始章
造語です。ししょう、と作者は読んでます。文字通り始まる章です。
長く長くなってしまった一連の物語の終わりではなく、きっとこれからも頑張っていくであろう彼らへのエール的な意味合いも込めて、こんなこっ恥ずかしい名前を付けました。中々のポエマーっぷりです。気持ち悪いですね。
よく聞く定例句かもしれませんが、この物語はこの章の最後の一文を書くために考え込んで生まれたものです。願わくば彼と彼女の長く長い道程のほんの始めですが、それまででもお付き合いいただければ幸いです。
始章
例えば、今僕がいる世界は偽物で。本物の世界で生きる僕は、毎日笑って、悲しいことなんかまったくない毎日を送っていて。
……そんな、夢物語を信じてしまいたくなるほどに。僕の世界は、本当に、本当に何もない。
遠くから幼い子の笑い声が聞こえる。その笑い声に答える優しい声。僕はその光景を、近くのベンチに座ったまま見ていた。
「……羨ましいな」
親子。その関係は僕にはとても遠く、とても残酷な繋がりでしかなかった。母さんは僕の前から姿を消して、父さんもきっと、今頃もう一度新たな家庭を築いて幸せに暮らしているだろう。僕だけが、僕だけが今もこうして、この町にいる。
施設の人はみんな良い人ばかりだ。親に捨てられた僕に対してとても親身になって接してくれる。まるで、本当の親子のように。もし、僕に両親と過ごした記憶がなかったら。きっと僕は彼らを受け入れ、今もこうして一人公園に佇むことなく笑い合えているだろう。けど、僕は信じてしまっていたんだ。僕と、父さん、母さん。三人で笑い合える日々がきっとあるんだって。
「しかたないじゃないか」
ベンチに膝を立て、顔を埋める。暗くなった視界には何も映らなくて、ただ遠くで、誰かの笑い声が聞こえて。
「何がしかたないの?」
「うわっ」
突然耳元で聞こえた声に、僕は驚いてしまって。
「え、あっ、わ、うわっ」
……バランスを崩して、ベンチから落ちてしまった。
「い、いたた」
「ぷ、ぷぷぷ!」
地面に打った肩を擦りながら、僕は突然声をかけてきた人を睨む。
「だ、誰だよ。君は」
いつのまにか女の子が僕の隣にいたらしい。太陽の光を受けてキラキラと光る彼女の黒髪。浮かべる満面の笑み。
「ごめんね。驚かせちゃった?」
「別に、驚いてなんかないよ」
「でも驚いてたよね? 驚いて、ベンチから落っこちちゃったよね。いやぁ、本当にあんな漫画みたいに驚く姿初めて見たよ……ぷぷぷ」
笑いの壺に入ったのか顔を逸らしながら笑い続けてる……いや、いくらなんでも失礼じゃないかな。
「何の用だよ」
「ん?」
笑顔のまま、僕を見る。その笑顔が、嫌味のない、とても澄んだ笑みで。余計に、僕の心を苛む。
「何の用があるんだって言ったんだ。僕に何か用なの?」
「……用がないといけない?」
「あたりまえだろ」
何の用もなく知らない人に話しかける人なんて、いるもんか。
「うーん。用、ねぇ……」
女の子が腕を組み、下唇を尖らせてうんうんと唸っている。その姿はなんだか、今になって僕に話しかけた理由を考えているようにすら見えた。
「……君が、泣きそうだったから、かな」
「僕が? はっ、そんなバカな」
僕はすぐに否定する。今更、僕が泣くわけないじゃないか。父さんが僕を捨てて別の家庭に行った時も、母さんが僕を見限ってどこか遠くへ行ってしまった時も。僕は、泣かなかった。涙を流すことなく、ただ目の前の現実を受け入れていただけ。こんなもんなんだって、諦めていただけ。
そうやって、この世界に見切りをつけただけだ。そんな僕に、今更涙が出るわけがない。流す涙が、あるわけがない。
……ないんだ。
「僕は泣かない。絶対泣かないんだ。君の見間違いだよ」
「そう、かな」
「そうだよ。絶対そうだ」
「……だったらさ。どうして、俯いてるの?」
スカートを膝で挟みながら、少女が目の前の女の子が膝を曲げる。そうして、また僕の視界に入り込もうとする。
