武器を装備しよう 1
「え、ハールーンって日本でナイフ片手にブイブイ言わせてるタイプの痛い子じゃないの!?」
ジャックの驚きようの激しさに目を丸くするが実際のところ貶されているので心外だとばかりに反論する。
「俺は至って穏健派の人間だよ。ナイフなんてそうそう握る経験は無かった」
「とか言って本当は何人切ったのかなぁ…?」
「いや、手先が不器用なもんでね。刃物の扱いは思ってる以上に酷いと思うぞ?何せ包丁すら碌に使えないくらいだしな」
修練場に着いたが修練場の不人気さが伺える過疎っぷりは実は予約制ではないかと疑い出すレベルで酷かった。
ガランとしていて誰もいない。
にも関わらず内装は掃除されていて綺麗だ。日本の道場をイメージしてくれれば一番近いだろうか。汗の匂いはせず、木のまったりとした匂いが微かに残っている。
「ジャック、考えてみろよ。俺は生粋の日本人でこっちに来てから杖とナイフを武器にした訳だから素人だ」
「何か納得いかないなぁ…」
「それで、ものは相談なんだけどーー」
「ナイフと杖の錆にならないか?」
俺は勤めてニッコリと微笑みながら提案したのだった。
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「ふぃー、中々疲れたな。ジャック、ナイスファイト!」
「もう懲り懲りだよ…」
一通り試すだけ試してみたが杖は中々様になったと思う。
ハールーンの動きをなぞるように動いてみたのだが最初は動体視力が追いつかずに失敗しまくった。それから身体スペックに合わせて目標を下方修正する事で何とかモノにした。
ハールーンより格段に落ちるがそれでも街中の痛いヤツに喧嘩を吹っかけられた際に返り討ちにする程度には強くなった。…と思う。
そしてサブウェポン筆頭のナイフは…殆ど改善しなかった。
原因は分かっている。動きをトレース出来る相手がいないのだ。
今日の収穫はアニメのような動きは実際にやろうとしても無理がある事が分かった事か。
何ともお粗末な結果だ。
「と、なれば武器屋で他の武器を探すか」
「案内するよ。さっきは出番をエンゲルさんに取られたからねぇ」
ジャックの案内に従い武器屋に向かう。
「そう言えば結局『魔王の欠片』ってどこにあるものなんだ?」
「うーん、まだ良く分からないかなぁ。多分順次出現するタイプのやつなんだろうね。うん、腐れ外道神のやりそうな手だよ」
「で、まだ出現してないと」
「そうだね。お、着いたよ」
武器屋に到着した。生前の世界で中世に実存した商人ギルドみたいにこれ見よがしに剣と盾の意匠が施されている。要するにまんまゲームの武器屋って感じだ。
ドアを開けるとドアベルが鳴り内装が漸く露わになる。
「いらっしゃいませ!」
店員さんの元気のある歓迎に俺はーー。
「可愛い!!」
無意識のうちにそう叫んでいた。
「ハールーン!?」
むさ苦しいおっさんだらけの日常に落とされた蜘蛛の糸、砂漠の中のオアシス。
即ちーー女の子だ。
慎ましやかで自己主張のない奥ゆかしさのある胸、店内の照明を浴びて白むうなじ、天然物の茶髪。
ああ、正に女の子。
灰色の地味な動きやすい服装にエプロンってのも実用的で飾り気のない素朴な味がある。
可愛い。そう、可愛いのだ。
女の子は可愛いのだ。
当人や他の人の迷惑にならない程度に眺めていたくなる。
「ハールーンどうしちゃったの!?」
「ジャック、俺は女の子ってカテゴリが大好きだ」
「資料と大分性格違うねぇ!?杉原清人って相当拗らせたレベルで一途じゃなかったかな!?」
「わかってないな。俺は女の子に対して一途なだけだ。さっきも言ったろ?カテゴリ萌えだ」
「それ却って不純!!」
「不特定多数のお付き合い…ハーレム…」とかをほざくジャックを横目に女の子に話しかける。
…いや、ちょっと待て。
ジャックに盛大に勘違いされている気がする。
俺はハーレム築かない系男子筆頭だ。でなきゃ今まで童貞やってはいない。
…それに、実際俺には彼女の影を追ってるに過ぎないのだから。
が、今は女の子だ。
矛盾するようだが、眼福なものだから仕方ない。
「ちょっと良いかな?」
なるべく紳士的に話しかける。
「は、はい何でしょう」
「サブウェポンを探しるんだけど何か良いものない?」
それでしたら、とナイフが並ぶ一角に連れてこられた。
若干困惑気味だった。…やはり女の子は遠目から愛でる位が丁度いいのがハッキリと分かる一幕だった。
「やっぱり、ナイフが一番メジャーですね」
とーーそこで気付いた。
異世界とは言え、リアルだ。
つまり一口にナイフと言っても大量に種類がある訳で。
ゲームだと『ミスリルのダガー』とか形が絶対的に決まっているが、多分この世界の『ミスリルのダガー』は何通りもの『ミスリルのダガー』が存在する事になる。要は材質に過ぎないのだ。
グリップの形状、利き手、製作者…全て異なっている。
だから武器のバリエーションが嫌になるくらい多い。
「お客様の利き手はどちらでしょうか?」
「ああ、右だ」
「逆手持ちは致しますか?」
「まだそういうのははっきりしないな。何せズブの素人だからな」
そう言えば、アニメのキャラはよく逆手持ちしているがあれには何か意味があるのだろうか。
実際に試した俺の所感ではかなりリーチが限定されて面倒に思えた。
因みに修練場でジャックを逆手持ちで切ろうとして徒手で殴る感じをイメージしてナイフを振るったが素人故か手元がブレてジャックの南瓜頭を素手で殴る羽目になった。
南瓜が異様に硬くて悶絶したことも追加しておく。
一体何製なんだろうか、あの南瓜。
いや、南瓜は南瓜か。そういう種類の南瓜なんだろう。きっと。
「そうですか?では、無難にフォワードグリップエッジアウトの鉄製ナイフが宜しいかと…」
「フォア?リップ…アウト?」
頭の上で疑問符が飛び交う。
フォアードが前方で、グリップはグリップだろう。エッジは刃先かーーがアウト、外?
「フォワードグリップエッジアウトです。掻い摘んで言うと普通のナイフです」
一瞬だけここがスターバースト珈琲店かと錯覚してしまった。
大学の悪友とカラメリーゼマキアートのショートをチビチビ飲むのが好きだったな…。
名前が長いからそんなどうでもいい事を考えてしまった。
「うーん、でもナイフ自体は数本持ってるけど上手く扱えないんだよな」
「そのナイフ、拝見しても?」
ガンベルト風の収納からナイフを取り出す。
当然ハールーンからくすねた物だ。
「…お客様、数本毒液が塗られた跡が見受けられるのですが……」
「誤解だ!それは初めての戦利品で取り敢えず回収した方が良いかと思って!」
ハールーンはとんでもないものを残していきました。毒液付きのナイフです。
……俺が盗んだのだけれど。




