アップデート1
継続回復、それは俺に最も重要な要素の一つだ。
リソースの問題以外に俺には問題がある。それは被ダメージの多さだ。
回避が出来ない。…いや下手くそなのだ。
動体視力が間に合わないまま持て余し気味の圧倒的な速力で走れば敵や壁にぶち当たる。
だから回避をオーバーにするしか方法が無く俺の性能のピーキーさを向上させる原因になっていたのだが、これでやっと解決出来る。
即ち、技術無くても回復任せに速度殴りする系ゴリラへの道だ。脳筋過ぎる。
「僕の継続回復なんだけどさぁ、これが超強力でねぇ!なんと!半径二メートル範囲の味方を範囲に入れば継続回復出来るんだ!!」
「おお!強いな!?……ん?半径二メートル?」
「うん、半径二メートル」
少し凄いと思ったが冷静になって考えてみよう。
俺は初速から最大時速二百七十キロを誇る。
分速にすれは六十分の一。つまり四キロと五百メートル。
秒速なら七十五メートル。
さて、素朴な疑問なんだが。半径って言ったからには多分円形だろうと仮定して、直径で四メートル。
俺がコンマ一秒でも全力疾走した場合俺の進む距離は七メートルと五十センチ。
…んんっ?
「…あのな、ジャック。それだと俺走れないんだけど」
「え?何で…あっ」
ジャックも理解したようだ。ジャックの回復を活かそうとすれば俺の速度が死ぬという事に。
あっちが立てばこっちが立たずを見事に体現している。
「俺…走れない…ッ!」
「まぁ、一回使ってみようか。癒せ、『パンプキンヒール』ッ!」
「名前ダサっ!?」
詠唱擬きをした後、デフォルメされたジャック・オ・ランタンを模った魔法陣が展開される。
その大きさは説明通り半径二メートルの円形。ジャックが動けば同様に魔法陣も移動された。
範囲に入っている俺の身体は緑色に光り如何にも回復中といった視覚エフェクトがかかった。
実際、火傷の跡も消えた。下手したらニキビですら消えるまである。効能は上々と言ったところか。
「…ジャック。これさ」
俺が移動したとしてもジャックが動けばある程度は距離的な制約が緩和される。
「言わんとする事は分かるけどねぇ」
と、ジャックは言わんとする事を察したのか渋い顔をした。
「またターバンになってくれないか?」
「まさかの勘違いだった!?」
「だって一発芸にしておくのが勿体無いくらいだもんな。俺の速度は遅くなるけどウェイトで安定感増すし、ジャックの継続回復の恩恵を受けれる。ジャックは安全地帯を作れてWinーWinだろ?」
「ジェットコースターの間違いじゃないかな!?」
思い付いたら即実行したくなるのが人間の性。ともあれターバンは本当に嫌そうなので背負う事にした。
「ほら、ものは試しだ。蔓は出せるな?背負いながら回復と疾走を試すぞ」
恐る恐ると言った様子で腰に蔓を巻き付ける。だが、ガッシリと巻き付いていないと最悪転落して地面がおろし金に早変わり、なんと事もあり得るので入念にチェックする。
カボチャ頭が背中に密着する感覚は兎に角硬質で柔らかみが無く、見た目は嵩張るのでダサいランドセルのようだ。
「癒せ、『パンプキンヒール』!」
「『単一加速』」
シキミのフロアを抜け出して腐乱死体の跋扈する区画に滑り込む。
「行くぞ…っ」
「うわぁぁぁぁあ!?」
悲鳴が脳を揺らす。背負っているから鼓膜にモロに響く。
加速感が堪らなく心地良い。
腐臭のする風を切りながらずんずん進んで行ける。『パンプキンヒール』のお陰で三半規管まで回復してくれているのか加速自体は酷ではない。
これならーー。
「飛ばすぞ!『双加速』」
更に速度を上げると過ぎ去る景色が車窓から見た景色に限りなく近くなってくる。
目指すは魔獣のいたフロア。
暴走列車と化した俺は腐乱死体を突き抜けながら尚も止まらず。
「たぁぁあすぅぅけぇぇぇてぇぇぇ!!!!」
ジャックの悲鳴も未だ止まず。