「どうして、こっちを見てくれないの?」
顔を背けた僕に、彼女は顔を傾けて質問をする。
「どうして、そんなに強く唇を噛んで。どうして、そんなに強く手を握って。どうして、そんなに肩を震わせて」
何度も繋げた質問に、僕は返事することもできず。
「どうして、私を見ないの?」
「……そん、なの」
決まってる。
「そんなの、決まってるじゃないか……!」
この世界は、こんなにも厳しくて。
こんなにも、悲しくて。
こんなにも、苦しくて。
こんなにも、寂しいのに。
……こんなにも、綺麗なんだから。
「どうして……」
震えた声。情けないほど嗚咽の混じった、僕の、声。そんな小さな声などかき消してしまうように聞こえてくる、元気な声。誰かと誰かが笑いあう、声。
「どうして、僕は……」
こんなにも、綺麗で、暖かくて、明るくて。こんなにも、優しい世界で。
「僕だけ、一人なんだよ……!」
みんな、幸せで。笑顔で、誰かと一緒に。喧嘩もするし、いつも笑顔でいるわけではないけれど。
けど、みんな、一人じゃなくて。誰かと、一緒にいて。誰かと、笑いあって。誰かと、生きていて。
なのに、どうして。どうして、僕だけが。
「こんなにも、一人なんだよ……」
「……一人でいることが、悲しい?」
「あたりまえ、だろ……」
一人は悲しくて、苦しくて。どこまでも、冷たく、痛い。一人きりじゃない時の暖かさを知っているから。誰かと生きる暖かさを、知っているから。
「一人は、嫌だよ」
誰かと、一緒に生きたかった。父さんと、母さんと。僕を、この世に産み落とした二人と。一緒に、生きたかった。
「でも、もう、無理で」
どこまでも遠く離れ、隔たれた二人はもう会うこともなく。あの暖かな関係に、戻ることも、なくて。
「だから」
そう、だから。
「こんなにも、悲しいんだ……」
一生。それは人が、一人で表せるもっとも長い、時間。一生、ありえない。その言葉はあまりにも、大きく、深い。
「……そう、だよね」
女の子は立ち上がり、僕の言葉を肯定する。
「一人は、悲しいよね」
「……うん」
悲しい、悲しいよ。悲し過ぎて、もう何も持ちたくなくなる。大切なものなんて、いらなくなる。
「一人じゃなかったから、そんなに、悲しいんだよね」
「そう、だよ」
一人じゃない時の、誰かと一緒にいる時の温もりを知ってしまったから。だからこんなにも、冷たく、悲しく、寂しく、苦しく、痛い。
「だったら、さ。忘れてしまいたい? 誰かと一緒にいた記憶なんて、忘れてしまいたい?」
「忘れる?」
「うん」
俯いたまま問いかけた疑問に、女の子が頷くのが見なくてもわかった。
「何もかも、忘れて、なかったことにして。そうやって何もかも、忘れてしまいたい? そうすれば、悲しまなくて済むよ? 君は今もこうして、泣かないでいられたかもしれない。そうやって何もかも、なかったことにしたい?」
できることなら、どれだけ幸せだろう。悲しいこと、苦しかったこと、寂しかったこと。全部、何もかもなかったことにして。そうしたらきっと。僕は今でも笑っていられた。
今も、公園で遊びまわる彼らのように、笑顔でいられた。
「……そんなわけ、ない」
自分で、自分一人だけで答えを出してしまえるほど。
「うん、違うよね」
自分の中に生まれた答えは、簡単で。
「憶えていることは苦しいし、悲しくて、とても、辛いことだけど。けど、だからこそ。憶えてないといけないんだよね。人は、過去を生きることはできないから。今を、ただただ今を生きていくことしかできないから。戻れないから、想い出すしかないんだよ。テープに残しておいたわけでもない。もう届かない過去は、自分の記憶の中にしかないから」
もう過去になってしまった、僕の家族が笑い合う光景。確かにあったはずの、幸せだった毎日。それを憶えている。憶えて、いて。
「……忘れてしまいたいことは、確かにあるよ。たくさんある。けど、全部。全部が大切なんだ。忘れていい記憶なんて、一つもないんだよ」
