決意と試練のアステリズム4
シキミのフロアに戻る頃にはすっかりゲッソリとしていた。
当然だ、また加速を使用したのだから。加速の使用は燃費的には問題ないが多用すれば三半規管に支障を来す。要するに乗り物酔いに近い。足取りもふらふらとして覚束なくなる。
それでも墓石をスロープ代わりに使って何とか辿り着くとすぐさまへたり込んだ。
これが乳酸が溜まるって事なのか、動くのが酷く億劫だ。
「ジャック…ジャック?」
時間は定かではないが今朝方へたっていたジャックが見当たらない。
視線だけを動かしてジャックを探す。
そこはかとなく嫌な予感がした。
隅にある黒ずんだ物体がヤケに目を引く。
まるで放置した野菜屑のような様相のソレは一向に動く気配がない。
はて、今朝方には無かったモノだ。どうしてこんなものが転がっているのだろうか?
「嘘だろ…?」
ソレは腐り果てて穴の開いたカボチャ…に見える。
見慣れた形、なんてものではない。こっちに来てから一時的に見ない時期があったとは言え毎日見た顔だったから。自慢の二つの三角形の目はただ一つの大きな穴となり、ギザギザの口はあんぐりと開き裂けている。繊維すら見えるようだ。
「ジャック…」
呟きながらそれに向かって手を伸ばす。また失敗はしまいと戒めながらもまた間違えたのだろうか。だとしたらなんて愚かーー。
「やぁ!清人!遅かったね!!」
背後から聞き慣れた声だが敢えて無視して俯く。
ついでに伸ばした手を地面にやんわりと叩きつける。
「ねぇビックリした?僕のupdateが終わったんだ!色々出来るようになったよ!凄くないかな!!」
さて、こっからは茶番劇場の時間だ。俺の心配を返して貰おう。
「ジャック…」
御構い無しに背後にいるソイツの名前を呼び続ける。ちょっとした仕返し、もとい嫌がらせだ。
「えーと、僕。ココ、Alive!分かるかな?僕ジャック、あなたの後ろにいるの…」
カタカタとこれまた聞き慣れた音。
俺はシリアスが何処かへ飛んで行ってしまった事を認めると意を決して再び口を開く。
「…メリーさんみたいなヤツのせいでシリアスが…クソッ、戻れよ…戻ってこいよシリアスッ!!」
悲痛な声で絶叫する。
ヤケに反響したもので若干エコーがかかって面白い。
だが…シリアスがここで死んだのは変えようのない事実。もう…シリアスは死んでしまったのだ。
「最早僕の名前ですらないねぇ!?」
「うるさい!当たり前だろ!死闘を終えて帰ってきたらジャックが死んでると思いきや実は脱皮ってそりゃあ無いだろう!!?死ぬなら黙って死ね!!」
「オマケに凄く辛辣!?」
さて、先程のカボチャだが…うん。
結論は前述した通り脱皮だった。多分口の中からこう…ガパッと飛び出したのだろう。一昔前のSF映画のエイリアンの如く。そりゃあ元のカボチャの損傷具合が酷い訳だ。
カボチャは脱皮するのか?というのは置いておくにしてもスルーしてしまった台詞の中に色々と地雷が含まれているのが気になる。
「で、アップデートか」
「うん、updateだねぇ。いやぁ、まさかスリープモードに入った挙句脱皮するとは僕も驚きだよ。多分カルクィンジェ・レプリカが頑張ってくれたお陰なんだろうねぇ」
「…ツッコミ所は多いけどスルーするとして何処が変わったんだ?」
「うーん、自分で簡易ではあるけどステータスが確認できるようになったのと、絆共鳴って新システムが導入されたっぽいねぇ」
「合体必殺技みたいなヤツか?」
exactry!とジャックは骨の指を器用にパチンと鳴らす。
「どうやら絆共鳴を起こすと互いの信頼度に応じてステータスが上昇したり、絆共鳴専用技が出せるようになるっぽいよ」
「ぽいぽい」
「但し絆共鳴は一人指定だね。…この場合だと必然的に僕しかいないかなぁ」
…あれ、これは不味いのではないか?
敵対勢力を考えてみよう。
先ず、デイブレイクからはテテとシュヴェルチェ。
復讐組の唯とジョイド。
ギルドの面々。
…絆共鳴を使えそうな敵対勢力が多過ぎて相対的に弱体化したようにしか見えない。
何だこれは、死ぬのか?
いや、待て。
一と篝の侍ゴリラペアなら有り得る。
しかし、実質俺たちは弱いままではないか?
スタミナ問題は解決に至らず、敵のインフレだけ進んだって印象が強い気がする。
「…しょっぺぇな」
それにデイブレイクの面々はスキルコネクトとかいう公式チートがあるし、どうしたら勝てるのだろうか。
『『スキルコネクト』、デュアルステップ&跳躍』
連理の鶴翼を使用した状態の篝が横なぎを外す…否、逃げられる程のタイミングの巧みさと反射。
これに絆共鳴が加わると一体どうなる事やら。そもそもシュヴェルチェが出たら勝てる気がしない。
それにあのサトリお化けと唯のペアも脅威だ。欠片を所有する転生者のジョイドに確実に俺を消しにかかる唯の殺意高い系のお二人の絆共鳴とか考えたくもない。
「あ、あと良い知らせがあるよ」
「僕、継続回復が出来るようになったみたいなんだよねぇ」
「…は?」




