6話目 【人格】
湖田家吏は、2回目の「面会」を終え、3回目の面会相手の部屋、105号室に向かっていた。
湖田家吏は、2回目の面会の相手の丸橋の恐ろしさに驚いていた。
しかし、阿須雌に105号室の面会の相手について、「怖いから気を付けて」と、言われたのだった・・・・・・。
105号室の住人・・・・・・3回目の「面会」相手となる人物だ。阿須雌は、その人物に対して『こわいから気を付けろ』と言った。もうこの面会も後半だ。凶悪犯にどんどん近づいている・・・・・・ということか。
「いや~、柄堂君は本当に神経図太いよね~」
「なんで?」
「さっき言われたこともそうだけど~、私が悪魔だってこととかも、すんなり受け入れてたじゃない?」
「そうだったかな・・・?」
「そうだよ~!他の住人からはね~、証拠見せろ~とか、魔法つかえ~とかいわれたし!」
あざといポーズをしながらくるくると回る阿須雌。言っておくが、こいつは身長172cmの僕よりも背が圧倒的に高い。推定185cmはある・・・・・・と思う。こんな女(年齢478歳)がそんな風にくねくね動いてみろ。当然こう考える。
「あ、そう。それよりうざいやめろ気持ち悪い、吐きそうになる」
「なんで!?私なんかした!?酷いよ~!」
「だから行動全てが気持ち悪いってんだよ!!!」
つい怒鳴り散らしてしまった。しかし阿須雌は笑顔で僕に言った。
「それはそうと、着いたよ、絵堂君」
「だから話を逸らすなよ・・・・・・」
そう、いつもいつもこの女に振り回されているのだ。
「は~い、開けますよ~」
阿須雌がこんこん、とノックをしてから鍵を丁寧に差し込む。そしてゆっくりと扉を開けた。
「こんにちは~!霊歌ちゃん、いる~?」
れいかちゃん・・・・・・?女か・・・?いやいや、五月雨さんのこともあるし!早とちりはだめだ!二度と同じ過ちを繰り返してはならない!
「はい、います。どうぞ入ってきてください」
綺麗な声、澄んだ声、優しい声、よく通る声、美しい声・・・・・・そんな言葉が頭を駆け巡った。部屋の奥から、そんな女性の声が聞こえた。
「失礼しま~す」
「し、失礼します!」
薄暗い部屋に、僕と阿須雌は足を踏み入れた・・・・・・。
「あれ、あの、いないのですが・・・?」
部屋は全く人の気配がしなかった。部屋のあちこちに置かれた紫色の家具や、薄暗さが共存しているおかげで、黒魔術みたいな雰囲気を醸し出している。・・・黒魔術とか見たことないけど。
その時、
「ここに、いますよ」
と背後から言われた。
「ぇえ!?」
い、いつからそこに!?
「相変わらず影が薄くて幽霊みたいだね~!」
「阿須雌さん、そういうこと・・・いわないでください・・・・・・」
そこには、黒髪ショートボブの美しい女性がいた。その女性は綺麗な唇をゆったりと開くと、こう言った。
「初めまして、湖田家吏さん。私は葉上 霊歌という者です」
「は、初めまして!!湖田家吏、え、柄堂です!!」
び、びっくりした~!!影薄いどころの話じゃないでしょ!!待って、阿須雌が言ってた「こわい」って・・・、このことか!?