忘れることができなくて、ずっと胸の中に、頭の中に残っていて。
「忘れないで。絶対に忘れないで。今まで生きてきて、何があったのか。どんな悲しいことがあって、どんな嬉しいことがあったのか。全部が集まって、君なんだよ。辛い記憶も、悲しい記憶も全部。その全部が、今の君を創ったのだから」
「……憶えてなくちゃ、いけないの? 辛いことも、悲しいことも。全部、憶えてなくちゃいけないの?」
「うん」
「そんなの、悲しいよ。辛い、よ」
だって、その記憶があるからこうして、泣いているのに。
「辛い、よね」
「そうだよ、嫌だよ」
幸せだった頃の記憶があるから、僕は今こんなにも不幸を知っていて。
「うん、とても、とっても辛いよね。けど、だから」
服が擦れるような音がした。ずっと下を見ていた視界の中、何かの影が差す。
「だから、誰かと生きるんだよ」
顔を上げた先には、女の子が、笑顔で、手を差し出していた。
「誰かと支えて、誰かに寄りかかって。誰かと一緒に生きるんだよ」
僕の手を取ろうとはせずに、ただ笑顔で、手を差し出している。
「不幸以上に楽しくて幸せなことを、誰かと増やしていくの。悲しい記憶に耐えられるぐらいの幸せを一杯、作るの。そうやって、生きていくの」
「……けど、僕は、一人だ」
どこまでも、限りなく。僕は、孤独だ。一人きり、だ。
「……だったら、さ」
垂れた前髪の間に、小さな、とても小さな手のひらが見えた。
「私が、君と一緒にいるよ」
「……ずっと?」
「うん」
「本当に、ずっと?」
「約束はする。けど、守れるかどうかは、わからない」
「それじゃ、意味ないじゃないか」
期待して、裏切られることが恐い。もう一度そんな苦しみを味わうぐらいなら、ずっと一人の方がマシだ。
「ううん、そんなことないよ。約束はね、守れるからするんじゃない。守れなくても、できるよ」
「それは、ただの無責任だ」
「もちろん、守れるって保障はあるべきなんだけど」
女の子が差し出した手と逆の手で、自分の頬っぺたを掻く。
「でも、未来に絶対なんてないから」
「だったら、どうして約束なんてするんだよ。守れるって保障がないなら、しないでよ」
約束して、それでもし破られたら。ただ、悲しいだけだ。
「……じゃあ、もし未来がわかるとしたら。そうすれば、約束してくれる? 未来永劫、私が君との約束を破らないってわかっていたら、約束してくれる?」
「する、よ」
「……でもね、それは約束じゃないんだよ」
女の子が首を振る。僕はその言葉の意味がわからず、女の子の次の言葉を待った。
「約束は、未来がわからないからするの。何も見えなくて、何もわからないから。だからみんな、誰かを信じて、誰かと約束するの。そうやって、未来を決めるの」
「だからっ、それじゃあ意味がないんだ!」
感情が溢れて、目から流れそうになる涙を見られたくなくて、僕は俯いて叫ぶ。
「もう嫌なんだよ! 裏切られたくないんだ! 悲しい思いは、したくないんだよ!!」
裏切られるのは嫌だ。だからこの手も、取らない。目をつむって、視界からその手のひらを消す。
……こうやって、生きていく。助けも断って、人を遮って、何もかもから、逃げようとして。そういう生き方の、何が悪い。
――怖がらないで。
「――え?」
声が聞こえた。優しくて、とても澄んだ声が。
――大丈夫だよ。
――君は、一人じゃないよ。
――大丈夫だから。
――その手を、取って。
突然聞こえてきた、優しい声。目の前にいた女の子とは違う、別の誰かの声に導かれ、僕は顔を上げる。
目の前の彼女の手は、震えていた。目一杯広げた指先が、震えていた。そして、僕を見つめる瞳は、涙に濡れていた……この手を、取らないのか? 彼女を泣かせてしまうのか? こんなにも、必死で、見ず知らずの僕に向けて、こんなにも、必死な彼女を。僕は、泣かしてしまっていいのか?
