第32話 水浴び
32話目投稿しました!
33話は明日か明後日になると思います!
今回は少し短めです!
「やるな? 勇者! さぁもっと打ち込んでこい!!」
「ハァ、ハァ、はい!!」
あの日から2週間経過した。
毎日地味な依頼をこなしながら生活し、その合間にこうやって勇者と手合わせしている。
今では最初とは比べ物にならないくらいメキメキと腕を上げており、俺でもヒヤッとする場面が多くなってきている。
「よし、今日はここまでにしようか。日も暮れてきたしな」
「はい……ありがとうございました」
ここは迷いの森近くの開けた場所、付近に川もあり汗を流す事が出来る、訓練には最適な場所だ。
「すみません、汗で気持ちが悪いので川の方に行きたいのですが……迷ったら困るので一応付いてきて貰えませんか?」
「え? あ、あぁわかった」
いつもはユリィがついて行っているのだが今日は師匠と薬の研究をするという話でこの場にいなかった。
困惑しながらも俺は彼女の後に続いた。
「すみません、付き合わせてしまって」
「いや、気にするな。またあんな事になったら困るしな」
今、彼女は俺の背後で服を脱いでいる。
その間に流れる無言の時間がとても苦しい。
木に背を預け目を閉じ、勇者の様子を覗く下賤な輩がいないか強化魔法を連発して辺りの警戒をする。
しかしそのおかげか彼女の息遣いやシュルシュルと布が擦れる音、カチャカチャと装備を外す音。生々しい音がクリアに聞こえる。
すまない、そんなつもりじゃないんだ!
俺は咄嗟に耳を塞ぐ。
馬鹿か!? これじゃ辺りの気配が察せないだろう!?
そんな葛藤をしていると、
「あの、デルシオンさん?」
「なっ、なんだ?」
「一緒に浴びませんか? もう暗いですしユリィが心配します。それにそっちの方が時間短縮になりますし」
こいつは何を言ってるんだ? 気でも狂ったか?
「いや、遠慮しとくよ。そんな気分じゃ無いしな」
「でもそれだとまたユリィに言われますよ? 臭いって」
「あぁ……だけれどもなぁ。いいか勇者、良く考えてみろ? 俺は男でお前は女の子だ、わかるな?」
「?」
え? なんで分からないんだ?
「……なるほど、別に私は気にしませんよ? デルシオンさんなら尚更です」
「は?」
「デルシオンさんはお父さんみたいで安心するんです、年齢が離れてるってのもあるかもしれませんけど」
……一瞬心が揺らいだ。
俺は最低だ。俺は勇者を、アセビを、日野山楓を殺している。
そんな俺が彼女にそんな欲を抱いてしまう事が腹が立つ。
苦しい、何故彼女は俺の事をただのおっさんと思ってくれないのか? 何故危機感を抱いてくれないのか?
もしこれが俺でなければ獣の様に襲いかかっているところだろう。
「俺が気にするんだ、勘弁してくれ」
「遠慮せずに、さぁ」
その声がえらく近くで聞こえたかと思うと何かに腕を掴まれる。
「え?」
俺はそちらを見ると、一糸纏わぬ姿の勇者が俺の腕を掴んでいた。
何時も二つくくりのおさげの黒髪はとかれており、ストレートになっており、少し水が滴っているのが欲を呼び覚まされそうになる。
16歳にしては凹凸の少ない体を特に恥ずかしそうな素振りをせず晒しながら、俺の腕を引っぱる。
「デルシオンさん?」
俺は残った強化魔法を全て使用して自分の顔を殴り付ける。
このままこの記憶を消し去ってくれと願いながら意識は闇へと落ちた。
デルシオンさんが何故か自分で自分を殴ってそのまま気絶してしまった。
本当にどうして?
そのまま地面に寝かすのも悪いので服を着た後彼の頭を私の太腿の上におき、頭を撫でる。
「ふふっ」
自然と笑みが溢れる。
あの日からか、彼の姿を見たり触れたりすると胸が疼くのは。
この気持ち、前世では感じた事が無かった。
父みたいに安心すると言ったがそれは嘘ではない。
でも、前世でも現世でも父に対してこのような気持ちを抱いたことはなかった。
あの日と言ってもそのキッカケがぽっかりと抜けているような感覚。
いつか思い出すだろうか、そうすれば彼に対するこの気持ちも分かるかも知れない。
私はデルシオンさんが目を覚ますまで頭を撫で続けた。
結局目を覚ましたのは約一時間後、ユリィに怒られるのは当然の結果だった。




