金策・熱闘・闘技祭1
《杉原清人》
「…果てしないな」
広大な街並みを前にして知らず知らずそんな事を呟いていた。
「だねぇ、…今までが比較的田舎だったから余計に広く感じるよねぇ」
度々聞いた歌詞の如く果てしない大都会ーーとまではいかないが『コロウス』は広く、熱気に包まれていた。
俺たちがここに来たのは『魔王の欠片』の回収…では無かった。
俺たちがここに来た理由、それは言ってしまえば酷く月並みな理由からだった。
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「金が足りない」
支出を書き記したノートーー所謂家計簿を睨みながらしみじみと呟いていた。
「どうしたの藪からスティックに」
ジャックに向かって先程まで見ていた家計簿をジャックの鼻先ーーのような三角の穴に突き付ける。
「ジャック、これが俺が独自に付けていた家計簿だ。これを見てどう思う?」
右へ左へ微かに頭を揺らしながらジャックは家計簿を眺めーー気付いた。
「えーと、食費は…いい感じに賄えてるね。狩りを高速で消化したのが大きいかな。で…あ、確かに不味いねぇ」
「そう、装備のメンテやモー太君の整備費用、稼ぐためとは言え場所は借りてる訳だから場所代。それだけじゃないぞ。モー太君の燃料もある。これだけあって賄えてるのは食費だけだ。ちょっと旅の続行には無理がある」
『旅の続行には無理がある』と聞いて露骨にジャックは顔を顰めた。
だが、カウンターは既に考えてある。
「ってな訳で金策だ」
勿論いつものように金策に走る訳だが…今回やる事はとりわけスケールが大きい。
狙え一発逆転、ってコンセプトだ。
「おぉ!流石清人!で、内容は?」
「こっから近い都市に『コロウス』ってのがあるんだけど。そこで年一で開催される闘技祭があるんだ。二対二のタッグマッチで三位入賞以上で賞金だとさ」
「成る程!それに参加するんだね」
喜色満面の笑みだ。
ジャックはこう言うテンプレでベタな展開がお好みだだから喜ぶのも無理なからぬ話だがーー残念。
そっちは片手間に、だ。
俺たちが真に手を尽くすべきは別にある。
「そこでーー縁日の屋台やって稼ぐぞ」
「斜め上ッ!?」
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「ってな訳で、こっからは闘技祭に参加しつつ屋台やって稼ぐつもりなんだけど異論はないか?」
「ん」
真っ先に手が上がったのはやはりと言うかアニだった。
「屋台やるより布を直で市場に流した方が効率良い」
アニは蜘蛛子の布と言うハンドメイドの布のブランド持ちだったりする。この布に使われている糸は一際頑丈で吸水性に富んでおり様々な場面で活躍する事から需要がかなり高いのだ。
だから流せば多分買ってくれるとは思うのだがーー。
「こっちではゼロスタートだし、新規開拓になるだろ?そうなると余計な手間が掛かったり厄介なイベントに巻き込まれたりしそうだから見送ったんだけどブレイクスルー出来るか?」
「…無理、では無いけど手が汚れるからぱす。私は清人の案に賛成」
手が汚れるって、直接手を下すって事だろうか。ここ最近のアニは少し物騒な気がする。これも唯の影響だろうか。
「んで、こっからが本題なんだけど班決めをしたい。具体的には、闘技祭参加者二名、屋台の手配二名、売り子二名だな。今回は交流も兼ねてクジで決めようと思ってる。まぁ、理由はギスギス解消ってところかな。それぞれ適任はいるだろうけど経験を積んだり、或いは仲を深めたりする為に相互努力して欲しい」
「清人にしてはえらく過程重視だねぇ…まぁそんな趣旨も悪くは無いし僕は賛成かな」
「私も構わないわ。誰になろうがいじり倒すだけよ」
「唯ちゃんはぶれないねぇ」
侍ゴリラーズは…微妙な顔をしていた。
分かってはいたがあくまであの二人は夫婦だ。これをする道理はないし、最悪スワッピングとも取られかねない。
我ながら今日とて思考がクズい。
「うーむ。まぁ、ええか。ほいたらやろか」
「一が大丈夫なら私も構わない」
「決まりだな、じゃあーー運命のクジ引きタイムだ」
リーダーだからとアニの勧めで一番先に引きーー『一』書かれたクジを引き、俺は闘技祭参加者グループに決まった。
続いてアニ、唯が続け様に『三』の売り子を引き、残るは一、篝、ジャックの三名。役職余りは闘技祭参加一枠と屋台の手配で二枠。
これでジャックが闘技祭に来れば万々歳。実質一番安定したタッグだし、一が来たら闘技祭エンジョイ勢だ。試合の合間に酒を飲み歩くのも悪くは無い。
がーー運命の女神は悪戯に微笑んでしまった。
「およ、僕は『三』屋台の手配だねぇ手配後は暇だから遊べそうかな」
「ワリャも『三』や。宜しゅうのジャック」
と、なると。
必然的にーー。
「『一』私が闘技祭参加か。戦力としてはまぁ妥当か。宜しく頼む、団長」
篝が俺のパートナーになる訳だ。
「珍しい取り合わせだけど宜しく頼む」
こうして奇妙な金策は始まったのだった。