……嫌だ。
誰も泣かせたくなんてない。泣いてる姿なんて見たくないんだ。なら、この手を取るのか? 裏切られたくないんだろ? もう悲しい想いをするのは嫌なんだろ? それなのに、また誰かを信じるのか?
――頑張って。
……ああ。
違うんだ。怖いけど、すっごく怖いけど。それでも、それより。誰かが悲しむのが、もっとずっと、嫌なんだ。
手を伸ばす。指先を必死に、震えても、前に。触れた手のひらの熱が、僕にも伝わる。
柔らかい感触。弾ける笑顔。零れる涙。
「ありがとうっ!」
「うん……」
つられて、僕も、笑った。
「これからみんなでパーティーするの! 君も一緒に行こうよ!!」
「そ、そんな突然、いいのかな」
手を引かれることはなく、女の子は僕の手を掴んでぴょんぴょんと跳ねる。掴むだけで、引っ張ってはくれない。だから僕は、自分の意志で立ち上がる。
自分の意志で、立ち上がれたんだ。
「いいのっ! みんな良い人だもんっ。きっと歓迎してくれるよ! 優お兄ちゃんも沙紀ちゃんもっ、智明くんも春子さんもっ、明日佳お姉ちゃんも直樹くんもっ!」
知らない名前の中に、一人だけ知ってる名前が混じっていたような気がして。
「みんな歓迎してくれるよ! 大丈夫っ、心配なんてしなくていいから! お父さんもお母さんもきっと歓迎してくれる!! ほらっ」
繋がれた手のひらが僕を引っ張る。突然だったからバランスを崩して前のめりになったけど、どうにか、走り出した。
「あっ、そうだ!」
走りながら、彼女は僕に顔を向ける。
「君っ、名前は!?」
「ぼ、僕の?」
「うんっ」
笑顔で頷く女の子に、僕は精一杯、これまでよりもずっと大きく、声を上げる。
「つ、角瀬! 角瀬悠哉っ! 君は?」
「私? 私はね」
名前を聞かれたことが嬉しいのか。自分の名前を教えるのが嬉しいのか。あるいはそのどちらもなのか。
「満永、柊! 柊はね、植物の柊っ!」
自分の名前を言うだけなのに、彼女、柊は幸せそうな笑顔で。
「か、変わった名前だねっ」
「うんっ、でもわたしはこの名前が大好きっ。だって、柊ってかっこいいもん! 葉っぱはトゲトゲしてるし、お花もなんだか地味だけど。守る植物なんだって! お父さんから聞いたの! 自分を、他の誰かを守るために、あんな形をしてるんだって!」
繋いだ手のひらに、力が込められる。その力に、少女の決意が混じっているのかはわからないけど。
「だから、私もそんな人間になりたいっ! 誰かを守れるような人間になりたいなって思ってる!」
そう言う柊の瞳は、キラキラと輝いて。
「だから、私はこの名前が大好きっ!」
――そういう、意味だったのね。
僕を励ましてくれた不思議な声は、そう言って、笑った気がした。
「ほらっ、もっと急いで! 今日はみんなにしてもらいたいことが一杯あるんだから!」
「ちょ、ちょっと、そんなに急がなくても」
「時間は待っちゃくれないんだよ!? こうしてる間にも私たちはメキメキと大人に向けて成長していくんだからっ! 子どもの時間は少ないんだよ! ほら今身長が三センチ伸びた!」
「いやっ、そんな急成長はありえないと思うよっ!?」
「とにかくっ! やりたいことが一杯あるんだからっ! 時間なんていくらあったって足りないよ!」
いったいどこまで走っていくのだろうか。手を引かれたまま、僕たちは走る。公園を抜けて、道を駆け、車にはちゃんと気をつけて。
「明日佳ちゃんに格闘技を教えてもらいたいし、沙紀ちゃんにお料理も教わりたい! 春子ちゃんのおっきくなってきたお腹も一杯触りたい! やりたいことが一杯なんだもん! ほらっ、急いで!!」
「わ、わかった。わかったから少し落ち着かしてっ。転んじゃうよ!」
足がもつれて転びそうになる。話しながら全力で走るものだから、息も切れて苦しい。
それでも、足を動かし続ける。
「じゃあ、もう一個約束しよっ!」
走りながら柊は手の結びを変える。お互いの小指を繋ぐ、ありふれた約束の形。
