアの向こうに目をやる。そこにはドン引きしている葵ちゃんが引きつった笑いを浮かべて立っていた。


 どうやら、諦めの境地にたどり着いたあと、更に絶望の海へと俺は飛び降りれたらしい。


 何故か、目の前が真っ暗になった。



◇◇◇

「ゴメン、葵ちゃん。なんか朝から不快な気分にさせたみたいで」


「だ、大丈夫。気にしてないから。うん」


 明らかに反応が違う、葵ちゃんと一緒に登校していく。


 あのあと、ずっとギクシャクした感じのままだった。


 姉ちゃんの悪ふざけは得てして、不利益しか産まないな。


「にしても、もっと忙しくなるかと思ったけど案外生徒会長って暇なんだね」


「今は単に引き継ぎ期間だからじゃない? 今日で終わりのはずだけど」


 会話を変えながら、学園へと続く坂道を登る。


「蒼崎先輩もなんか色々言われるかと思ったけど、何も言ってこないままだな」


 戦挙の次の日、蒼崎空から言われた綏靖学園との対抗戦。それについても色々教えてくれるのかと思ったけど、特に説明もなんもない。


 こちらから聞いてこいということなのか。


「だけど、無駄に仕事増やすこともないか」


 小さくぼやき、俺達はそのまま学園の門をくぐる。


 そろそろ、季節的にも暑さ全快で、多少の距離を歩くだけで汗ばんでくる。


「序列が上がれば色々変わるのかと思ったけど、特に何も変わらないな」


「それは天下くんが何にも行動しないからじゃない?」


「いや、結構色んな人から戦いとか因縁とかつけられるのかなと思ってたんだけど、ずっと静かなまま学園生活を一週間ほど続けてるし」


 ホームルームまで廊下でぶらぶらしている生徒を追い抜きながら、教室を目指し歩いて行く。


「あれ? ちゃんと序列のルール読んでないの?」


 驚いた顔で葵ちゃんがこちらを振り向く。


「どういう事?」


「序列上位は序列上位しか挑めないんだよ」


「えっ!? そうなの」


「そう、序列一番とかだと、確か序列十位以内じゃないと挑戦権なかったはずだよ」


「なるほどね。だから、こうやって平和に毎日を過ごせてるわけだ」


「それにしても、転校生にこの学園の基本ルール教えてもらうなんて」


「ありがとね。俺は基本的に興味あることしか調べないし覚えないんだよ。神楽にもよく言われてたよ」


 話していると、自分の教室へと辿り着く。


 そして、毎日のように俺の幼馴染の席へ目が動く。


 空席なまま放置された席。


 棺先生が片付けようとしたが、序列権限で強引に残してもらった。


 あいつは綏靖学園に転校していった。


 でも、それであいつが俺の親友で無くなるわけじゃない。


 友達の少ない俺は未練がましく神楽のいた形跡を残そうとする。


 けれど、空席のまま、いつも聞いていた朝の挨拶が飛んでこないのは、それはそれで現実をつきつけられているようで、辛かった。


「それで、天下くん。今日の予定は覚えてる?」


「たしか、昼休みに生徒会室に行って、完全に引き継ぎを終わらせるんでしょ」


「そう、今日も色々やらなきゃいけないことあるから、朝のことは引きづらずに元気出してよ。でないとこっちも疲れるから」


 そう言って笑いかけてくる葵ちゃん。


 知らず知らずの内に俺の顔は相当暗かったらしい。


「それは失礼、それじゃ席につきますか」


 座るとすぐに棺先生がやって来る。


 特に連絡事項も無く、すぐに退屈な授業が始まる。


「さて、本日もがんばりますか」






続きます

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