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9話 カオスな攻略に幸あれ

 


 天へ昇る青柱の超災害から半年経過した。アルム王国の大門から北へ直進すると、青々とした広大な森が行く手を阻む。

 背丈まで伸びる蔦を切り飛ばしながら進むと、国が立ち入りを禁ずる領域が、その境界が見えてくる。まるで削られたような、森林から恐ろしいくらいに木々が途絶え、踝ほどの草原が拡がっている。


 この先にある場所は異形なダンジョン。私達《英雄成り隊》は国から正式な依頼として、調査を任された。

 今まで突破されなかった第二の試練の攻略法が見つかったそうだ。ふざけた話だが、情報の出処は信憑性がある。それに国からの依頼を断れるわけないだろう。


「はぁ……鬱だー」


「ミナ、ため息13回目だよ」


「マリだって、嫌そうな顔してるじゃん」


「ほら!こんな時は笑わなきゃ!」


「……」


 アタッカーの私と、バッファー兼ヒーラーのマリ、無言でついてくるタンク役のショウ。これが私達のパーティー構成だ。


 この依頼は憂鬱でしかない。理由?所謂(いわゆる)モンスターに挑戦した冒険者達はみんな病んでるからだよ。

 そりゃ、無視すれば進めるって言うから大丈夫かもしれないけど?無視しようとして無視できなかったという人もいたっていうし。


 でも、一応対策はある……そう、このモンスターの為にギルド長が発案した近未来の秘密兵器。


耳・栓(プロテクト イアー)


 ギルド長に直接説明された。これを装着すれば何言われても大丈夫!目を瞑れば現実逃避できるよ?最近私も使ってるんだ!


 ガチで手渡された時、え?馬鹿にしてますか?今からダンジョン行くんですよ?ダンジョンですよ?とツッコんだよ。殺傷性が無いから大丈夫って……ギルド長が自慢気に話してる姿を見て狂気を感じたよ。「これで……あひぃひぃい」とか言ってたもん!

 モンスターと関わった人に大人気らしく、ギルドの隅っこで耳栓して蹲っていたの見てドン引きしたよね。


 ダンジョンへ向かうと言ったら口を揃えて耳栓は必需品だというのでポケットに忍ばせている。剣より耳栓とか言ってたヤツ、頭大丈夫かな。


 あ、ここが入口か。


「よし、すぐ着いたし入ろうか」


「うん、怖いだけって言ってたけど、警戒して進もうか」


「……わかった」




 ────



 我が半身であるお布団でDSをいじっていた時、確かに感じた。


「お?……来たな」


 クックック……やっとか!待っていたぞこの時を!!

 そう!マイダンジョン追加コンテンツアップデート後初めての侵入生だ。ココ最近はDSDがハメ外すから侵入生が途絶えていた。1ヶ月くらい暇してたんだよ〜。

 この前攻略法教えていいよ?って言ったんだよね。だってつまんないからさ。それでもクリア出来ないなんてDSDやば。クソゲーになっちゃうよ。


『存在がラスボスでクソゲーよりクソゲーですよ。毎回必ず誰かしらをガチ泣きさせてますよ?』


「最高に面白かった」


『うわぁ』


 お?情報が回っているのかしら。《侵入生歓迎会》で驚いてない。危害無しなのバレたかな。


『あれ?恐怖心を煽る造りだと自覚あったんですか?』


「だってみんな驚くじゃん、後で撤去しようかな」


 んー、まあ進んでくれたら面白いしこれはこれでもいいけどね。

 あ、トイレ利用しないんだ。大丈夫かな?


『トイレの心配するとか、最低ですね』


「なんでだよ!特にあの男に漏らされたら嫌なんだよ!」


 いや、女性は漏らしていいとかないからね?マナーの問題だからね?飛ばすよ?


 ってそろそろ俺の出番かもしれん。あー人前緊張するかも!顔隠そうかな?俺はカカシのようなマスクを付けて、消えた。

 頼んだぜ、DSD!そして、K親子!


『行ってらっしゃい、魔王様』




 ───



「えっと、あ、これか。このボタンを押すのか」


 例の落とし穴の前まで来た私達は、その頭上にある小さなボタンを見つけた。しかし、届かない。


「……俺に任せて」


 ショウは剣先でそのボタンをつついた。


 ─ゴゴゴゴ─


「道が開けたのかな?先へ進もう」


「うん、この先が、あのモンスターの……」


「……気を引き締めていこう。」


 落とし穴を下るとちょっとした広場にでた。奥に先へ進む道ができている。恐らく先の音はその道が開いた音だろう。そして、行く手を阻むようにフードの男が立っている。

 急にターンをキメてきた。


「Heyらっしゃい!非処女処女童貞3名様のご案内!あぁ!大丈夫大丈夫!人生まだ長いからさ!胸がないとかモテないとかアソコめっちゃ小さいとか気にしないでさ、くはっワロスワロス」


