決戦は金曜日、なら今日は木曜日 1
一日の始まりが目覚ましの音である人、雀の鳴き声である人、窓から差し込む朝日である人、幼馴染がお越しに来てくれる人。色々あると思う。
だが、俺の場合は多少特別だ。
「おっはよー!」
ドアが勢いよく開くとともに、我が姉が我が身に向かってフライングボディプレスをしてくる。
それをベッドから転がり落ちるようにして躱す。
「おはよう姉ちゃん。あと、朝一で攻撃を仕掛けるのはやめてくれ」
「なによ。お姉ちゃんとのコミュニケーションが嫌だっていうの」
「そう言って、昔俺の脇腹折ったじゃん! ちゃんと覚えてんだからね」
「もう、小さなこと気にしてたらおっきくなれないわよ」
我が姉に正論は通用しない。ゆえにいつも俺が折れるしかない。……脇腹を折られるのはもう懲り懲りだが。
「はいはい、じゃあ俺は顔洗ってくるわ」
俺はそのまま部屋から出ようとすると、後ろから不気味な雰囲気を感じる。
「どこに行こうというのかな。まだ、姉ちゃんのターンは終了していなのだ」
やばい。
そう思って振り向こうとした瞬間には俺の体はガッチリとホールドされていた。
「やっぱり、弟成分を吸収しないと一日は始まらないよね」
「放せよ。俺は姉ちゃんの奴隷じゃないっつうの」
某猫型ロボットのアニメに出てくるガキ大将のセリフを言いながら暴れるが全く振りほどけない。
だが、そこにこの状況を改善してくれそうな人物が通りかかる。
「あっ、葵ちゃん。助けて」
若干眠たそうに目を擦っていた葵ちゃんが俺の声に気づいてこちらを見る。
その瞬間表情が凍った。
「あ、その、ゴメンナサイ」
そう言ってそのまま階段を降りていった。
「えっ? どうして」
そう思って、現在の自分の状況を思い返す。
実の姉に背中から抱きつかれ、姉は俺の頭に顔を近づけて匂いを嗅いで喜んでいる。
うん、確かに俺も他人がおんなじ状況なら逃げ出しそうだ。
「畜生! 誰か助けて―!」
俺の叫びから、十分後ようやく俺は解放される。
「グスン。もう、お嫁にいけない」
朝から汚された気分である。
「あの、朝はゴメン。別に見捨てるつもりじゃなくて」
「もういいよ。姉ちゃんと暮らしていく上でもうどうしよもないんだよ。ああ、姉ちゃんに早く良い人ができないかな」
葵ちゃんと並んで登校する。家から、学校までの距離はたいしてない。
毎日と変わらない行為に、一つ、いつもと違うものが付いている。
左手に刀を持って登校する。
今日中に学園から許可をもらっておかないと当日扱えないので、きちん申請しなくてはいけない。
登校中、すれ違う生徒たちはみんな、戦挙について大声で話している。
もっぱら話の内容は序列上位者の誰と誰がパートナーを組んだとかそういう話である。
「きちんと情報は仕入れようかな」
学園の中にはそういった情報をまとめて一つの雑誌にしている奴もいる。今年は例年よりルールの開示が遅かったので、出来上がっているかどうか怪しいが。
「そういや葵ちゃん、今日何かしなくちゃいけないことある? ないなら、放課後は別行動にしたいんだけど」
「いいよ。私は真っ直ぐ帰るから、ただ、帰ったら道場に来てくれない? 軽く訓練を手伝って欲しいんだけど」
「了解」
そして、俺達は揃って校門をくぐった。
「おーし、お前ら、今日も元気にホームルームを始めるぞ」
教室に入り、神楽と挨拶をしているとすぐに棺先生がやってきた。
「えーと、取り敢えず全員出席と。あと、連絡事項が二つ。一つが本日は学園内での戦闘は部活を含めて禁止な。まあ、明日暴れまわれるから別段いいだろ。あと、もう一つが明日はホームルーム無しのいきなり戦挙開始だからそのつもりで準備しとけよ」
「はーい」
クラスメイトの何人かが返事をする。
棺先生も言いたいことは伝えたとばかりに、出席簿を閉じ教室を出ようとする。
「お前ら、頑張れよ。明日の結果次第で私の食事が大変なことになる」
あの人、食費削ってまで賭けしてるな。
俺たちに激を飛ばすと、口に火のつけていないタバコを咥え、笑いながら教室を出ていった。
戦挙の前の日の授業はほんとに授業にならない。みんな、明日のことばかりを考え、授業に集中していないのだ。だから、先生も自習にしてしまったりしている。
そんな中、真面目に自習をするでもなく、俺は机に突っ伏して眠る。
不安にで一杯な俺にとって、眠りは一番の現実逃避だった。テストの前日とおんなじである。
「――天ちゃん! 天ちゃん!」
そんな俺を眠りから呼び起こそうとする奴がいる。
「なんだよ神楽。眠れる時には眠らなきゃいけないって誰かが言ってたぞ」
「初めて聞いたよ。それよりもうお昼だよ。一緒にご飯食べない?」
「ああ、別にいいけど、お前今日も弁当だよな」
