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第42話 火葬屋 3

「──えっ?」


 瞬きした瞬間、目の前にはデルシオンさんではなく、巨大な緑色の肌をしたナニカがいた。


 これが依頼で出ていたゴブリンの大将なのだろうか?


 だがしかし、そのゴブリンの左腕は無く、上半身の肉は削げ、肋骨から肺が見えてしまっている。


「よし! 成功したようだな!!」


 だが目の前のゴブリンはそんな深い傷を気にせず嬉しそうに声をあげる。


 そのゴブリンの隣にローブを纏ったゴブリンがいたのだが、力尽きたのか倒れてしまった。


「あの、どうして?」


 私は思わず疑問を溢す。


「……ふむ、では手短に話そうか。まぁ座れ」


 ゴブリンは胡座をかいて私に座るように地面をポンポンと叩く。


 私は矢が刺さり、痛みが酷い太腿を気にしながら座る。


「さて、まずは自己紹介からだな。我の名はカエサル・サンドラ・アルギネス・アルフレッド・ジルコニア・サンリーチェ・ケインズだ。我は覇道の為にここまでやってきたのだが、残念ながらここまでの様だ。そこでだ、勇者よ。少し話を聞いてくれるか?」


「……はい」


 エラく長い名前のゴブリンは思い出に浸るかの様に語り始めた。










 我が生まれた時、そこは人間の腹の中だった。


 その人間は我を産み落とした後、自らの舌を歯ではさみ、地面に顎を叩きつけてそのまま動かなくなってしまった。


 辺りにはその人間と同じ様にピクリとも動かない者や、恍惚とした笑みを浮かべて気が狂った者が転がっている。


 その薄暗い洞窟の中、我は同胞達に育てられ、狩りの仕方、罠の仕掛け方と様々な知識を身に着け立派なゴブリンに成長したのだ。


 本能のまま我は同胞と共に人間共を狩り、そして犯し尽くした。


 しかし、そんな本能とは別に、我の脳に産まれ落ちた時、何者かに刻まれた“使命“が我の本能を上書きしていく。


 それは、


『聖剣の導き手』


 というものだ。


 何を言っているのか分からないだろう。我もあの頃は理解出来なかった。


 聖剣を振るに値する、正しき者に継承する、それが我の使命。


 我ら魔物と聖剣を振る者、所謂勇者は相反する存在だ。


 それなのに何故我がその使命を授けられたのか。


 我はその使命のおかげで群れの中でも一際浮いていた。


 女を犯すのも、男を狩るのも、何もかも嫌悪感を抱くようになってしまったのだ。


 我はゴブリン、なのに人間を殺せない。何故なら我の使命は聖剣の導き手。


 どちらかを選ばなければなかった。ゴブリンとして本能の赴くまま好き勝手生きるか。それとも聖剣の導き手として本能に逆らい、一生縛られた生活を送るか。


 我は──


 両方選んだ。相反する道を、一本の道にする為に。


 結局な話、本能を選んだとしても使命によって、使命を選んだとしても本能によって、どこかで壊れていただろう。


 だから両方選んだのだ。我の為に、相反する道を一本にした道を、それが我の覇道だ。



 そして我は群れのリーダーを殺し、新たなリーダーとなった。


 同胞達を使い各地を転々と旅をし、犯して殺して聖剣を探した。


 そして見つけたのだ、聖剣を所持する分相応の持ち主を。


 持ち主を犯して殺して聖剣を奪った。すると聖剣が我の使命と共鳴したのだ。


 『相応しい者は勇者だ』


 と。


 聖剣は剣では無く、使用者の欲望を力に変える変換器。


 だがそれとは例外の場合がある。それは、使用者が勇者である事。


 勇者が使用するならそれは変換器では無く、欲望を、願いを叶える事が出来る万能器になるのだ。


 







「そして我は見つけたのだ、お主をな」


 ゴブリンは私を見つめる。




 聖剣、もし、その力があれば……




「お主は勇者だ。やっと我の使命も果たす事が出来る」

 

 そういうと私の手に一本の剣を握らせ、


「今渡した物こそが聖剣だ。これで我の使命は果たされた。そして、後は本能に身を任せるのみ」


 ゴブリンはパチンッと膝を叩き、立ち上がる。


 先程の雰囲気とは大きく変わり、何か決断したようにこちらに近付くと、



「さぁ! 勇者よ! 死合おうか!!」



 ──お腹に激しい衝撃が奔り、吹き飛ばされた。


 ゴブリンの少し上がった足を見て、ゴブリンが私のお腹に蹴りを入れた事を瞬時に理解する。

 

「どうした? 早く立ち上がれ。勇者ならば魔の物である我を、人類の敵である我を早く倒さなければならんだろう?」


「ッ……!!」


「さぁ、抜け。でなければ死ぬぞ?」



 私は立ち上がり豪華な装飾の施された鞘から剣を引き抜く。


 透き通るかのような、曇り一つ無い刀身が露わになる。


 身体の芯に何かが繋がるような、歯車と歯車が噛み合ったような、不思議な感覚だ。


「くくっ、そうでなくてはな。さぁ行くぞ」


 ゴブリンは拳を構える。


「はぁっ、はぁっ。一つ、聞いてもいいですか?」


「んん? なんだ?」


 私は剣を持った反対の手でお腹を抑えながら疑問を投げかける。


「──私達、争う意味があるんでしょうか?」


「ふふっ、ふはははっ!! 甘いな。争う意味? 我らは魔物で貴様らは人間だ。魔物は、我々ゴブリンは人間を殺し犯して生きているのだ。人間もそう。魔物を殺して、皮を剥ぎ、耳を削ぎ、それを糧にして生きているのだ。互いに喰って喰われて、そんな関係の我らがわかり合うことなんぞ不可能よ。勇者なら腹を括れ!!」


