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2. 関東惣無事令 -2

 天正15年2月、家康の祈りも虚しく、北条が真田領の沼田攻略に向けて進軍。



 戦自体はいつものように北条があっさりと真田に叩きのめされたため、本格的な部隊展開前に計画は頓挫。

 とはいえ、他の地域でも同様に侵略を継続しており、豊臣秀吉が出した関東惣無事令を完全に無視する形となった。


 しかし秀吉も九州征伐で手が空いておらず対応は後回しにされ、北条から攻められている関東大名達が悲鳴をあげることになる。


 そして、その皺寄せは徳川に回って来る。





 駿府城の空き地。

 等身大の打ち込み用人形に向かってひたすら木剣を叩き込む徳川家康と、縁側に座ってそれを横で眺める鳥居元忠がいた。



「あいつらいい加減にしろよ!ふんっ!少しは大人しくしてろ!ふんっ!」


「殿、北条には口で言っても仕方ありませぬ。かくなる上は実力行使しかないかと」


「...北条は既に関東制覇を間近にしている。石高で言えば徳川の倍はあるだろう。軍を動かしたところで素直に従うはずもない。というか、監視役たる徳川が惣無事令を破るわけにもいかん」


「有力な他大名達と圧力をかけるという手は?」


「奥州の伊達は北条と同盟結ぶらしい。残るは上杉だが、正直あまり乗り気ではないようだ」


「上杉も今は豊臣傘下。主家の指示に従わない理由でもあるのでしょうか」


「心当たりはある。....恐らくウチのことだ」




 家康は木剣を置いて元忠から手ぬぐいを受け取り、汗を拭きながら縁側に腰掛ける。



「惣無事令が出る前から、徳川は関東に対して色々と手を出して来たのは覚えているな」


「はい。真田を攻めて上田で大敗し、その後も局地戦で泥仕合を開催しました」


「...まあそれは横に置いて。惣無事令では徳川が関東の監視役になるとなっておる」


「なっておりますね。上方への取次としての仕事も増えております」


「上杉はそれが気に食わんらしい。上杉は徳川よりも先に豊臣に臣従しており、関東への進出は昔からの望みでもあった。豊臣政権下で関東を差配する地位に就く。その野望が台無しになったわけだ」


「徳川に横から取られたということですね。それが面白くないので協力したくないと」


「それどころか徳川が失敗し続ければ、取次役が上杉に回ってくると期待しているフシもある」


「越後で揉め事を抱えて忙しい割に、なかなか欲深いことですな」



 上杉家。

 上杉謙信の死後、後継者争いを制した上杉景勝を当主とする。


 元々上杉謙信が関東管領を引き継いだこともあり、謙信の時代から関東進出をたびたび試みていた。


 以前から真田とも交流があり、真田は上杉と北条の間に立つ形となる。

 一時は真田も上杉の傘下だったが、好き勝手やって援助を引き出した後に離脱している。そのため、上杉も真田の犠牲者の一人でもある。


 家康よりも早い天正14年6月に上洛し、豊臣家に臣従した。その際にいくつかの領地切り取りの許可などを得ており、豊臣政権内でもそれなりの地位を得ている。

 そのため徳川というよりも、関東に手を出そうとしている大名にはいい顔をしない。


 この時点での関東は、北条・上杉・徳川が互いに牽制し合う状況にあった。




「殿、では当家としては北条は静観する方針でしょうか」


「止めたい、北条を止めたいんだが止める術がない...」


「兵を動かすわけにはいかず、上杉は手を貸すつもりはなし。頼みの綱の豊臣は現在九州方面に出ていて動けず。これはどうにもなりませぬな」


「何とかならんものか」


「真田に沼田を引き渡すよう申し付ければよいのでは?」


「言った。そうしたら沼田の代替地の手配を同時にやれ。そうでなくては従わないと言ってきた」


「真田の立場からすればもっともですな。約束を違えることなど日常茶飯事ですし。さっさと適当な土地でもあてがってはいかがですか?」


「とはいえ適当な代替地のあてがない。徳川の土地を割譲するような真似をすれば、他の大名から舐められる。正直なところ、話を上手くまとめられていないのは自覚している。とはいえ、誰も後に引こうとしないのでどうしたものか」


「とりあえず放置して時間を稼げばよろしいのでは?真田が北条に負ければ沼田問題は解消、負けなければ北条の勢力拡大を止めることができます。北条が真田の当主を仕留めてくれれば大人しくなるでしょうし、どう転んでも徳川に損はありません」


「関東奏者としての面目が丸潰れだな」


「どうにもならないので諦めましょう。それより、ようやく真田が謁見に来ますので準備をお願いします」


「こんな時に会いたくない...。絶対文句つけてくるだろ」



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