「君が転んでも私が必ず助ける! だから私が転んでも、君が必ず助ける! そうすれば怖くないでしょ!?」
「いやいやっ、手を繋いで転んだら、どっちも一緒に転んじゃうよ!」
「その時はその時っ! 大丈夫だよ、怖くない!」
小指が解かれ、また強く手を握られる。優しく、ぎゅっと。小さな指は、僕の指に絡まり、簡単には解けない。
「私がずっと一緒にいてあげるからっ!」
その笑顔が、あまりにも眩しすぎて、僕はそれ以上何も言えなかった。繋がった手のひらが温かくて、頬を抜ける風が心地良くて。気づけば、僕は笑っていた。
笑えて、いたんだ。
「ほらほら、急いで!!」
「うんっ」
未来はどこまでも不確定で、不透明で、不明瞭で。どこまでも、不安だけど。幸せは確かにあるってわかってるなら。幸せを、確かに憶えておけるなら。想い出せるなら。この世界でだって、生きていける。こうして、誰かと手を繋いで、走っていける。
いつまでも彼女に手を引かれていることが、僕は段々と情けなく思えて。僕は一歩、強く足を踏み出して。
彼女の隣に、並んだ。
Recallという言葉には「思い出す」という意味があります。昨今ニュースやら何やらで聞く言葉でもあり、なんだかプラスのイメージが中々沸かない人もいるかと思います。
さてさて、これで本当に「Recall」は終了となります。かなり長い作品になってしまいましたが、作者的に出し切りたいものも、扱いたいテーマに足るものができたと自負しております。気に入っていただけたら嬉しい限りです。奇声上げて発狂する程度には。
それと、ここからまた長々と裏話的なことを書き連ねるので、もしかしたら作品に持っていただいている綺麗なイメージを木端微塵にするかもしれないことも書いてあるかもしれません。ご了承くださいというかまぁそんな奇特(失礼)な人は少ないかもしれませんが。
何分考え付いたのが中学の終わり頃であり、大学入学の辺りまで書き続けた経緯があるため、愛着が他の作品に比べ段違いに強いこともあってか、かなり気持ち悪いアレな発言ですが、出てくる登場人物すべての親御さん的な気持ちですらいます。不幸が多い作品になってしまいましたが、同等か、それ以上の幸せもたくさん与えるように心がけて書き連ねていました。その想いが反映されているかどうかはさておき。そして、この物語って元々ゲームシナリオのつもりだったのです。一章分のキャラクターデザインやイベントCGを頼んで描いてもらっていたのに、自分の不手際やら何やらで頓挫しまして。それでも燻らせるのは嫌なので、こうして小説(になってるかは果たして)として書きなおし、投稿させてもらいました。いつか機会があればそのキャラクターやイベントCGなどをお見せできる機会があれば、とも思いますが。琴美めちゃくちゃ可愛くってもうなんていうかなんでもありません。
えー、まず、一章の柊弥と琴美について。おそらくわかる人には一瞬でわかるかもしれませんが、彼らの物語を思いついたのは橋本紡先生の「半分の月がのぼる空」という作品を読んだから、でした。そもそも小説を書こうと思った切っ掛けがこの作品なので、まぁ作風がそれに近くなるのも当然っちゃ当然ですが、当時の自分はそれを良しとしなかったのでしょう。理不尽に苦しめられ、奪われたこと。それをプロローグにして物語を展開しよう。みたいなことを生意気にも考えたのかと。そして、元々は別々の物語として考えていた二章三章四章のお話を繋げて……となったのは、確か一章が書き終わった辺りだったと思います。びっくりするぐらいの見切り発車でした。今でもそのスタンスはあまり変わってないですが。
