アップデート3
さて、鼠ハンティングに必須な条件とは何か。
回転数?効率?
どちらも大切ではある。しかし正解ではない。
答えは衛生だ。鼠を始めとした齧歯類は菌の貯水池と呼ばれる程周囲に悪影響を与えると聞いた事がある。
まぁ、それでも食べて生きている俺たちは何なのだと言う話だが。
生前の世界でも極度の飢餓状態の人間が鼠をビタミンやタンパク源として摂取する事で生き延びたと言う例もある。鼠は食糧事情が事情なだけに確保する他ない。
しかし、考えてみよう。
鼠はサルモネラ菌やペスト等々危険な菌のキャリアにもなる。だから一々傷口を自分で焼いて止血と殺菌をしてる訳なのだがそれはさて置き。
「ジャックは動かせないし、俺の単騎。ノミとか怖いし持ち帰るにも適さない…あの時よくも単騎しようと思ったもんだ」
現状、かなりマズイ。
詰みをどうにか超えたら更に詰むと言う負の連鎖だ。デフレスパイラルだ。
しかし悲しいかな、こんな場合に有用なスキルが無い。
『単一加速』『双加速』
『盗賊の極意』
『とんずら改』
『罠解除『序』』
『第一魔素』
『第二魔素』
『木刀術』
『杖術』
加速系統が二種、盗賊系統が三種、魔素系統が二種、武器系統が二種。
系統だけで見れば四系統しか所有していない。
「これでどうしろと…」
まず加速系統は大体どんなスキルかは凡そ把握している。汎用性が高くて良いスキルだが双加速にもなると操作性が若干悪くなり平時では使いにくい為、若干ピーキーな性能になっている。
次に盗賊系統。基本的に扱い易い。盗賊の極意なら対象と意識さえあれば万能自己バフになるし、とんずらも同様。ただしとんずらで敏捷を上げた上で加速系統を使用するのがお決まりになってる節があるから圧倒的な速度差をつけたい場面しか用いない。バフの重複が利点ではあるが基本的には加速系統で賄える範疇だ。
罠解除『序』…使う場面が皆無だから死蔵している。練度も無いし使わないだろう。
総評としては優秀な自己バフはあるが使い所が難しい…これまたピーキーな性能だ。
……。
汎用性の高い性能をしてる人権スキルが単一加速と武器系統しかない。
後はピーキーさの塊だ。
魔素系統だってこの燃費だ、使い所が悲しくなるくらい少ない。
「…いや、発想の転換だ。俺は狩りをするより盗む方が早い。けど対象も無ければ宝箱も無い。その上食糧が出る保証も無しと来た!…マジで餓死しかねないぞ俺達…」
諦めて収穫無しで撤退を考えた瞬間、視界の端にそれは写り込んだ。
無数の鼠の先に…宝箱が。これ見よがしに配置されていた。
「勘弁してくれよ…」
帰ろうとした途端これだ、全く酷いものだ。
罠の可能性は大だし、何なら居るかは分からないがミミックの可能性もある。
しかし、確かに宝箱はそこにあった。
これを酸っぱい葡萄だと断じて帰るのは易い。しかし、甘い葡萄を口一杯に頬張れると思えば…せめて手を伸ばす努力をしてから酸っぱい葡萄だと言っても遅くはないのではあるまいか。そう考えるとやらないと言う選択肢は無くなる。
「一丁やりますか!」
気合いを入れ直す。
今からやらかすのはリソースを無視した大爆殺。
久しぶりに雹招来改冷蔵棒を取り出す。
熱衝撃?
そんな生温いものではない。第二魔素を起動してフロア全体を濡らす。当然鼠達は文字通りの濡れ鼠と化している。とあれば。
雹招来改冷蔵棒を地面に突き立てる。
氷の性質を持つ武器が地面に触れた事で湿った足場は瞬時に凍結する。
凍結は広がりーーやがて鼠達をうっすらと包んだ。
次いで取り出したのはハールーンの杖。
これを限界まで熱し。
「杖術補正…来てくれよ…ッ」
地面へ振り下ろす。
するとピキリと氷結した地面の表面にヒビが入り連鎖反応のように杖を起点に割れる。
いつもの熱衝撃だが、今回は範囲が違う。
全体範囲攻撃だ。
しかし鼠自体のダメージは実に軽微に見える。無駄にヘイトを稼いだだけかと言えば勿論NO。
これには第二波がある。
武器系統共通の特性ーー衝撃波攻撃。
『ん?刀で衝撃波?出せるやろ。常識やて』
一は庵に居る時にこんな事を言っていた。
肩を治してた時に不思議に思って調べたらどうやら武器系統によるものらしいと判明した。
…と言うかこの世界では常識の範疇だったらしいから判明と言うのはいささか大袈裟な表現だが。
つまるところ、武器で攻撃した際に衝撃波判定が入るようになるのだ。
そして衝撃波には武器の状態や付与属性が参照される。
故に。
熱波が氷結した鼠達を破砕していく。
ただし…。
「……まだ使えそうだけどハールーンの杖がドンドン耐久性が低くなってる…弊害もあるって事だよな」
武器の損耗度合いが激しくなる。
が、何にせよ今だけはフロアの鼠達は全滅している。今の内に宝箱を回収してしまおう。
リスポンが怖い。
「『罠解除『序』」
ポゥと宝箱に近付けた手が淡く光るが何も起こらない。罠は無いらしい。
宝箱を開けると…。
「んんっ?」
場違いにもハロウィン用のコスプレ衣装が入っていた。