「「「…………」」」


「しけた顔してどうしたんですか?あれれ〜おっかしいぞ〜?気分あげてこうぜ?おっ?おっ?」


 やべぇ、ウザすぎる。


「ミナちゃんっていうのかな?笑顔可愛いと思うけど?そんな引きつった顔してたらブスだって思われちゃうよ〜?だから一昨日カズマくんに振られちゃったんじゃない?」


「なっ!!?なぜそれを!?」


「えっと、マリちゃん?マリちゃんも可愛いねぇ?小柄で中学生にしか見えないよ〜?あ、体型の話しね?顔だけは大人に見えるよ(笑)あ、怒った?ごめん?やっぱ身長のこと気にしてたよね?めっちゃ低いな〜って思っちゃったんだよ〜。でも仕方ないよね?低いんだから。そんな顔するなら身長伸ばせばいいじゃん?ファイトだよ?」


「はぁ〜!?はぁ〜〜〜!?!?!?」


「ショウ君かな?君は頑張ったよ。努力じゃどうにもならない事ってあるもんね。元カノに惹かれる為に頑張ってても、筋肉つけてもアソコは大きくならないもんね草〜!!一年前やっと付き合えた元カノになんて言われたんだっけ?『ふっ、あっごめんなさい。り、立派ですよ?』って言われたよね?ドングリと比べられたのかな〜〜???」


「はぁ!?そんな事ないし!ででデタラメだし!ねえ!違うからね!?」


「HAHAw愉快だねぇ、ところで君たちはどうしてここに来たの?恋愛相談かな?まあ?君達には?恋人なんて?絶対できないと断言するけどね!!」



「「「……無視しよう」」」



 私達はそっと耳栓をつけた。殴り掛かりたい衝動を抑えて進む。そう、私達はこのダンジョンの調査に来たのだ。このモンスターは確かにやばい。だけど、無視して進めと依頼されたのだ。

 それに、これ以上話を聞いたら多分キレる。所詮はモンスターの戯言なんだ。振られた事知られていても、これはモンスターの捏造なんだ。


 やばい。聞こえないけど視界に入ってくる。やばい、動きがウザすぎる。ハッ!目を瞑ればいいんだ!

 ギルド長直伝!現実逃避!


 私たちは、ペケの巣大行進を突破した。


 耳栓くれたギルド長、馬鹿にしてごめんなさい本当にありがとうございました!!



 ───


 また、少し開けた場所に、休憩所と書かれていた。トイレがある。


「「「……アレは嘘だからね!!!」」」


 3人の心のダメージは大きかった。各個人が言い訳を気が済むまで話しかけ、落ち着いた頃には1時間くらい消えてきた。


「やばっ、時間取られすぎた。進もうか」


「うん、これ以上ここにいても仕方ないもんね」


「……この先は未知だ。戦いがある可能性もある。俺が前衛、ミナはマリのサポートをしてくれ」


「「了解」」


 休憩所の隅っこに、出口と先へ進む道がある。先へ進む道には《囚われのピーテ姫》と書かれていた。


「よし、行こう!」


 先の見えない通路に入ると、景色が一変した。足元には赤い絨毯が広がり、その先に王座のようなものがある。その後ろに人影がある。


「っ!?みんな、警戒して!誰か来る!!」


「……なっ!」


 いきなり愉快な音楽が流れ出した……そして雲行きが怪しくなる。


 王座の後ろから飛び出してきたのはピンクのドレスを着たお姫様だった!そしてそのお姫様を私達の目の前で小さな亀の怪物がニーブラした!そして私達の方に走ってくる!!咄嗟に道を譲ると亀が猛ダッシュで駆け抜けて行った。そしてそれを追いかける緑の服を着た青年!……青年?


「みんな!何してるの?早く助けに行くんだよ?俺の後に続いて〜!」


 やばい、意味わからなすぎて理解が追いつかない!!その緑の青年は亀の怪物を追っていなくなってしまった。


「……ねえ、どうする?」


「え、追いかけてみる?」


「……はっ!なんだったんだ今のは」


 とりあえず追いかけてみることにした。

 ん?なんだこれ……

 私たちの目の前にある文字が浮かんだ。

『×5』そして『1ー1』と。


「っ!?ミナ!前から大きな化け物が!」


「なっ!なに、あの茶色い怪物は!」


「俺が弾く!その後一撃頼んだぞ!!」


 ショウが大盾でそいつを弾く、すかさず私がその怪物を切り裂いた!