阿須雌に視線を送ると、何故か全力でどや顔をされた。
ていうか・・・・・・容姿も声に合っていて、素敵だな・・・。
「どうぞ、お座りください」
紫色のソファーを僕たちに促すと、葉上さんはにっこりと笑った。うっ・・・・・・。暗いせいか、その笑顔が不気味に感じられた。
「よろしくお願いします、葉上さん」
「霊歌でいいですよ。それじゃあ、まず私がここにいる理由を教える、でいいですよね?」
「OK~!じゃあ、面会スタ~ト!!!!!」
こうして、3回目の面会が始まった。
「私はある男性と婚約していました。その人の名前は、鼎と言います。鼎さんと私は、双方の両親からも気に入られていたので、すぐ結婚するつもりでした」
あ、婚約されてたんだ・・・・・・。ちょっとショック・・・・・・じゃないじゃない。
「しかし、鼎さんのお兄さんだけは違いました。私との結婚を断固反対されていて、いつも嫌がらせをされていました。鼎さんや彼の両親は私のことを守ってくれていましたので、私に苦はありませんでした」
「お兄さんは、どんな嫌がらせを・・・・・・?」
「上から包丁が降ってくる仕掛けをしたり、床が抜け剣山に落ちる仕掛けをしたり・・・ですね。あ、でも、バレバレだったので・・・引っかかることはありませんでしたが」
「それは・・・・・・」
ちょっと、マジのやつじゃない?それ。
「お兄さんが私たちの結婚を妨害していたのは、お兄さんが私に恋心を抱いていたからでした。彼は俗にいうヤンデレ?というやつでして。だから、私はここにいるんです」
「あ、そ、そうなんですか・・・・・・」
ん?「だから私はここにいる」・・・?その言葉で、僕はこの話の続きがなんとなくわかった感じがしてしまった。
「はい。しかしお兄さんは、遂に私の婚約者、鼎さんにけがをさせてしまいました。お兄さんが階段から落ちてしまう仕掛けをしたせいで、鼎さんは全治5か月の足の複雑骨折をしました。私も、鼎さんの両親も憤慨しました」
「・・・・・・」
まるで他人事のように話す霊歌さんを見て、言葉が思うように出なかった。いつの間にかこの部屋の温度が下がってきているような錯覚に陥り、足がすくむ。彼女の視線はしっかりと僕を捉えている。動かない、動かない、うごかない。
「密かに私はお兄さんに対する憎悪を膨れさせていました。そして、約9か月前でしょうか・・・。私は、彼を殺しました。そのとき、彼ともみ合いになったので、同時に私も彼に殺されてしまったのですが、ね」
そう話す彼女は、口元に柔らかい笑みをたたえて、まるで昔話をしているかのように楽しそうだ。
「結局、彼は私に生きながら苦しめばいい、と思っていたのでしょう。だから、この選択肢を選んだ」
ゆっくりと口を開け、深呼吸する。一歩間違えたら、この場が崩壊する気がして、少しずつ言葉を探す。
「あ・・・の・・・・・・。霊歌さんは、凶悪犯罪者になることに、その・・・迷いや、苦痛は感じていないんですか・・・?」
すると彼女は「うふふっ」と可愛らしい声を漏らして、言葉を紡いだ。
「私はもう、人を殺していますから。それに、これで苦痛なんて感じていたら、まさに彼の思うつぼですよ」
淡々と、彼女は言う。その様子に、背中がぞくりと動く。この感覚は・・・なんだ・・・?彼女は、僕に何をして・・・?
「ね~ぇ、柄堂君?」
「っ!!」
いつの間にか彼女は、後ろから僕の耳に直接話しかけてきた。僕のことを「湖田家吏さん」ではなく、「柄堂君」と呼んで。
「君からは・・・・・・美しい香りがする」
動けず、逃げられず、ただただ彼女に身を任せるしかなくなる。
「この香りは・・・・・・私と同じ・・・いや、私よりも濃い・・・犯罪者の香り・・・?ふふっ・・・」
その言葉に、頭がかっと明るくなり、霊歌さんを払いのける。
「僕は・・・!普通の人間です!!!犯罪者なんかじゃない!!!!!」
「あら、やっぱり君は、面白いね・・・?動けるなんて、やっぱり犯罪者の素質がある・・・」
ぼそぼそと独り言を言っている霊歌さんを押しのけ、部屋の隅にいた阿須雌の手を取る。
「面会終了だ!阿須雌!!早く出よう!!」
すると阿須雌は僕の想像とは真逆の返答をした。
「待って、柄堂君。まだ面会は終わっていないわ」
「なっ・・・今帰らないと!!あの人は危険だ!!!!!」
「だぁかぁらぁ~、言ったでしょ~??『こわ~いから、気を付けてね?』って」
阿須雌はへらへらっとした対応で、更に僕を腹立たせる。
「はぁ!?どうすりゃいいんだよ!?!?」
「前にある壁は、自分の力じゃないと壊せないよ、柄堂君」
