黄昏の後奏曲1
「何か…どうしてこうなったんだ?」
「どうもこうも清人の肩の回復待ち?」
俺達は一の庵に厄介になっていた。
しかも、何故かアニまで居る。
まぁ、アニが言った通り、戦闘後の肩の損傷が激しく疲労骨折や内出血等々で動くにも動けないという盛大なオチがついてしまい見事な遅延っぷりを見せているのだがーーどうしてこうなった。
現在の庵はアニ、俺、ジャック、篝、一で半ばシェアハウスと化していて非常にカオスな事になっている。
因みに、アニが俺を清人と呼んだことから偽名がバレて一からはハザミでの名前にニュアンスが近い事と言うことで晴れて清人と呼ばれることとなった。
「随分とまあ…爛れた庵になったもんだよ」
しみじみと呟く。篝は一の幼馴染でもあり周囲の虐めから守ってもらった恩があり、その上乱心した際に真っ先に刀の切っ先を向けたのは一だった手前、罪悪感も相乗して今では名実共に一の嫁と化した。
で、一は篝にべったりしてていかにも新婚さんっぽい。…爆ぜないだろうか。
今では夜に一の私室を訪れるのはご法度となった。理由は…察して欲しい。
夜のソーラン節がどっこいしょぉどっこいしょぉなのだ。
その最中転がり込んだのがアニだった。
有頂天の一と交渉したらしく、すんなりとこの庵に溶け込んだ。
…溶け込んだのは良いのだが。こっちは別ベクトルで爛れてる。
吸血だ。
俺の攻略が難しいとみるやいなや俺の肉体を物理的に弄る事に全力を出し始めたのだ。
そのせいか、回復力がかなり向上した。どうやら生き餌の特性らしい。それでもまだ肩は治らないが戦闘の際は役に立つ事だろう。
しかし大分問題が増えた。
俺にも吸血衝動が根付いてしまったのだ。
一応アニに限定されてはいるが吸血されるとスイッチが入ってこっちもつい吸血してしまうようになったのだ。
そんなこんな二人で血を吸い合うシーンを一が見てしまい、俺の部屋も夜間の侵入がご法度となるのは時間の問題だった訳で…。
「風紀が乱れるな…」
「いやいや、君は大の女の子好きの時点で風紀なんて絶無だからねぇ。自覚無いのかな?」
ジャックが煽るように言う。成る程、一理ある気がしないでもない。
が、腐っても晩年は童貞。彼女もいない俺が健全でなくて何だというのだろうか。
「違うしぃ。俺は純で一途で健全な男子ですぅー」
むくれて反論してみる。
ホントかなぁ…とジト目でこちらを見るジャックとは反対にアニは痛ましいものを見るような視線を投げかけた。
多分一途と言ったのに反応したのだろう。アニからすれば、何時までも俺が死んだ人間の事を引きずっているせいで肩身の狭い思いをしているのだからこの言い草は不味かったと思い直した。
アニには申し訳ない事をしている。
だが…何故そんなにも俺に好意を寄せてくれるのか。それは今も全く分からなかった。
「……」
そういえばこの庵で俺の事情を知らないのはジャックと篝の二人だけだ。
一には告白するってくだりで話したし、アニのその様子を刻印で盗聴していたためこの二人は知っている。
ジャックに言わないのも不公平な感じが否めないが内容が内容なだけに大っぴらに喧伝することは憚られた。
そんな微妙な心情を察してかアニがお花摘んでくると言って部屋から出て行った。
言え、と言う事なのだろうか。
…仲間だから隠し事は良くない。例えそれが罪の告白だとしても、言わないのはフェアじゃない。
「…なあ、ジャック」
それでも言うのを一瞬躊躇う。
「何だい?」
ふう、と息を吸い込んで覚悟を決める。言え、言え。
心は再三罪を吐露せよと主張するのだ。
「俺が…人を見殺しにしたって言ったら信じるか?」
「うん、大体察してた」
「猫を殺してーーこれは想像なんだけど…君は幼馴染の女の子が死ぬのを止められなかった。違う?」
「…ああそうだ。案外バレてるもんなんだな」
あの日の事が思い出された。
鳴り響くクラクションに、耳を塞ぎたくなるような衝突音。
これが、『杉原清人』の原点。
俺の背負うべき罪過の一つ。
「何故君はそんなに今も苦しんでいるんだい?」
だから、その言葉を何処かで待ち望んでした自分がいた。
俺は弱虫で、自分から言い出せなかったから。
「それは…」
もう一度息を吐いて気分を落ち着ける。
「ちょっと長くなる。俺が女の子好きになった理由と猫を殺した事と『暗いドア』ーーニャルラトホテプが言ってた『門』についての話だ」
「『暗いドア』ねぇ?」
「順を追って語っていくつもりだけど色々と分かりにくいかもしれないし、共感出来ない部分が多いかもしれない。だけど、俺の馬鹿げた話を聞いて欲しい」
俺は自然と姿勢を正していた。
…それでも一つだけ言えない事がある事に目を背けながら俺は口を開いた。