 ─ぽふ─


「えっ、倒したの?」


 このダンジョンの初陣は、あまりにも呆気なかった。


「やっほ〜!ボクはルイーゼ!キノコ王国に住んでいるんだ〜多分?なんと大変ボクの大切なお姫様が連れ去られちゃったの〜!みんなで助けに行こうね?」


「「「…………」」」


 そして急に現れたルイーゼという人物。この存在は極めて謎だ。まず、話の内容が意味わからない。ダンジョンの中に王国があるというのだろうか。しかし、報告書ではダンジョンに住む人間がいると聞いたことある。しかし、もし本当に王国の姫様が連れ去られたとしたら、この緊張感のなさは異常だ。


「あの……貴方は人間ですか?」


「え、俺の見た目人間じゃないの!?あ、いや今は着替えてるからルイーゼ姿だし人間だよ?」


「……変装してるということですか?」


「違うよ〜、着替えただけだよ?ボクはルイーゼ」


「一人称、コロコロ変わりますね」


「……さあ!姫様が待ってるよ!ご褒美にキッスが貰えるよ?」


「ぇぇえええ!!キッスもらえるの?キッスもらえるの!?まじでぇ?あんな可愛いお姫様にぃ!?俺頑張っちゃおうかな〜!!?ぉぉぉぉ燃えてきたァ!!……あ、あ。っていうジョークです」


「「「…………」」」


 やばい。カオスだ。このルイーゼという人物もショウも頭がやばい。


「お兄さんは私たちの味方〜?」


「もっちろーん!一緒に戦うお」


「じゃ〜よろしくね!お兄さんの顔私タイプだなぁ」


「ぇぇえええ!なにそれ超嬉しいんだけど!俺も好きだよ!付き合わない?」


 あ、違った。マリもやばかった。私だけ置いていかれた。


「でもお兄さんこのダンジョンから出られないんでしょ〜?」


「うん〜そうなんだ〜」


「じゃ、騎士団に会ったことある人と同一人物?」


「そ〜だよ〜?」


 お、マリやるな!もしかして油断させて情報を引き出す作戦か!馬鹿にしてごめん!!


「ならこのダンジョンの中だけ付き合おうよ!バレないよ?」


「ホント?良いの?やったあ!ちゅーする?」


「い〜よ〜!チュー」


「「はぁあああああ!?!?」」


 こいつら本当にキスしやがった!!!馬鹿だった!マリは馬鹿だったわ!!クソこの女!!あ、ショウが嫉妬で剣を抜いてる!ちょっと待って!それはまずいよ!


「ほ、ほら!お姫様助けに行くんでしょ?」


「あぁ、もういいよそれは。彼女できたし」


「おいー!それでいいのか!貴方の国のお姫様でしょ!?!?」


「ちょっと待てや!俺の恋のキスの話はどこいったああああ!!!」


「あっ、ルイーゼ……キス下手だなぁ。もっとね?ここをこうやって」


「おおお!キスって気持ちいいんだ!しらなかった」


「お前らァァァ!!いつまでやってんだァ!?」


 ショウがブチ切れた。



 ───


『1ー城』


 ここまで長かった。イチャイチャする戦力外アホ共を引き連れ、嫉妬爆弾のショウをなだめ、胃に穴があくんじゃないかってくらいストレスを感じた。


 敵は私が戦った。ショウは己と戦った。


 何回亀の甲羅をルイーゼに蹴り飛ばしたか……意味わからん手段で防がれるけど。


 そして溶岩のステージ……いきなり危険度が増す。上に居るだけで熱い!


「あの、ルイーゼ。この先のロープ渡れっての?」


「ん?あぁ、そうだよ。あ、マリちゃん手を繋いでたら渡れないね。あはは」


「残念だなぁ」


 あの2人……やっと手を離した。


「お前らァ!この先は危険だ!イチャイチャはするな!俺の前でするな!良いか?わかったな?返事はどうした?」


「「……はい、ごめんなさい」」


 やばっ、ショウ怖っ。って危ない!


「ショウ!後ろ!!」


「え、なっ!あああぁぁぁ……」


 急なことだった。足場を踏み外したショウは、転ぶように溶岩に落ちていった。ショウが、死んだ。


「え、嘘でしょ、私とミナと、英雄になるんじゃなかったの!?こんな所で、もうショウとはお別れなの……」


「ウソよ……」


 マリが膝をついて溶岩を眺めている。私もそうだ。こんなの、あんまりだ。


「……いやぁ、はは。ごめん。俺なんか生きてたわ」


「「……は?」」


 振り返るとショウが居た。


「その、なんだ?俺の為に泣いてくれて嬉しいというか」


「「ぁあああ!!死んどけ!!」」


 私とマリの渾身の突きが、再び溶岩ダイブさせた。


「「どういう事!?」」


 私とマリは凄い剣幕でルイーゼに説明を求めた。すると、あっけらかんとこう言った。


「え?残機あるに決まってんじゃん」


「「……は?」」


 そして、いきなり溶岩から巨大な亀のボスが現れた!


「「なっ!?」」


 辺りが大きな広場に変わった。



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