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ほんとカッコ悪い。 -sideアキ-



公園にのベンチに座ってお茶を飲んでいると麗さんも緊張が解れたようだ。


告白しようと心に決めたものの、そんな震えてる今の麗さんには言えない。

あーまた亜由美さんに怒られるなぁと自嘲した。


「飲んだら帰りましょうか。そのまま家帰るなら送りますけど」


麗さんからは肯定も否定もないが、避けていた何某かの理由で躊躇っているのか。

そういえば理由も聞きたかったけど、そんな状態ではなさそうだし。


「……ねぇ、秋」

「はい」


隣に座る麗さんは長いまつ毛が伏せられていて横顔も美しい。


何を言われるのか身構えつつ平静を装って、ココアを口に含んだ。ら。



「あたしのことずっと好きだったって、ほんとう?」



予想だにしていなかった質問に、ココアを上手く飲み込めずにココアを吹き出した。


え?なんて??


聞き返したいのに咳き込んでしまって言葉にならず、隣にいる麗さんはオロオロしている。

苦しい。苦しいが、それ以上に頭が混乱している。


「………誰から聞いたんすか…」


ようやく絞り出せたの声は掠れていた。


「と、とあるスジから…?」

「…まあ、知らぬは本人ばかりでしたしね。」

「ま、まじか…」


亜由美さん…はないかな。何となく。

誰から聞いてもおかしくないなと思い直して、漸く落ち着いてきた息をゆっくり吐き出した。


「い、いつから…?」


弱々しい声で、恐る恐る訊くから。

意味もなく手に持った缶を見つめながら、堪忍した。


「…最初はいちファンとして、外見が好みだなと思ってただけだったんですよ。コンクールで先生に言われて組まされたときも、ラッキーってくらいで」


湿気ってなまぬるい風がふわりと頬を撫でる。


「天才だと思いましたし、思い切りの良さも、人を惹きつけて引っ張って行く力も兼ね備えていて。その分批判を真っ向から受けることも多いのに、淡々と受け止めていてすごいなって」


こんなことまで話さなくてもいいはずなのに、今まで一方的に蓄えてきた記憶は、一度話し始めたら止まらなかった。


「でも、堂々としてたのに、たまに非常階段のとこで1人でこっそり泣いてるのを見て健気だなって気になるようになって」

「な、な、なんでそんなの知ってるのよ!?」


きっと麗さんにとっては、誰にも言わず、誰にも知られずに忘れていたことだったのだろう。


彼女が強気なことを言う度に、幾度となく、あの後ろ姿が横顔が過ぎったのだ。

だからいつも、少しでも力になりたかった。


「甘えられない人なんだなと思って、いろいろ考えたんですけど…冷たいジュースほっぺに当てて驚かせたり、差し入れって言ってこっそり激辛のスイーツ食べさせたり…したときの反応が可愛くて…その…後に引けなくなったというか…」


あーこんなこと、わざわざ言わなくていいのに。


「僕としては、それで麗さんがコンクールのメンバーと付き合うようになるし、痛し痒しでしたね。」


麗さんの方を向けない。


「僕は完全に恋愛対象外だわ、男は途切れないのに付き合う男はダメ男ばっかだわ。せめて幸せになってくれれば諦めもつくのに、いい加減にしてほしい」


あーもう、ほんとカッコ悪い。

こんなことまで言うつもりは、まったくなかったのに。


ココアをグイッと飲み切って、立ち上がって缶をゴミ箱に捨てた。


「もういいですか?」


背を向けて、送るから帰りますよと言う前に、手を掴まれた。


ああそうか。今の関係はただの先輩後輩だけではなかった。


「心配しなくても仕事はちゃんとーーー」

「なんで?」


なんで?なんて、こっちが聞きたい。

頬を赤くして、潤んだ瞳で僕のこと見上げて。

そんな無防備な顔、直視できない。


「なんで?だって、あの日も、あたしのことただ送ってくれて…」

「ん?」


あの日というのはいつのことを言っているのか。

話が読めない。


「酔ってたし、弱みに漬け込んでホテルに連れてかれても、抵抗しなかったと思うのに」


目眩がする。頭痛くなってきた。

何を言ってるの?


「……あのさぁ。他の男のこと想って泣いてるのに抱けるわけないでしょう!」


思わず声を荒げると、肩を震わせる麗さん。

綺麗なアーモンド型の眼がゆっくり瞬きを繰り返す。


「そ、そういうもの?」

「……今までどんな付き合い方してきたんだ……」


やってらんない。

これ、ちゃんと説明しないといけないのか。


「あ…」

「麗さん」


細い両肩に手を置いた。

自然と僕のことを見上げる麗さん。


あークソ。こんなときでも可愛いな。


「麗さん、お願いだからもっと自分を大事にして。自分を大事にしてくれる人と付き合って。」


僕を見上げる潤んだ瞳も、困ったように下げられる眉も、上気した頬も、もっと愛されていいのに。


「なんで」


紅い唇は、震えている。


「今度は何ですか?」


怖がらせてしまっただろうか。

ハタと気づいて、今更ながら落ち着いてゆっくり問うた。


「なんで、好きってストレートに言ってくれないの?秋は大事にしてくれないの?」


のに。


「もう好きじゃない?全部過去形だから?」


思考が完全に停止した。

だって、それってーーー


「え?」


待て待て待て待て。

都合のいい解釈をしてしまいそうになって、僕を見上げる麗さんから顔を背けた。


「…麗さん、思わせぶりやめてよ。だいぶ拗らせてる自覚はあるんだから」

「あ、秋だって、思わせぶりなこと言ってるじゃない!」


麗さんはキュッと唇を結んだ。

怒ったような拗ねたような、困ったような瞳で。


「……………」

「……………」


そんな可愛い表情されたら、僕が勝てるわけないって知っててやっているのだろうか。だとしたら、相当タチが悪い。


もういいやなんでも。


「ハイハイ、ワガママなお姫様」


きっと麗さんがどんな反応したって、僕の気持ちはずっとかわらないんだろうから。


「な、なによ」


片膝をついて、右手を取った。


「麗さん、愛しています。結婚を前提に、僕と付き合ってください。」


白くて細い指先にキスを落とした。


「ーーーっ」


瞳に溜まっていた涙がついに落ちてきた。


「努力家なところも、向こう見ずなところも、家族想いなところも、意地っ張りなところも、全部好き」


一度言葉にしたら、止まらない。

足りないくらいだ。


「だ、だってだって、秋、そんなの」


それは、少しは期待していいの?


「返事は?」


付き合いは長いけれど、こんなに泣いているのは初めて見た。

立ち上がってハンカチで涙をぬぐう。


「はい」


呟くくらいの声に、心臓が止まるかと思った。


ハンカチを持つ手に、麗さんの細い指が触れて、その瞳が僕を映す。


「あたしも秋が好き」


そのはにかんだ表情を、僕に向けてくれるの。


「今日から……僕が麗さんの彼氏ってことでいいですか?」


僕もつられて涙ぐみそうで、気付いたらときには麗さんを抱きしめていた。


「…はいっ」


腕の中でコクリと頷いて、麗さんも僕の背中に手を回してくれた。


全身の細胞という細胞が歓喜する。


「大事にします」


声がちょっと濡れていたのなんか、もうどうでもよくなっていた。


「…うん」


何度この瞬間を夢見ていたことか。



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