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雪国の王子様の過去。9

 私は魔法を使うことはできない。アレクはいずれ国のトップに立つ。私はその婚約者であり、いずれは妃となる。


 そんな私が情に流されて国益を損なうなどできない。エイリッヒの境遇は同情できる。


 だが、だからと言って婚約者であるアレクの国の利益を損なう訳にはいかない。


「エイリッヒ様のお気持ちはよく分かりました……ですが、何度も言っていますが、わたくしはアレクの許可がなければ魔法は使えません。アレクの元にわたくしを返しては頂けませんか? そしたら、わたくしからアレクに言ってエイリッヒ様の国との友好な貿易の話を…………」

「…………それはできません!!」


 私の話を遮るようにエイリッヒが叫んだ。


 その大きな声に私の体がビクッと震える。


 今まで穏やかな表情を崩さなかったエイリッヒの瞳が私を睨んでいた。


「あなたは何も分かっていない! いずれ王妃となる婚約者を拉致した国家と友好な関係など築く男など存在しない! 男が愛する女性を奪われたなら奪った相手の国に容赦するはずがない! ましてや、それが大国の中でも軍事力最強と言われるアポロノーゼス帝国だ!」


 動揺する私の両肩をエイリッヒはがっしりと掴んだ。


 その手は小刻みに震えている。それは怒りや嫉妬ではなく、明らかに恐怖心から来るものだった。


「僕があなたを誘拐すると決めてから、あなたを手放す気も、あなたと僕との関係を公にする気もない。あなたと僕との子は親族から迎え入れた養子という事にして育てるつもりです。もしかしたら、あなたの子供に大地の女神ガイアの祝福の能力が引き継がれるかもしれない! それだけでこの国未来に希望が持てる! あなたには気の毒ですが、このままあなたにはこの国に留まってもらいます!」

「……エイリッヒ様。でも、わたくしは……」


 エイリッヒの圧に負けた私はそれ以上、言葉を発することができなかった。


 しかし、エイリッヒも私とそれ以上の言葉を交わす気はないらしい。


「あなたのお気持ちが変わるまで、この王城から出す気はありません……残念ですが、これが定めだと思って諦めてください……失礼します」


 エイリッヒはそう言い残すと部屋から出て行った。

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