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転職しますか? はい/いいえ 2

《杉原清人》


目を覚ますと見慣れない天井だった。


にしても何か妙な夢を見た。こう言った場合は大抵良く覚えてないのが定石のはずだが、俺は幸か不幸かハッキリと認識していた。

まるで、別の人間の追体験をさせられた様な不思議な気分だ。

目玉辺りしかない『魔王』との邂逅。

『魔王の欠片』の正体。それと…この世界そのもの。俺が知るべき事柄は多そうだ。


何がともあれ先ずは朝飯なのだが。

先程から腹の嘶きが止まらないので少し恥ずかしくもある。


体を起こすとジャックが外したと思われるガンベルト風の収納を再び腰に付ける。その隣にはハールーンからくすねた紳士の杖があった。どうやらジャックが回収してくれたらしい。


ハールーンから奪った携帯食料を貪りながら今日は一日中パンフレットを読む日にしようと決め、時間を置いてしまったがパンフレットを取り出した。

そして文字が読めない事を思い出し、ジャックを呼び寄せる。


『ギルドの利用規約及びシステムについて』


・ギルドに登録する際、タンク、斥候、ヒーラー、アタッカーの四部門から一つを選択しなければならない。

ギルドの緊急時の派遣は登録の際の部門を参照するものとする。


・ギルドには優劣は無く、難易度のいかんに問わず誰もが平等に仕事を行う機会を与える。


・討伐の証明は原則指定の部位のみで判断する。それ以外の部位を持ち込んだ場合は討伐は証明されず、給与は発生しない。


・ギルドに加入した場合、月に銀貨二枚をギルドに収めるものとする。これを怠った場合、ギルドカードは失効と見做す。また、失効したギルドカードは再び金貨一枚の支払いで有効となる。


・ギルドに加入した者に対してギルドは以下の恩恵を与えるものとする。

1、大図書館の解放。

2、修練場の解放。

3、提携した道具屋、武器屋、防具屋での値引き。

4、個人証明のパス。


・ギルド会員が犯罪を犯した場合、犯罪の種類、度合いに関わらず死刑を執行する。尚、逃亡した場合は指名手配を速やかに行ないギルド会員全員に対して常時対象の殺害許可が与えられる。

※死亡したギルド会員の死体を漁る行為は特例的に窃盗にあたらない。


・ギルド会員は犯罪以外の全ての行動を良識ある範囲内にて認められる。


・ギルド会員の全ての行動は自己責任として当方は一切の責任を負わない。


「これは…死ねと言ってるようにも読めるな」


「そうだねぇ…。でも仕方ないんじゃないかなぁ。この世界の食は豊かっぽいし、人は増える一方、間伐と考えれば中々悪くないよ。食い扶持を減らしつつ情報アドバンテージを得られる訳だからねぇ。悪い点を言えばギルド自体にヘイトが集中しそうな点かな。人がわんさか死ぬとあれば外聞も悪くなるし」


「確かにそうだな」


外を見ると真昼間でどうやら長い事パンフレットを読んでいたらしい。


「ジャック、飯食ったらギルドに行くぞ」


「承知だよ」


そう言えば宿を取った覚えがないけど、それはどうしたのだろうか。

案外人外のお客さんも歓迎していたりするのか?などと考えながら宿を発った。


昼は屋台のナンの様な物を買って食べた。

これがまた悪くない。生地自体に塩味が均一に行き渡っており野菜や羊肉マトンを巻いて食べればボリュームがあって見た目よりずっしりした良い昼食になった。


何度目かのギルドホールの扉に手を掛けると今回はどうやらツイてたようで開けた瞬間お通夜では無かった。


相変わらず人気のないエンゲルの列に加わると直ぐに順番が来た。


「よう。お前さんギルドに加入するって決めたのか?」


「ああ、やっぱり稼ぎの無い男はモテないからね」


軽口を叩きつつ代金を渡し代筆を頼む。


俺の選択する部門は斥候だ。

敵の攻撃を受け止める気概も無ければ、完全に攻めに徹せれる程武器の扱いに長けているわけでは無い。

第一魔素ファースト・カルマでの炎の発現が辛うじてフィニッシャーになる火力があるだろうが単騎では運用し辛い面が存在する。なまじ高い火力が出る分、ヘイトを溜めやすいのだ。

俺の戦闘は基本的には近距離と中距離だ。近距離の際はそこまで問題にはならないが中距離になると急に火力が出る分、敵愾心を煽りやすい。

要するに狙われる。

狙われたらば少なからず被弾するのは確定。

ではどうするか。逃げの一手、ヒットアンドアウェイだ。

身軽に第一魔素ファースト・カルマを撒き散らし当てたら逃げて今度は近距離を狙う、と言った戦闘が理想的な部門と言えば斥候しかないだろう。


「名前、年齢、特技、部門、使用武器を教えてくれ」


「名前はハールーン。年は十九、特技は第一魔素ファースト・カルマによる火の発現。使用武器はメインが杖、サブがナイフだ」


エンゲルが言った内容を直ぐさまエントリーシートに書き込んで行く。


「あとはココにサインを」


「あいよ…って言っても字が書けないぞ?」


「本人が書いたものだっていう事実が欲しいだけだから適当にそれっぽく書いてくれれば充分だ」


との事なのでウネウネと蛇がのたくった様なものを書く。我ながら酷い出来だと顔を顰めたがそれはさておき、晴れて俺はギルドの仲間入りを果たした訳だ。


「良し、これでお前さんもギルドの会員だ」


「早速だけど、修練場ってどこにあるんだ?」


「ギルド一階の奥の方だ…具体的には英雄の肖像を右手に曲がれば修練場だ」


ありがと!と短く返すと修練場へ向かってせかせかと走った。


「ハールーン?どうして急ぐのかな?」


「いや、よくよく考えて思ったんだよ」




「俺、斥候だけどナイフ使えない」





「はい?」

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