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月華勝負編、堂々完結ーー。
《一凩》
淡い光が零れ出し、やがてそれは朧げに人の形に変わり、カガリノマエの前に進み出た。
「よぉ、篝。暫くぶりだな」
「梶…?」
「おうよ!俺以外にこんな美丈夫が要るか?」
ドンと胸板を叩くその動作はワリャ達と一緒に居た時と何ら変わりがないように見える。
梶やった。
ジャックは刀のツバに梶の魂が収納されていて、刀を破壊してその魂を解放すれば絶望に打ち勝つ事が出来るかも知れないといった。
そんで結果は見ての通りーー大団円って訳や。
「か、じ…ッ!梶ッ!!」
カガリノマエ…いや、篝は梶に抱きつこうとして腕が宙を泳ぐ。
触れない。近くて遠いみたいやった。
そんで、篝が泣きそうになるのを見ると胸が締め付けられる。真綿で締めるみたいにゆっくり、ジワジワと心を苛む。
「…よぉ、親友。ワリャも居るんやけんど無視せぇへんといてや」
そう声かけたのは妬けたからか、将又親友に会えて嬉しいのか。或いは両方か。
「おぉ!親友!何か老けたな!!」
「うっさいわ!大体誰のせいで老けたと思うとるんかこのたわけが!!」
「…何だか、懐かしいな。こういうの随分と久しぶりな気がする」
篝が言えば二人も揃って首を縦に振る。
「だな、お前らも死んだら地獄で酒盛りしようぜ?約束な?」
「まぁ、お前さんと一緒なら地獄でも楽しかろ」
かっかっか!、と梶は快活に笑って見せた。その空気はハールーンに語って聞かせた喧しくて…愛に溢れた空間そのもの。
梶は一転、居住まいを正すと。
「一」
「何や?」
これ以上なく真剣な表情で口を開いた。
「篝を頼んだわ」
「はぇ!?」
だからつい変な声を出してしもうた。
「いや、の?篝の意思ゆうものがあるやろ?」
「けどよ、ぶっちゃけた話。篝を不安にさせたのは俺が遠因になってる。それに、だ。恐ろしく私的な理由だがーー」
「ずっとお前たちが結ばれりゃ良いって、そう思ってたんだ」
真面目な顔でそんな事を言うものだから不覚にも笑ってしまった。
「本人の意思次第やけど…本当しょうもないな!」
「だろ?」
ジャックやハールーンがその場に居たなら変態だ!と言ったかもしれないが愉快な異邦の親友達は空気を読んでか引っ込んで行ってしもうた。
要するにこっからはワリャが舞台の主役って事や。喜劇でも、悲劇でも終わらせる役割を期待されとるってこっちゃ。
なら旗を掲げよう。
「改めて、篝。ワリャと…旅に出て来れへん?」
「承知した。……うん?」
篝は快諾しーー、首を傾げた。
「言い忘れたけど、ワリャ新しく親友が出来たさかい。そいつに厄介になる事に決めたんよ」
「かっかっか!思い切ったな!あの爆発魔だろ?そりゃきっと楽しい旅になるな!」
「ちゅう訳や。旅の目的も何らあらへんけど…付き合うてくれ」
拳を突き出す。
「……まぁ良い。私は一凩に着いて行く。不束者だがこれから宜しく頼む…凩」
篝はおずおずと控えめにワリャの拳に自分の拳をぶつけた。
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「さて、と。エンドロールにゃ丁度良い頃合かね」
影から三人を見守るのを止めてジャックの元に駆け寄りナイスフォローだったと労う。
「これで劇はお仕舞いかぁ…感慨深いねぇ」
「いや、まだ終わってねえから。エンドロールがあるから」
俺は観衆に向かって歩き出してヤケクソ気味に宣言する。
「『こうして悲恋の剣姫はしがない鉄打ちと旅に出ることになりましたとさ』」
さぁ、景気良く打ち上げよう!!
夜空を彩る大輪の花を!!
「花火がドドンってな!!」
残りカスのような魔素を空に打ち上げる。
たった一発限りの、数秒間の輝き。
脱力感にフラつきその場で仰向けに寝転ぶと丁度火花が真っ直ぐに軌跡を描いていた。
「…疲れた」
「だねぇ」
そしてーー夜空を火花が彩っていく。
「夏が、終わるねぇ」
「そう…だな」
夏が終わろうとも、それでも俺は求め続ける。




