一生敵わないんだなと悟った。 -sideアキ-
腕の中で眠る麗さんを見ながら、未だに現実感のない幸せを噛み締めた。
告白を受け入れてもらえるとは露ほども思っていなかった。
だから目を覚ました麗さんがどんな反応するのかとハラハラしてもいる。
結婚を前提には重すぎたかなとか、クサかったかなとか。
綺麗も可愛いも好きも一度口にしたら止まらなかったし引いてないかなとか。
おはようの挨拶と共にキスをしても嫌がられなくて安心した。
なのに、
「こんな風に朝までぎゅっとしててもらうの初めて」
なんて、はにかんで幸せそうな表情で言うんだ。
…あのさぁ…
神妙な面持ちで何か言いに来たかと思えば、料理も家事もできないという話だったり。
男にいいようにされていた片鱗を見る度に苛立って、諭すのに、
「でもこれからは秋が大事にしてくれるんでしょ?」
と事もなげに言うから、一生敵わないんだなと悟った。
ちなみに、意を決して、僕を避けていた理由を聞くと、しばらく目を泳がせてからためらいがちに僕に抱きついてきて、
「…秋を好きになったら困ると思ったから…」
と、ごにょごにょ耳元で囁いて、僕を悶えさせた。
どれだけ振り回せば気が済むんですか、あなたは。
◇◆◇
「そうですかぁ」
事の顛末を伝えると、亜由美さんは驚きもせずにそう呟いた。
「例の件、麗さんにはアタシから言っておきますぅ。社内の問題ですのでー」
「助かります」
「メンタル面のサポートは秋くん担当ってコトでぇ」
今日は麗さんのオフィスにて、先日撮った写真の剪定をしに来た。
残念ながら今は麗さんは外出中。隣の作業部屋にはスタッフさんたちがいるので声を押さえて話している。
「付き合うことになったって、麗さんからも聞きましたよぉ」
「はい。その節は…」
「だから言ったじゃないてすかぁ、早く告白すればいいのにってぇ」
「…知ってたんですか?」
「本人に聞いたわけじゃありませんけどぉ」
観察眼の鋭い亜由美さんの勘らしい。
でも、亜由美さんは言う。
「秋くん以上に麗さんのこと理解してる人はいないと思いますよぉ」と。
そんな話をしているところで、麗さんが勢いよくオフィスに入ってくる。
「ただいまー!あ、秋もきてるの?取引先から焼き菓子もらったの!みんなで食べよう!並んでもなかなか買えないお高いやつよー!」
「はぁ!?…あのタヌキ親父に手土産用意させた…?」
「え?タヌキ?めっちゃ優しいおじ様じゃない」
「…これで枕営業してないっていうんだから、末恐ろしいんですよぉ…」
「仕事の話しながら日本酒飲み比べして酔い潰しはしたよ!!」
「…しんじらんない…」
あっけらかんと答える麗さんに、亜由美さんは顔を青くしてこめかみを押さえている。
「お疲れ様ー!ねぇねぇミヨちゃんとユキちゃんも一緒にお茶休憩しよう!美味しいお菓子よ!」
「やったー!」
「きゃーここのチーズケーキすぐ売り切れて全然買えないんですよ!!」
「何味がいいー?」
「えーいろんな味入ってる!私クッキーがいいです!」
「抹茶…イチゴ…夏限定のシチリアレモン…うー迷うぅ」
「全部美味しそうよね。あはは、迷え迷え!」
麗さんは隣の作業部屋で仕事をしていたスタッフ達にも声をかけに言って、楽しくきゃいきゃいしている。
元々いつも楽しそうだが、たまに見せる寂しげな表情を最近パタリと見なくなった。代わりに甘える表情をたくさん見せてくれる。
「なぁにニヤけてるんですかぁ」
「いやー、毎日あんな幸せそうな顔させてるのは誰なのかなぁと思いまして」
「そうですねぇ、これまでのヘタレっぷりを麗さんに見せたいくらいですぅ。動画撮っておくんでしたねぇ」
「……ヤメテ。」
可愛らしい見た目に反して、亜由美さんはなかなかいい性格をしている。
クスクスと亜由美さんも楽しそうに笑って、テーブルを片付け始めた。
「幸せオーラ全開で何よりですよぉ。ちゃん仕事すればアタシは文句ないですぅ」
亜由美さんは席を立ってお湯を沸かしている。僕は渡された紙皿をテーブルに並べた。
「亜由美お茶淹れてくれてるの?ありがとう!」
「はぁい」
「ねぇ亜由美と秋は何味がいい?あと残ってるのはね、プレーン2つとチョコとイチゴ、紅茶、抹茶かな」
「アタシはプレーンがいいですぅ」
「秋は?」
チラリと麗さんの手元の箱を見る。8個入っていて、今いるのは5人。
「僕はなんでも。」
「うーんそっか。」
「妹さん達の好きな味先にとってください」
「な、なんで」
「なんとなく。」
こういうときみんなで食べて残った分を持って帰っているようだったから、仲の良い妹2人と一緒に食べているのかなと推測していただけだ。
あまりに溺愛しているから、シスコンとバカにされたとプリプリ怒っていたのは一度や二度じゃないし。
3個持ち帰ったら妹さん達と一緒に食べられるんじゃないかなと思っただけで。
一瞬びっくりした顔をして、次の瞬間にはニコニコで選び始めた。
「じゃあねぇ、優が紅茶で、愛がイチゴかなぁ。」
そして、
「秋はチョコでどう?チョコ好きよね」
と、的確に僕の好みの味を指さす。
…ほんとに、この人は。
「…好きです」
「当たりー。あたしは抹茶。実はこれ狙ってたんだよね」
上機嫌で僕の並べた紙皿にチーズケーキを乗せて行く麗さん。
自然とこっちまで嬉しくなった。
ーーー幸せ!!ってオーラを出してくれたら僕だって幸せを願えるのにーーー
ふと、ずっと思っていたことを思い出す。
片思いの期限は終了でいいみたいだ。




