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第十話 幕間2 ガールズトーク

 時は少し巻き戻る。


鉢伏三色が夢前美跳と神社でカロリーメイトを食べている頃。日曜だというのに遺憾なく暇そうな様子のJK二名が喫茶風見鶏に集っていた。


 一人は、スウェットとデニム地のシャツを重ね着しミニスカートと合わせた赤みがかった茶髪の活発そうなショートカット少女。もう一人は豊満なバディーを地味な灰色のパーカーに押し込みジーンズを履いた陰鬱な雰囲気の長い黒髪の少女。三色の友人御手洗椿女(みたらいつばめ邪田括子やたくくるこであった。


「はあ………」


 陰鬱な少女は陰鬱にため息をつく。長い前髪の隙間からのぞく視線は窓の向こうはるか遠く。


「三色は大丈夫だろうか………」


 括子の呟きに椿女は苦笑する。


「今日何度目だよその言葉。そんなに気になるなら付いていけば良かったのに。なんならあたしが見てきてあげようか? それとも二人でストーキングしちゃう? みっきーはお馬鹿だから今どこにいるのってメールで訊けば教えてくれると思うよ。おお?! それ名案じゃん!! どうせ暇だし今から行くべ!! そんで二人の御デートの様子をじっとりねっとり観察するの! ふおおおお!! 盛り上がってきいたああいいっ?!」


 今日も今日とてやかましい椿女のマシンガントークが悲鳴に変わる。向かいの席から手を伸ばした括子がビシッとデコピンをキメたのだ。


「アホかお前は。そんなこと出来る訳ないだろう」


 呆れた様に言う括子に椿女も「ですよねえー」と赤くなったデコを押さえながら同意する。常々空気が読めないと他人から評される二人であるが、友人のデートに茶々を入れるほど無粋ではない。


「それに私は別にあんなアホのことなど心配していない」

「はいはいツンデレツンデレ」

「ツンデレ違うわ」


 クールに突っ込みを入れる括子だが、彼女が人一倍友人思いであることは付き合いの浅い椿女にも分かっていた。その証拠に、


「はあ………」


 椿女を睨むのもそこそこにまたも括子は窓の外に目を遣ってため息を吐くのだ。その様子はほとんど、一人息子をどこの馬の骨とも知れない女に攫われたオカンのようであった。


「まあ気持ちは分かるけどね」


 再び苦笑いつつ椿女も窓の外に目を移す。


「なにしろみっきーは全然モテないからねえ」


 その言い草に「酷い奴だなお前は」と返しつつ括子は否定しない。


「あいつはなんというかあまり女を女扱いしない奴だからな」


 うんうんと椿女は頷く。


「そうなんだよねえ。絶対女の子の荷物持ったりしないタイプ」


「喫茶店なんかで席に座るとき連れの女の子の椅子を引いてやったりもしないだろうな」


「だよねだよね。あとお会計も割り勘とか!!」


「ありえるな。普通男子は女のほうが金を出そうとすると嫌がるものだろうが、三色はむしろ喜びそうだ」


「うひゃひゃひゃひゃ!! 確かに!!」


 ウケつつ椿女がズビビーとオレンジジュースを啜る間に、括子はケーキをフォークでつつく。三色がどうしているかと思うと、いまいち食が進まない。


 ここには昼飯を食べにきたのだが偶然暇つぶしに来ていた椿女と出会い、同席しているのだ。おかげでそもそも気になっていた三色のデートの様子がますます脳内に占める割合を高くしてしまっていた。括子としては別に心配しているつもりはないのだが。


「とにかくみっきーは女心が分かってないんだよね! 別に女の子は本当に荷物を持って欲しかったり、椅子を引いて欲しかったり、奢って欲しかったりするわけじゃないんだよ。むしろそういう心遣いそのものが欲しいって言うかね。そういうことしてもらったらなんか愛されてるう~あたし彼に愛されてる~って感じするじゃん」


「まあな。その彼とやらにそれだけの価値がある女だと思われてる気はするかもな」


「そうそう! まあでも」


 さんざん三色をディスっていた少女二人が顔を見合わせる。そこには共通の認識が浮かんでいた。


「男友達としてはすごく付き合いやすいけどね。あっちが女の子だからって気を遣ってこない分、こっちも変な気を遣わなくて済むし」


「まあな。あれで意外と懐の深いところもあるしな」


「うーん。懐が深いって言うか人間に対する許容範囲が広いって言うか?」


「そうかもな。普通の人間はひっかかったりカチンとくるところを平然とスルーしたり」


「普通は嫌いになっちゃうような言動を許せちゃったり?」


「ああ」


 答えつつ括子は冷めた紅茶をスプーンでかき混ぜる。


「おかしなやつだよ」


 だがそのおかしな奴がいたおかげで、自分たち四人はこうして友達づきあいの真似事みたいなことが出来ている。


 それぞれ性格や言動に問題がありどこにいても余ったパズルのピースのようだった自分たちが極めて緩くだが繋がっている。


 それは三色が自分たちを必要とし頼ってくれるからだと思う。そして彼が自分たちに好意を向けるのはたぶん三色自身も歪な形をしたピースだからだろう。


「………もしかしたら三色とあの傲慢な女は相性がいいのかもな。むしろあの女と付き合あえるのは三色ぐらいなのかもしれん」


「いやー。相性はともかくとしてやっぱ無理っしょみっきーは。女子はやっぱ自分を女の子扱いして欲しいもん」


「………だな」


 結論はやはりそこに落ち着く二人であった。


「三色は大丈夫だろうか………」

「あー。またくるちゃんみがみっきーを心配してるー」

「心配なんかしてない。あとくるちゃん言うな」





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