別々のお話として考えていたこともあってか、二章三章四章とも、全てプロトタイプなる原案からはだいぶかけ離れたものとなりました。二章の沙紀はただの家出少女で、家がお金持ちの成金ぼっちゃん優の元に突然転がりこんでくる、みたいなお話でしたし。三章に至ってはそもそも春子なんて出てきません。智明の独り舞台でした。四章は明日佳は苛められっ子で、記憶喪失だけどそれを隠して生きている直樹がそれをどうこうして助けるとかそんな話だったと思います。そんな当時のプロットを読み直して「……何がどうなってこうなったんだ」と作者本人ですらちんぷんかんぷんでした。ですが、最後だけはブレずにくることができました。
最初に考えていた展開では、柊弥にはもっと立派なハッピーエンドが待っていました。それこそ、終章にて彼女が語ったような未来が。ですが、それはできませんでした。それをしてしまうと、柊弥の中の思い出はなかったことになってしまいます。病気で苦しみながらも、お互いに想い合って生きてきた彼らのそれまでを否定してしまいます。それはなんだか嫌だな、と直前になってあのような終わりにしました。納得されない人も多いと思いますが(批判多かった……)、彼らは彼らの人生を生きてきたのです。例え結末が悲しくとも、それが彼らにとって大切なものだったのです。そもそも、ならば必ず死に別れるとわかっていながらも、人が誰かと添い遂げようとする意志はいったいなんなのか。愚痴になりました。すみません。
さて。各章にて書いているテーマは違いますが、Recallという話において一貫していたテーマは「記憶」でした。憶えていること。思い出せること。そういった不確定であやふやで、けれど自分という存在を作り上げている、いわば自分自身でもある記憶についてがテーマでした。それについては最後の章にてロリっ娘朗らか柊ちゃんがロリっ娘らしからぬ悟りっぷりで語ってくれていますが、作者的にはまったく間違ったことは言っていないつもりです。嫌なことはなくならないし、増えて、積もっていく。それに対抗するのは忘れる事ではなく、それ以上を作り上げていくこと。そのために彼らは手を繋ぎ、走って行きました。他の章の人たちもそうです。
二章では互いに抱きしめあうように、多少周りから窮屈に見えてもゆっくり進んでいく生き方を選びました。両手に存在してしまう限界。それ以上を求めるために手を伸ばす優から離れないように、しがみつく沙紀。そういう窮屈な、けれど懸命な生き方。
三章では、取り戻した左腕も全て、体ごと春子やこれから生まれてくる子どもをすべて背負って生きていく。たった二本の足で懸命に、重く苦しい覚悟をも背負って、生きていく智明。無謀にすら見えるけれど、それでも頑張る生き方。
四章では寄り添い、支え合う生き方。前には中々進めない。たくさんの人の力を借りることになるかもしれない。それでも互いが互いを気遣って、対等に、不器用なりに背負いあう生き方。
そして、始章では読んでいただいた通りです。手を取り合って、走っていく。そんな生き方です。まぁ時には歩いたりもするでしょうが、彼らはきっと頑張って走っていくでしょう。時間は待ってはくれず、否応がなく大人になる。けど、大人になれない理不尽も待ってるかもしれない。何もかもわからない世界への立ち向かい方に、正しい形なんてないと思います。各章での彼らの生き方も、「一例」に過ぎません。その一例の中に、どれかしら納得のできる生き方があったのなら、作者としては本当に感無量です。
後書きですら長々とすみません。書きたいことはいくらでもありますが、ここいらで閉めようと思います。深夜のテンション怖い。二度と知り合いと顔を合わせられないぐらい赤裸々なことを書きそうになる。
この作品でやりたいことはまだまだありますが、まずは人目に触れていこうと考え、長々と掲載しました。せっかくなのでどんな短い内容でも全く構いませんので、感想とか書いていただけると嬉しいです。罵詈雑言ですら内容次第ではとても良い笑顔で受け止められる精神的嗜虐を好む特殊志向なので。
それでは、長編小説「Recall」を読んでいただき、本当にありがとうございました。




