プロローグ 出会い
僕はただ、学業祈願にとある山中にある神社に訪れただけだった。
そう。訪れただけ、だったはずなのだ。
だからこんな所に居て慌てないで済むような心の準備なんてあるわけもなく、ただただ呆然と、目の前を歩く猫のような耳と尻尾を持つ巫女に言われるがまま着いていくことしかできなかった。
見渡す限りの妖異。怪異。浮いている提灯に淡く光る石畳が真っ暗な中迷わないように道を作っている。道の脇には家々が立ち並ぶが、そのどれもが古い日本家屋の見た目をしており、まるで江戸時代に来てしまったかのような気持ちにさせる。時折見える住人と思しき影は全員人間とは似ても似つかないような見た目をしていた。
確かついさっきまで昼で、山の中の神社に居たような…。
「あのー…巫女さん?ここは何処なんでしょう…?」
「ここは私たちの住む里。あやかし村だよ」
振り返らずに言い放つ猫耳の巫女。あまりに現実離れしていて考える気力がなくなってきていた僕は「なるほど」とだけ呟いた。
「それで、これはどこに向かっているんでしょうか…?」
流石に目的地がわからないまま歩き続けるのも心臓に悪いので、というより何かしていないと気が触れそうなので気を紛らすかのように五月雨に質問をする。
「あなたの願いごとを叶えるために玉藻様に会いにいくの」
「た、玉藻様!?妖狐の?それと僕の学業祈願になんの関わりが!?」
まず、伝説上の妖怪「玉藻前」が実在してそうなのはもう突っ込まないとして、自分の願い事である「和人高校に合格したい!」という内容と、妖怪たちの"長"的な存在であろう玉藻前に会いにいく意味合いが紐づかない。
「それはもちろん、この猫又が君のお世話をする為だよ」
「お、お世話…?僕の…?何を…?あなたが…?え?」
「お、めっちゃ困惑してそう。おもしろい」
処理落ちした僕をおちょくるように笑う猫巫女。浮いた灯籠に照らされたその笑顔を見ると、にやけた目で僕を見つめていた。青く澄んだ大きな瞳は僕の全てを見透かしているような気がして…少し怖さもあった。
「まあ、詳細は玉藻様の前で改めて話すからさ。とりあえずは付いてきてよ」
「は…はい…」
抵抗してもいいことにはならなさそうな雰囲気を感じ、ただ黙って着いていくことにした。
僕は一体どうなってしまうのだろう。軽い気持ちで神社に御祈願をする事は今後無いだろうと誓うと同時に、試験のために覚えた公式や英単語が急激な状況変化によってポロポロと頭から溢れているのを感じた。
溢れる公式を拾い集めつつ約5分ほど歩いていると、前方を歩く猫又さんから「頭を下げて、目は伏目がちのまま、私の手を握って着いてきて」と声をかけられる。
「どうして頭を下げて、伏目にしておく必要が…?」
「うーん、玉藻様を人間が肉眼で見てしまうと目が溶け落ちてしまうとかなんとか…?」
「…帰らせてください!目を失いたくはない!」
「まあまあ、見なきゃ大丈夫だから!」
なんと軽い言葉だろうか。ただ逃げる術もなければ、そもそもどこに逃げたらいいのかも分からない為、着いて行くことしかできなかった。
「うっ…何か体が重いような…」
しばらく手を引かれた状態でされるがまま、言われるがまま歩いていると、周りの空気の重さが体に張り付くような感覚に襲われる。
「これは玉藻様の"界"。妖力とも言うんだけど…、分かりやすくいえば気迫かな」
(漫画みたいな話で少し気持ちが昂ってしまったのは内緒だ。)
「さあそろそろ到着だよ」
猫又がそう呟く頃、妖異の元へ近づく僕には返事どころか相槌すら出来ないほどの息苦しさが纏わりついていた。今から自分がどうなるのか、何気ない日常から一点、危機一髪となったのは何故なのか、何も答えが出せず関与する事もできないまま、自分のこれからの人生が決まろうとしていた。
今のところ異世界っぽいですがちゃんと現実に戻ってきます!!
基本は現実世界でわちゃわちゃするお話にする予定ですのであしからず!