「そうだよ」
「わかった。購買でパン買ってくるから、いつもの場所に先に行ってて」
そこで、俺は何か忘れていることに気づく」
「あ、そういや神楽。葵ちゃんも一緒でいい?」
そう言うと、神楽は微笑む。
「もちろんいいよ。ボクもあの子には興味があるし」
「オーケー。じゃあ、後でな」
そう言って俺は葵ちゃんの席に近づく。
なぜか、葵ちゃんの席にはお弁当が置かれてあった。
「あれ? 何で弁当持ってるの?」
「気づいてなかった? 私台所で軽く作ってたんだけど」
気づかなかった。というより、毎朝姉の攻撃から立ち直るのに時間がかかってその間全く集中力がなかった。
「じゃあ、もしかして俺の分も作ってくれてたり――」
「しないわよ」
「ですよねー。一人分も二人分も一緒だからって作ってくれてたりしないよね」
露骨に俺が残念そうな顔をすると、多少申し訳なさそうな顔をする。
女の子の手作り弁当を食べるというイベントはまだまだ、遠そうである。
「まあ、それは置いといて、お昼一緒に食べない? まあ、神楽と一緒にだけど」
「いいよ。二人で食べてきたら? 私は一人でいいから」
「そんな寂しいこと言うなよ。一緒に食べようぜ。それとも、神楽が苦手なの?」
「……別にそんなんじゃないけど」
「なら、決まりだ。屋上で食べるから、先に屋上に行く? ちなみに俺は購買に行ったあとから行くけど」
「……天下くんに付き合うわ」
まあ、大して喋ったことのない人間と二人きりにするのも悪いと思い、二度手間ではあるが、一階にある購買に揃って歩いて行く。
「今日は出遅れたから、ロクな飯がないかな」
「何がオススメなの?」
「海老天サンド」
「なにそれ?」
「海老天をパンで挟んで醤油をかけたサンドイッチ。ソースではなく醤油なところが一押しのサンドイッチ。ただし、数量が少なくて、今まであまり食べれていない」
まあ、予想通り購買ついた時には菓子パンが数個おいてあっただけだった。
それを適当に手にとり、会計をすまそうとすると、ふと端の雑誌に目が留まる。
「あれ? もう戦挙関連の雑誌出てるの?」
「ああ、今日の昼過ぎに暫定版をそこに置いていったよ」
購買のおばちゃんに会計をすました後、雑誌を一つ手に取る。
暫定版ゆえに無料らしい。
「葵ちゃん。なかなか、良い物が手に入ったよ」
「何? その雑誌」
「色々と役に立つことが書いてあるかも、しれない本さ」
屋上へとむかいながら、雑誌について説明する
「一応基本は、優勝候補である、序列上位者について説明がある。ある程度知られている能力についても書かれていたりする。だから、一度目を通しておくといいよ。情報は役に立つからね」
「ふーん」
そうやって進んでいると、昨日と同じように嫌な奴に出会った。
「おいおい天下、すっかり転校生と仲良くなったな」
「二階堂くん。こんにちは」
「あのさ、お前、何様のつもり」
「えっ? どういう事」
「お前みたいな底辺の野郎が、何楽しそうに女と歩いてんの?」
「天下くん。こんなのほっといてさっさと行こう」
隣にいた葵ちゃんが俺の手を引いている。露骨に二階堂を嫌っている表情をしている。
「ゴメンね。じゃあ、俺急いでるからまた今度」
「ちょっと待てよ。テメエ、ほんとに偉くなったつもりか? 何、話切り上げて逃げようとしてんだよ」
「何、二階堂くん? もしかしてお腹空いてるの? なら菓子パン分けてあげようか」
ブチ。
目の前の不良の額に青筋が立つ。
ありゃりゃ、どうやら完全に怒らしたみたいだ。
今すぐ殴りかかってきそうである。
「ホントに教育しないといけねーみたいだな」
カチャ!
一瞬振りまいた殺気に葵ちゃんが鋭く反応して、刀を抜きかける。
「おい、転校生。テメエがやるかコラ」
「いいわよ。お望みとあらばいくらでも」
「よくねえよ。葵ちゃん、頼むから手を出すなよ」
「おいおい、弱虫さんよ。何仕切ろうとしてんだよ!」
「二階堂くんも握ったコブシを下ろしてよ」
「ああぁん!」
「ルールを思い出してよ。今日は戦闘禁止だからね。まあ、戦挙前に失格になりたいなら別だけど」
そう言うと、顔の筋肉がピクピクと痙攣している。
無茶苦茶ブチギレてる。
「テメエ、覚えておけよ。地獄見せてやるよ」
「あはは、勘弁してよ」
俺はブチギレてる二階堂の前で茶化すように笑ってその場から逃げた。
二階堂はこちらを睨みつけていたが、追いかけてくることはなかった。
「全く、そんなにすぐキレないでよ。危うく、戦わずに負けるところだった」
「先に殺気を向けたのはアイツよ」
「はぁー、まあ、問題にならなかったからいいけど」
全く持って気が休まらない。
早く神楽と一緒に飯食いたい。
なんかうまく投稿できなかったので、分割です。




