デイブレイクがあらわれた1
イベント戦闘。
あるとは思っていたがまさか今来てくれるとは思わなかった。
何故か、理由は簡単だ。
人海戦術。
敵も承知だろうがこっちは五人。
俺とジャックを抜いても優秀なアタッカーは三人。戦闘ではなく遅延だけならジャックは優秀だし俺は胡座をかいて観戦出来る…ってのは嘘だ。
ヘイトを集めてるのは間違いなく俺だ。
胡座をかいてたら確実に死ぬ。
が、俺にも考えがある。
節約をしながらリスクを分散して戦うすべーーっ!?
景色が目まぐるしく変わる。
腹部に異様な衝撃。
蹴り飛ばされたのか?
そうに違いない。
いくつか思い当たる節はいくつかある。
まず最初に戦った場面で見せた足の速さ。その異様な脚力。
上空からの落下で傷付かない強靭な肉体。
「がっ…『双加速』ッ!」
後ろで岩盤漬になるくらいなら前のめりにセルフ前転して衝撃を殺してやろうと足に力を込める。
「格好の的だと思わなーー!?」
「天誅やっ!!」
前転終わりでしゃがんだ俺とデイブレイクの構成員の間に一が割り込む。
それに追随するように篝が『連理の鶴翼』を発動しながら追撃する。
「助かった」
腹部がジクジクと痛む。
骨は折れてはいやしないだろうか。心配ではあるが状況が状況だ。どうやって次の一手を振るか、それが問題だ。
「良いわ別に。それよかどないするん?」
「撹乱して遅延だな。ぶっちゃけ俺の手札だとまともに戦えない」
喋りつつも『水球』を極小サイズで浮遊させる。
まともに戦えないとは言え、怠慢を仕出かしたら死ぬ。
「霧かいな?」
「いや、ちょっと視界をズラせないかなってね」
篝の刀が拳に弾かれた。
拳に。
篝の刀を素手で相手しようものなら手首と手がすれ違う事になる。文字通りの意味で、だ。
となると考えられるのは身体強化系統。
脚力や落下の際の気圧変化でも平気だった点はこれで一応の説明がつく。
『スキルコネクト』が不穏だが、現在の状況からメタ読みして外したら取り返しがつかない。
主人公なら仕返しにスキルコネクト返しとかを華麗にするのだろうが、残念だったな俺だ。
ゴブリンにリンチされ、一対一では卑怯な手で辛勝。勿論実践を積まないとスキルは増えないし練度も変わらない。速度極振り魔で女好き。
ご覧の有様だ。
主人公らしからぬ要素がてんこ盛りだ。
だから、あくまで卑怯に卑劣に。
「対象は味方全員…浮かび上がれ。『エアライン』」
「!?」
デイブレイク構成員よ、今驚いたな?
それもそうだろう。全員の体がーー若干浮いて見えるのだから。
理屈としては全反射に近い。
要するに光の屈折だ。熱と水分で密度の異なる大気を擬似的に再現した。
蜃気楼。
エアラインとか言ったのは勿論ブラフだ。
だが、事実浮いて見えるのだから俺の数少ない手札を誤魔化すのには持ってこい。俺の手札を誤認させて警戒心を煽る、これが俺流のアシストだ。
「『スキルコネクト』、『デュアルステップ』&『跳躍』」
「『山茶花』!」
『連理の鶴翼』により速度と手数の増えた横薙ぎが胴体を捉えたーーはずだった。
しかし予想に反して斬られる直前、後ろに拳二つ分下がった上に跳躍して篝を殴り飛ばした。
「あれが…『スキルコネクト』か」
「勝負ありと見て構わない?」
霧だ。
こうなっては燃費など気にしては負ける。でも霧を発生させれば…!
「動くな蘇った『魔王』。動いたらその首、飛ばすぞ?」
さて、この勝負貰った。
思い出してみよう俺のパーティーは総勢五名。
近接を三人で当たったが、はて?
残りの二人は何処なんだろうな?
構成員の背後から見慣れた蔦が関節に巻き付く。蔦は太く曲げ伸ばしには相当邪魔な事だろう。
「糸よ救いたれ」
そしてアニが糸を放出する。
『シッパーレ・アモーレ・ニード』の爪で出来た一対二本の短剣。『ペインオブノーリターン』。
初めて戦った際に鋭利な糸を放出し俺の機動力を奪った挙句、炎を切断した武器だ。
「ジャック、アニ、ナイスだ!」
「ぶい」
炎を切断した絡繰。それは糸の性質によるものが大きい。
第一に蜘蛛糸自体が同じ細さに加工した鉄よりも強度が強い点。
第二に吸水性に富み湿気等をよく含む点。
この二点でアニはウォーターカッター擬きとして運用して俺の炎を切断したように見せかけてたのだ。
つまり今、蔦と蜘蛛糸に絡め取られた構成員は無条件で湿気を含む事になる。
腰に提げた秘密兵器を出すタイミングが来たようだ。
「『雹招来改冷蔵棒』」
篝との戦いで破損した雹招来を一に頼んで杖に仕立て直して貰った一品。もとより鈍らと呼ばれただけあって杖に改悪するのに手間はさほどかからなかったとは一の弁。
木刀術スキルとのシナジーを捨てる代わりに属性武器としての性能と耐久性に特化したーー爆破運用前提の武器だ。
「冷えろ」
そして、もう一本。お馴染みハールーンからくすねた杖。これはもう熱する一択でーー。
水蒸気爆発治ったばかりの肩が辛いから熱衝撃で決めだ。
「『とんずら式加速システム』」
胴に一突き。
それで片がつく。
俺を縛る約束事も捨てた。だから届くはずだったのだ。
しかし、現実ではそうならなかった。
「慢心したな。テテ」
「シュヴェルチェ様!!」
巨体が、俺と構成員の間に『とんずら式加速システム』よりも早く割り込んだ。
あり得ない。
俺の最速は条件が揃えば時速270キロを超える。
それを超える速度だなんてーー。
「ここは貴殿の勝ちとしよう。我々は引き上げる。しかしゆめ忘れるな、デイブレイクは魔王を逃がさぬと」
「シュヴェルチェ様!しかし!」
「テテ、お前は驕ったと見える。私は会議ものだと思うが?」
次元が違う。
黒い鎧を身に纏い、獅子の如き眼光が構成員ーーテテを射すくめた。
だけなのに、何故か俺まで寒気がする。
「また会おうではないか、蘇りし『魔王』よ。次には私を前に震えぬと良いな」




