第40話 火葬屋 1
爆風にさらされて吹き飛ばされそうになるがなんとか踏ん張る。
落ちてきたあの炎の塊、あれは一体何なんだ? 粉塵と黒煙が場を包み視界を一瞬にして奪う。
「ふぅ、到着だな」
少しして視界が晴れた後、爆心地から一人の男が姿を現した。
真紅の髪を持ち、精錬された筋肉を纏い、途轍もないオーラを周囲に漂わせた男、額には角が生えており人間では無いことが分かる。
この男は……?
「おっと、お前が勇者か? なら話は早いな」
そう言うと私に向けて手を向けて──
「危ない!!」
背後からユリィが私を押し倒す。向けられた手から炎が吹き出すのが見える。
もしユリィが押し倒していなければあの炎によって灰にされていた所だろう。
「へぇ? やるなぁ」
ユリィは私の背中を掴み無理矢理立たせて後ろに突き飛ばす。
「あんた、何? 急に現れたかと思えばいきなり攻撃してくるなんて」
「おっと強気な嬢ちゃんな事で。すまねぇな、こっちにも事情があるから仕方ねぇんだ。別に後ろにいる村人達に嬢ちゃんにも危害を加えるつもりはねぇよ」
「じゃあなんのつもり? まさか私の後ろで転がってるこの子に様があるなんて言わないわよね?」
私を指差して相手を睨みつけるユリィ。男は頬をポリポリとかきながら、
「御名答、良く分かったなぁ。その子に用があるんだ。その子をこちらに引き渡せばここに居る全員生きて帰してやる。でも、引き渡さなければ……分かるよな?」
「いいえ? 分からないわ。消し飛びなさい!! 風の魔精よ 刃となりて敵を切り裂け」
ユリィは詠唱し魔法を発動する。しかし、
「無駄だよ」
身体に当たる直前、炎が身体から巻き起こり、風の刃を消滅させてしまった。
「俺には攻撃は通用しねぇよ? 諦めな、お前らも」
男の背後を見るとゴブリン達が弓を男に向けて放っているが見えた。しかし矢が男の身体に到達する前に燃え尽きている。
「んー、面倒だな。一撃で終わらすかな」
男はそう言い片手を空に向ける。片手の上が空間が捻れているように、何かを吸い込んでいるように見えた。
暑い、暑い、暑い熱い!
周囲の気温が急激に上がっていっているのがわかる。このままだと蒸し焼きにされてしまう。
「アセビ!!」
ユリィが私を抱き締め男から庇う様に背を向ける。
そして、周囲が目を焼くほどの光量に包まれた。
「ふぅ、キレイに焼けたな」
男の声によって目が覚める。
目の前には先ほどと同じ状態でユリィが私を抱き締めていた。
「……ユリィ?」
「良かった、無事なようね」
彼女は私の安否を確かめた後、安心したのか一息つく。
彼女の背中に目をやると、彼女の背中は人の肌とは思えないくらいに黒く、焼き爛れていた。
そんな状態にも関わらず彼女はあっけらかんとした表情を浮かべている。
「アセビ、逃げて。私達が勝てる相手じゃないみたい」
「ユリィ?」
逃げる? 何を言っているのか良くわからない。理解出来ない、理解したくない。でも嫌でも理解してしまう──
目の前の男との圧倒的な力の差を。
周囲には私とユリィ以外誰もいない。ゴブリンの群れも、村人達も。
残っているのは人だった、またはゴブリンだったと辛うじて判別出来る炭だけ。
勝てる訳が無い。勝てる道理が見つからない。
何故こんなことに? 何故私を狙う?
ここにいた村人達はこいつに文字通り消し炭にされた意味があったのか?
全て私のせいなのか?
吐き気がする、身体の震えが止まらない。脳裏に映る明確な死のビジョンがそうさせる。
「アセビ、立って。早く逃げて」
ユリィは立ち上がり私に背を向け、この惨状を作り出した張本人の元へと歩いていく。
「お前、すげぇな。そんな半分炭みたいな身体で良く動けるな」
「さぁ、なんでかしら。もう痛みなんて感じないし治ったんだと思うわ」
辞めて、行かないで。一緒に逃げてデルシオンさんと合流して一緒に戦えばなんとかなる筈でしょう?
なんで私なんかを庇ったの? こんな弱い私を。
「一つ聞いていいか?」
「どうぞ。なんでも答えるわ」
「どうして庇うんだ? 最近あったばかりのそいつを。助けて良い事でもあんのか?」
「そうね……」
ユリィは少し悩んだ素振りをして、私の方に振り返りこう言った。
「それは──」
気付けば私は足を矢で射抜かれた事も忘れ、必死に森から荒野になったこの地を涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらみっともなく走っていた。
聞きたくなかった。
「──友達だから。この子の笑顔が見れなくなるのは寂しいでしょ? それに、人を助けるのに見返りを求めるなんて無粋よ。その人達の笑顔が守れる、それ以外に何が必要?」
友達、友達、そう、友達。
友達なんだ、私とユリィ。それなのにこのザマだ。
何故私は逃げているんだ? ユリィを置いて。
友達なら、一緒にあそこであの男に挑むべきだったんだ。それなのに私は逃げ出した。
何故、何故何故何故なぜ!!
答えはもう分かっている。
死にたくないからだ。
もう二度とあんな体験をしたくないからだ。
自分が消えていくという恐怖を思い出してしまったから。
私なんかが何故勇者に選ばれたのか。
こんなにも臆病な私が、こんなにも弱い私が。
もっと相応しい人がいる筈だ!!
もう既に私の人生、日野山楓の人生は終わっているんだ!!
トラックに轢かれ、血塗れでアスファルトの上で転がってそのまま死んだんだ!!
それなのになんでまたこんな辛い目にあっているんだ!!
これ以上私に何をさせるつもりなんだ!!
これ以上私を苦しめるのは辞めて!!
死にたい、死にたくない、死にたい、死にたくない、死にたい、死にたくない、死にたくない死にたくない──
逃げる時に拾ったのだろうか、手にはいつの間にか父から譲り受けた剣が握られていた。
このままいっそこの剣で自分の首を掻き切れば……
そう思った時、ふと、私の頬に誰かが触れ、指で涙を拭った。
目を開けるとそこには、
「勇者? 大丈夫か? 何があった?」
心配そうに私を見つめる、デルシオンさんの姿があった。