「何言ってんだ・・・!?」
「ほら、彼女も、まだ面会したいって!」
振り返ると、霊歌さんがにっこりと嗤って、僕を見つめている。
「えどうく~ん?君のその犯罪者の香り、お素敵です・・・!きっとその血液は・・・・・・もっといい香りがするんでしょうねぇ~?」
「ひっ!!!」
口元からたらりと零れた涎を親指で拭い、どこからか大きなナイフを取り出した。
「お兄さんを殺したときの血の香り・・・たまらなかったわ・・・。病みつきになっちゃったの・・・。あんな人の血でもそうなるんだから、あなたの血は、さぞかし・・・うふふふ・・・・・・」
「霊歌さん・・・あ、あんた・・・狂ってる・・・!!!」
「当たり前でしょう・・・?こんなところにいたら、君だってこうなるわ・・・。いや、私以上に・・・」
「うるさい!!!僕は絶対に凶悪犯になんかならない!!!」
つい怒鳴ってしまった。それが効いたのか効かなかったのか、彼女は目を見開き、悲しげに俯いた。
しかし、
「うふ・・・うふふふふふ・・・。あっはははははははははははははははははっ!!!!!!!!!!」
彼女は身体を大きくのけぞらせて、下品に嗤った。そして、まるでまた人が変わったように、とろんとした目で僕を見た。
「まあ、そんなこと、どぉでもいいんだけどぉ・・・。えどうく~ん、私はねぇ~・・・・・・血がほしいのぉ~!あ~な~た~のぉ~!!!!!」
刹那、ナイフを胸の前で構え、一気に僕に向かって突進してきた。
「やめろ!!!」
間一髪でナイフをよけたが、彼女はすぐに態勢を立て直し、僕に向かってナイフを突き出す。
「なんでにげるの~?ちょっとだけでいいのよ~??」
「ちょっとって動きじゃねえだろ!!!」
つい突っ込んでしまったが、それどころではない。
「さあ、ちょうだい??」
にっこりと嗤うと、彼女はナイフを高らかに上げた。
ぱちん。
部屋全体に、指が鳴る音が響いた。
「ひゃっ!?」
すると、彼女はいきなりナイフを落とし、悲鳴を上げる。
「ああああああああああ!!!!!!!!痛い痛い痛い!!!!!!!!」
喉に手をやり、その場にうずくまる。
「な・・・?じ、持病・・・?」
咄嗟に反応できず、ただただ彼女の姿を見ることしかできない。
「・・・やりすぎだよ、霊歌ちゃん」
後ろから、阿須雌が静かに言った。
「んぁ・・・・・・っ!な、なんで・・・!?」
もがき苦しむ霊歌さんは、喉を押さえながら呻く。
「言ったでしょう?霊歌ちゃん。私は、あ・く・ま」
「まさ・・・・・・か・・・!魔、法・・・!?」
「そう、せいか~い!もうしな~い??」
「し・・・・・・しませ、んっ!!しま、せん・・・から!!!」
泣きながら彼女は懇願する。
「わかった」
阿須雌はふっと微笑むと、指を鳴らした。
ぱちん。
「っはぁ・・・、はぁ・・・・・・」
荒い息遣いとともにごほごほっと咳をして、霊歌さんは僕をうるんだ瞳で見つめた。
「ごめんなさい・・・つい・・・・・・ごめんなさい・・・」
「いや、いいです、無事でしたし・・・」
大丈夫ですか?と聞こうとしたが、その言葉をぐっと飲みこんだ。代わりに、小さな質問をしてみることにした。
「霊歌さん、一つ、質問していいですか?」
「はい、いいですよ・・・」
「・・・いつから、そんなに血液を求めるようになったんですか?」
すると彼女は、優しい笑みを浮かべ、僕に向かって言った。
「当時の、104号室の人と面会してからです。その人は、部屋に入って1年くらいの方でした。私も・・・あなたも、いずれは、ああなるのでしょうね・・・」
ふうっと、深呼吸をした。僕も、彼女も、阿須雌も・・・。
「あの人・・・101号室の彼も、もう1年くらいでしょうか・・・。今はああいう風になっているんですよね・・・。おとなしい方でしたが・・・・・・」
「どういうことですか?」
すると、やはり阿須雌が僕の欲求を制した。
「面会終了!!これ以上の詮索は~だ!め!で!す!!!」
「・・・・・・残念ですね。もっとお話したかったです・・・」
霊歌さんは僕に手を差し出した。握手・・・ということだろうか・・・?
「ありがとうございました・・・!」
僕はその手を握って、初めて自分から彼女に目を合わせた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
彼女はやはり、美しい声で僕にそう言ったのだった。
comicoノベルチャレンジにて、添削したこの作品を掲載しております。
そちらのほうも是非!!
次回もよろしくお願いします!




