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第3話 火葬屋 上



 

 金属がぶつかり合う音、人々の歓声、生臭い血の香り。


 ここは地下闘技場、ギルドガンド王国の都市の一つ、サウスターの地下にある違法賭博場。


 俺はここで今も死線をくぐっていた。


 目の前の敵はリーチは短いが軽いフットワークと素早い連撃を得意とする二刀流。


 大剣を使う俺にはめっぽう相性の悪い相手だ。


 今も的確に俺の攻撃を受け流し、懐に潜り込もうとしてくる。


 懐に潜られたが最後、一瞬の内にその攻撃をくらい、やられるだろう。


 大剣を構え直し次の攻撃に備える。


 相手は俺目がけて突っ込んできた、俺は敵の突撃に合わせ、ぐっと力を入れ大剣を左横に薙ぐ。

 

 相手は難無くそれを受け流しそのまま攻撃を行う。



「だが甘いな」



 俺は切り札を切る。


 俺に許された唯一の魔法、瞬間的に身体能力を上昇される魔法。


 強化された筋力任せに、左に振るった大剣の遠心力を無視し、右に振るう。



「なに!?」



 相手は反応する事が出来ず、そのまま胴体に──


 決まる事は無く、既止めた。



「ま、まいった」


「決まったーーー!! 勝者は今大会初出場! デルシオンだーー!! 次は決勝戦!! 彼の活躍に目が離せません!!」



 何とかここまで来た。


 彼女の力になる為にはもっと強者と戦い、経験を積まなければなら無い。



「よくやったぞデルシオン!」



 控室に戻るとヤバラ商会会長のサイレスが話しかけて来た。

 

 彼は俺が転生した頃、貧民区で空腹で死にそうになっていた時に拾ってくれた恩人だ。


 そこから俺は転生してから18年間、このヤバラ商会で用心棒をして生活している。



「フッフッフ、お前のお陰でまた儲ける事が出来そうだ」



 彼はニタァと悪い笑みを浮かべる。

 正直な話、うちのヤバラ商会は悪い評判だらけだ。


 詐欺まがいの商品販売にこのような違法賭博に、魔草、前世で言う麻薬取引など様々だ。



「商会の顔がこんな所にきて大丈夫なのか? また評判が悪くなるぞ」


「これ以上悪くなった所で何も変わらんよ。それより次が決勝の様だな。必ず勝てよ、儲けれなくなるからな」


「儲けの話はそこらへんにしといてくれ。決勝の相手、闘王だったか? どれくらい強いんだ?」


「話ではこの大会に11回も出場しその全て優勝している猛者らしい」



 この大会に出場している戦士達はピンキリだ。 


 俺が今まで当たった戦士達は強かったが、次元を越えている訳では無く、人間の物差しで測れる程度だった。


 その闘王とやらは相当強いだろう、気を引き締めなければならない。


 時間だ、入場口に移動する。



「さぁーて決勝戦!! 今回もその無類の力を示してくれ我らが闘王!! ルーザリアス!!」 


「対するは今回初出場! 彼が振るう大剣は対戦相手の武器と心を折ってきた!! 彼の一太刀は闘王に通用するのか!! デルシオン!!」



 入場口に設置された鉄格子が上に上がっていく。


 高鳴る鼓動に手を当て落ち着かせ、前へと進む。


 中心へと歩き進めたが、向かい側の鉄格子から闘王が出てくる気配がない。



「おぉっとぉ? 闘王の姿が見えないぞ!? これは一体どういう事だぁあ!?」



 心配そうな声色なMCと、ざわめき始める観客席、ここ一帯に異様な雰囲気が漂っていた。

 

 コツ、コツ、コツ、と向かい側の入場口から足音が聞こえる。


 そして姿が見えた。


 

 上半身裸で精錬された筋肉を纏う体を惜しげもなく晒していて、腰には一本の剣を携え、肩には黒い何かを担いでいる。


 何色にも混ざらない、真紅の髪を持ち、額からは人間では無いと誇張するかのように角が生えている。


 ゾッとするような寒気と共に、圧倒的な実力差を感じさせる覇気。



「だ、誰なんだ!? 闘王じゃないぞ!?」



 司会がそう叫ぶ。

 闘王じゃない? どういう事だ?



「なんだ? 闘王? 大層な二つ名だなぁおい?」 



 目の前の男はそう言うと、担いでいた何かを投げ捨てる。


 よく見るとその黒い塊は人間の形をしていた。


 多分だがこいつの口振りからコレが闘王なのだろう。



「よく聞け人間共!! 俺は魔王軍四天王が一人、火葬屋ペスカトーレ様だ!!」



 魔王軍だって!? 観客席では悲鳴や怒声が聞こえ始め我先に闘技場から出ようと騒ぎ始める。



「魔王様の命により、ここに居る人間全員蒸し焼きにする事になった! 観念するんだな!」



 ペスカトーレと名乗る魔族は左手を上に突き上げる。

 

 手の中心には炎の塊が浮いており、それを握り潰す。


 その瞬間、周囲は急激な温度の変化と共に会場が炎に包まれた。



「これは紅蓮地獄、この中に入ってしまったが最後、俺が能力を解除するまで出る事は出来ないぜ」

 


 どんどん温度が高くなっていくのを感じる、このままではこいつが言った通り、蒸し焼きになってしまうだろう。



「しかし、だ。俺には違う目的がある! それは強者と戦う事だ! そこで一つ考えた! 誰か一人、俺と勝負して一撃でも当てる事が出来たらここに居る全員を見逃そう!!」


「俺がやる」



 俺はその言葉を聞いて即座に返事をしていた。


 勝つとなったらまず無理だろう、しかし一撃でも当てる、それなら可能性が無いわけではない筈だ。 


 それにここには恩人のサイレスが居る、恩を返すのは今しか無い。

 

 ……そして勇者の力になるのならこんな所で止まるわけにはいけない。



「なんだお前か? 俺の相手は? 魔力を全然感じねぇなあ、10秒持つのか?」

 

「これでもここで行われていた大会で決勝戦に進出する筈だったんだがな。まぁお前がぶっ潰しちまったが」



 俺はペスカトーレに一歩づつ近付き、大剣を鞘から抜き正眼に構える。



「やる気満々だな? その心意気は嫌いじゃ無いぜ」



 ペスカトーレも腰に下げる剣を引き抜く。



「名前を聞いておこう、名前は?」



 俺は緊張を抑えるように大声で、堂々と答える。



「ヤバラ商会用心棒、デルシオン! 行くぞ!!」



 足に力を込め一気に飛び出す。



「デルシオン、俺を楽しませてくれ!!」



 無謀な戦いが今、始まってしまった。


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