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第9話 1月13日 実力テスト

学校に通い始めて数日が経った。


授業開始のチャイムが鳴り、課題のプリントを終わらせると、先生と雑談をしたり、他クラスの授業風景を見たり、屋上から体育の様子を見たりと、自由にさせてもらっている。


今は、紫苑のクラスが体育でサッカーをしている。

家ではずっと部屋に籠っているからインドア派なのかと思っていたけど、運動もできるらしい。

遠くで見ている女子たちから、黄色い声が上がる。


あれからも、莉々からしょっちゅうLIMEが届く。

相変わらず、紫苑との仲を取り持ってほしいというものだが、あれだけ可愛くて積極的なら、私のサポートなんていらないだろうにーー。


記憶喪失のせいにして「ごめんなさい」を繰り返すことにしている。


時折、強い風が吹き抜ける。

真冬の空の下では、防寒着をしっかり着込んでも寒すぎる。

衣類では防ぎきれない寒気が、棘のように肌を刺す。

長居は無用。そろそろ保健室に戻ろう。


「ただいま戻りました」


保健室の引き戸を開けると、クラス担任がいた。


若いけれど熱心で、気さくな雰囲気もあって、生徒からの人気は高い。

こういう先生がいると学校も楽しくなるだろうな、と思わせる雰囲気。


「おかえり、橘さん。事情が事情だから、希望すれば免除されると思うけど、一応、確認するね? 来週、実力テストがあります。内申や成績に影響はないけど、どうする? やめておこうか?」


「もちろん受けます。自分の実力を知りたいです」


私は勉強が苦手ではないので、テストは楽しみなのだ。


「えっ……そう? てっきり、やめておくと言うのかと思ってた。ごめんね。橘さんがやる気になってくれて、先生、嬉しいよ」


私の返答が想定外だったのか、担任は驚きを隠せていない。


ーーそんなに驚くことなの?

担任の想定外の反応に戸惑ったが、気を取り直して返事をした。


「はい、頑張ります」



*****



放課後、今日も紫苑と一緒に帰る。


「紫苑くん、来週、実力テストだって。楽しみじゃない?」


「はぁ!?」


紫苑が、驚き呆れたような顔で私を見る。


「だって、頑張ったら成績に出るのって、嬉しくない?」


「この前から、何言ってんの? 勉強は苦手だろうが、お前は」


心底呆れた顔をするので、戸惑ってしまう。



「……そうなの?」


おかしいな。

私はどちらかといえば、できる方だと思うんだけど。

ということは、私よりできる人がたくさんいるってことなのかな。


こうしちゃいられない、家に帰ったら勉強しなきゃ。



部屋に戻り、教科書とノートを開いてみる。


教科書の内容は、普通にわかる。

ーーやっぱり、できる方だと思うんだけどな。


でも、ノートを見て驚いた。

断言して言える。

ーーこれは、私が書いたノートではない。


要点がまとめられていない。

黒板をそのまま書き写しただけの、理解ができていない人のノートだ。


その前に、私、こんな字だったっけ?

横に自分の字を並べて書いてみたのだが、筆跡が違う。


几帳面に丁寧な字で、黒板を書き写しているのはわかる。

でも、私がいくら丁寧に書いても、こんなに綺麗な文字は書けない。


記憶喪失になったら、筆跡まで変わることがあるのだろうか。


もしかすると、記憶喪失じゃなくて、二重人格なのでは?

元の人格とは違う私になってしまっている?


もし二重人格なら、いつか元の人格が戻って来たら、私はどうなるんだろう。

いつか、自分が消えてしまうかもしれないーーそれは怖い。


でも今、この体を動かしているのは私なのだから、私が本体として生きるしかない。

今度、定期通院の時に、相談してみようかな。



*****



数日後、保健室で受けた実力テストも、無事に終った。


結果 学年総合:8位 数学:2位


一応、苦手な教科はあるし。

ケアレスミスもあったから、まぁ、こんなもんでしょ。



「……嘘……だろ……」


廊下に貼り出されている順位表を見ながら、隣で紫苑が絶句している。


「お前、ビリから数えた方が早かったよね……どんな手を使った……」


順位表から目を離せないまま、小声でつぶやいている。



「ほら、言ったでしょ? 何もしてないんだけど、なぜか解けるんだよ。……もしかすると、私は、二重人格なのかも……」


そう言いかけたところで、私の周りにたくさんの人が集まってきた。


「橘さん、すごい!」


「こんなに勉強できたんだね!」


「今度、私にも教えて!」


みんなが私を取り囲み、感嘆の声を上げている。

ーーということは、やはり記憶を失う前の私は、成績が良くはなかった(むしろ、悪かった)ということなのだろう。


「いや、それほどでも」


当然の結果とは思いつつ、褒められるのは素直に嬉しい。

担任からクラス名簿と写真を見せてもらっていたので、この子たちがクラスメイトであることはわかる。


みんな明るくて、楽しそうなクラスだなーーそう思った。

記憶を失ったままでの学校生活に不安はあったけど、私らしく過ごせば、受け入れてもらえるかな。


そろそろ保健室からクラス登校に移行しても、いいかもしれない。

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