 このゴブリンの言う事は正しい。

 

 それでも、それでも──


『その人達の笑顔が守れる、それ以外に何が必要?』


 あの時のユリィの声が、心に反響し、今まで心の奥底で凍り付いていた自分の気持ちが溶かされた。


「……それでも、私は───勇者です。どれだけ甘いと言われようとも、それでも私は勇者なんです。魔物や人間なんて関係ない、一人一人に生活があり、一人一人に幸せに思う心があるんです。私は、その人達の幸せを、笑顔を守れる、そんな勇者になりたい!」


 だがら、私は叫ぶ。目の前の彼に向って。


「だから、私は貴方を殺さない!」


 私は剣を構える。


 腕と足の痛みは麻痺しているのか殆ど無い。

 

 心は自然と落ち着いており、今ならなんでも出来そうだ。


「それが甘いのだ。勇者は魔を屠る者、人類に光をもたらす者。その為ならば目の前に立ち塞がる障害を跳ね除けなければならない。貴様のその結論はただ殺したくないから、喋る魔物を殺すと罪悪感が湧くから、ただそれだけの事。そんな事では勇者として成長する事は出来ん!!」


 彼は私の結論を否定する。


 彼の言う通り、私は逃げているだけなのだろう。


 敵であっても、罪悪感が湧くから、胸糞が悪くなるから殺さない。


 そうだ、逃げているだけなんだ。

 

 ……それでも、


「それでも私は────他者の死によって成り立つ成長は、成長とは認めない!!」


「そうか、それが貴様、いや、お主の答えか。ならば後悔させてやろう!! 我に負け、組伏せられ無残にも嬲られ、泣き叫ぶお主の姿を見せてもらおうか!!」


 彼は腕を大きく振り、拳が空気の抵抗を一切感じさせることの無い速さでこちらに突き出される。


 どうすればいい? どうすれば殺さずに済む? 


 拳が私に到達する刹那、一つの閃きが脳から身体全体に伝達される。


 成功するか分からない。もし成功してもそれが幸せなのかも分からない。


 でも、これしか方法が思いつかない!


 私は拳を紙一重で避け、剣を振るう。


 聖剣の刃は、彼の肉体を切り裂く事は無く、そのまま通り抜けた。


 



「……お主、今、何を斬った?」


 拳を下ろし、こちらを振り向き私に尋ねてくる。


「貴方の本能を斬りました。闘争心、加虐心、その全てを斬りました」


「くっ、くくく。それが聖剣の力か。不思議と心が落ち着いておるわ。先程までお主の事を殺し犯したくて仕方がなかったのだが、そんな気持ちが一気に晴れてしまった。我の負けだ、勇者よ」


 彼はドサッと地面に座り込む。


「私は見つけます。こんな薄っぺらい勇者ですが、この世界に住む全ての生物が幸せになれる方法を。だから見てて下さい」


 私は彼の前にしゃがみ込み自分の気持ちを伝える。


「私の考える幸せは、所詮人間目線で語る、独りよがりな幸せなのかもしれません。それでも、死んでしまえば、そこで終わり。死んでしまえば幸せを感じる事が出来なくなってしまう。だから、殺すのは────」


 そこまで言った後、この結論に至る前に沢山のゴブリンを殺した事を思い出す。


『殺すの駄目』


 その結論を、私に言う資格は無い。


「だから甘いと言ったのだ。結局犠牲無くして前には進めん。だが、そこで“殺すのは駄目“と言わなかったは、お主が馬鹿でないという証明だ。お主も犠牲無く前に進めないという事を理解しておるのだろう。だからこそお主は理想を、犠牲の生まれない道を探すのだ。それこそがお主の覇道」


 覇道。


 そう、彼が言うように私が歩もうとしているのは修羅の道。


「必ず辿り着いてみせます。私の歩む道の先にある、唯一の結論に」


 だけれども、それが歩みを止めていいという理由にはならない。


 どれだけ辛い道だとしても、どれだけ険しい道だとしても、歩き続けなければならないのだ。命ある限り。



「そうか…………良いか? 言っておくが我は貴様ら人間にしてきた事を謝罪も反省もしない。全て我らが生きる為にやって来た事だからな。だが、勇者よ。そんな我だが、お主に頼みがあるのだ」


「──お主のやり方で、我の同胞達の仇を取ってくれないか?」


 彼は頭を下げる。身体を震わせながら。


「この惨状を作り出した奴がどれ程の力を持っているのか、予想は出来る。我では絶対仇は取れないと。だから、頼みたい」


 私は黙って頷く。


 私なりのやり方で、あの火葬屋と呼ばれる者を倒す。

  

 立ち上がり、彼に背を向けて、デルシオンさんの所へと向かう。


「最後に聞きたい」


 座り込む彼がこちらを見て尋ねてくる。


「お主の名は?」


 私も彼の方を見てこう答えた。


「私はアセビ。勇者アセビです」











「……あれ?」


 急いで向かっている途中、目眩に襲われ、倒れ込んでしまった。

 

 それはそうだろう。怪我の止血もせず放置していたのだ。血が足りないのだろうか?


 呼吸しようも酸素が入って来ない。


 不味い、せっかくここまで来たというのに。


 勇者である意味を見つけたというのに。死んでしまうのか?


 嫌だ、まだ死ねない。


 私はポーチから一本の小瓶を取り出す。


 ユリィの師匠が作った薬。必要な時に飲めと言われていた薬。

  

 必要な時、その時が今だ。


 私はコルクを引き抜き、勢い良く中身を飲み干す。


 苦く、そしてまたあの時の様に、身体が熱くなるのであった。


 全ては、勇者としての務めを果たす為に。



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