第4話 火葬屋 下
不味い、何も通じない。
何合も打ち合っているが、いとも容易く受け止められる。
「どうした!? そんなものかぁ!?」
圧倒的な実力差が目に見えて分かる、しかし攻略の糸口は全く見えない。
「へばんなよ!!」
鍔迫り合いになったがとんでもない力で剣を押し返される。
そしてガラ空きになった胴体、肩から腰に斜めに斬りつけられた。
「糞ったれ!」
後ろに跳び、距離を取る。
致命傷ではない、まだ戦える!!
腕は動く、脚も動く、魔法もまだ使える、まだこれからなんだ!
しかし、距離を取ったは良いが前へと進む事が出来ない。
脚を見ると黒いモヤがかかっているように見える。
何かの魔法か? そう思ったが直ぐに違うと理解した。
俺はコイツに恐怖している。
今までの戦いは盗賊や傭兵など人間ばかりだった。
そいつ等に俺の攻撃を防がれた事は無かった。
しかし、目の前のコイツは次元が違う。
俺の攻撃を子供とでも遊ぶかのように軽くいなす。
そして今の攻撃で、コイツが1ミリたりとも全力を出していない事に気が付いてしまった。
「じゃあ次はこっちから行くぜ!」
そう言った瞬間、いつの間にか間合いを詰められ、俺の首元に恐ろしい速さで剣が向かって来る。
「クッ!」
それを強化魔法を使用し、何とか回避すると共にもう一度距離を取る。
「ほぉ? 魔法か、なんだ使えるじゃねぇか。強化魔法か? でもその効力は一瞬、しかもお前の魔力量じゃ後2、3回って所だろ?」
こいつの言う通り、俺の身体に流れる魔力はこの世界の人間と比べると極端に少なく、強化魔法を使えるのは1日5回までだ。
今日は先の戦いで1回とさっきの合わせて2回使用した。
残り3回、先程のように回避に使っていてもジリ貧だ、攻め手を失ってしまう。
守っていたら勝てない、攻め続けなければ!
相手は突きの構えでこちらの動きを見ている。
行くしかない。大剣を肩に担ぎ、強化魔法で一気に距離を詰める。
まだ効力は切れていない、全力を込め大剣を振り下ろす。
しかしそれも軽く受け流され腹、左胸を瞬時に突かれる。
「グフッ」
呼吸が出来ない、しかしまだ終わりじゃない!
流されて地面に向けられた大剣を無理やり相手にぶつける様に振り上げる。
その攻撃も身体をずらされ回避され、俺の右肘に剣が突き刺さる。
強烈な痛みが走り大剣を手放してしまう。
咄嗟に左手で拾おうとするが、右肘に突き刺さった剣を引き抜きそのまま様々な部位を突かれる。
「もう終わりか?」
相手は気怠げに剣の腹をポンポンと叩く。
俺は大剣を握り、持ち上げようとしたがとても重く、持ち上がらない。
まるでこれ以上戦っても無駄だと伝えているかのように。
無理だ、勝てない。
何故挑もうと思ったのだろう。
もし俺が挑まなかったら、誰かがコイツを倒して居たんじゃないかと、様々な気持ちが剣を持ち上げようとすると心の中から溢れ出す。
でも、駄目だ、ここで死ぬ訳には行かない!
勇者の力になると決めたんだろう?
恩を返すと決めたんだろう!?
ならここで諦める訳には行かない!
魔法がろくに使えないから何だ?
力の差が天と地ほど違うからなんだ?
ただそれだけで負けと決めつけるな!
活路を見出すまで耐えて耐えて耐え抜くんだ!
俺にはまだあいつに一撃を与える事ができる左腕がある、希望へと進む脚がある。
考えろ! 考えるんだ!
「……なぁ? 何でそんなにアンタは強いんだ? 魔族だから? 人間じゃないから?」
──ふと、疑問が口から溢れていた。
「ふっ、それは力を望む欲望があるからだ、この世界は自らの欲望の質、大きさにより強さが変わる! お前にあるか!? 食事をするより睡眠をとるより性行為をするより大きな欲望が! 欲求が!」
欲望……欲求……俺は…………
──生きたい、決意を果たすまでは死ねない。死にたくない!
右腕の感覚が急に戻る。
そちらに目をやると、先程の傷跡を塞ぐかのように肉が動き、みるみる内に治っていく。
これは?
相手はこちらに気付いていない。何がなんだか分からないがやるしか無い!
俺はある人物を目を必死に動かし、探した。
そして、観客席にいたサイレスと目があった。
サイレスはその瞬間何かを決心した顔付きになり、観客席から転げ落ち、俺達が居る戦場に足を踏み込んだ。
「ま、待ってくれ! そいつは私の息子なんだ! 私はどうなっても構わない! なんでもやる! 金か? 土地か? だから頼む! 見逃してやってくれ……」
サイレスは地に額を擦りつけ頼み込んでいる。
誰にでも高慢な態度を取っていたサイレスとは思えない程弱く、頼りない姿だった。
しかし、それでも、今まで見た中で一番格好良く見えてしまった。
「そう言われてもなぁ? これは決闘だぜ?」
ペスカトーレはサイレスの方を向き頬をポリポリとかく。
──ありがとう、サイレス。
これで注意が他所に向いた。
俺は強化魔法を使用し大剣を掴み、そのままの勢いを持ってペスカトーレに突っ込む。
気付いてこちらの方を向いたがもう遅い、相手の突きの攻撃を跳躍して回避する。
そして空中から全体重を乗せた大剣を振り下ろす。
グサッ、音が聞こえた。
「デルシオン!!」
サイレスの悲痛な叫び。
目の前には剣を突き出したペスカトーレの姿。
空中で止まった身体、俺の渾身の一撃は胸から背中にかけて生えた剣により防がれてしまった。
「少しヒヤッとしたぜ。なかなかやるな?」
だが、これでいい。これでヤツの攻撃の手段は封じた。
俺は大剣を手放す。
「……お褒めに預かり光栄だ!」
最後の強化魔法を使う、そして両手握り合わせ、相手の脳天に振り落とした。
「ぐぼぉ」
まどろむ意識の中、最後に聞いた声は、情けなくうめくペスカトーレの声だった。




