魔獣両断、月華勝負5★
お馴染みの指パッチンで水蒸気が晴れる。もう剣戟はない。何故なら一の語ったシナリオならば次のシーンは戦闘、そして少年の死で終わる。
カガリノマエはそのシーンで大々的に殺せば良い、と考えているのだろうが。
残念。ハッピーエンド史上主義者が態々こんな面倒な事をしたのだ。
普通に終わるなんてあり得るか?いや、あり得ない。
『魔獣に取り憑かれて肩を斬られた剣士は再起するも、狂気に魅せられた少女の凶刃が迫る!!』
「どうやら遂にこの時が来たようだな」
「…致しかたあるまい。敬意を払って抜刀しよう」
ニィーー。
俯きながら笑う。
さっきからずっと俺のターンだと気付かないか。
台詞回しは適当に。
だ!が!シナリオ改変に合わせてステージを変えさせて貰った。
アニよ、後で謝るから…今は全力を出し尽くさせてくれ!!
「『鬼火』」
無数の炎が揺らめく。
観衆の誰もが幻想的な光景に唾を飲む。
構えるのは『雹招来』と『唯式咎流』。木刀と鈍らの変則的な二刀流だ。勿論素人の俺には扱いきれない。
だが、ブラフにはなる。
「二刀流…『連理の鶴翼』でもすると言うのか?」
「『連理の鶴翼(偽)』!!」
連理の鶴翼(偽)。
要するに言ってみただけのブラフだ。
が、意味はある。
「『比翼の羽根』」
『比翼の羽根』の誘発。
カガリノマエは比翼の羽根での様子見を選んだようだ。
「…『とんずら式加速』」
俺の最速を以ってカガリノマエに肉薄する。狙うのは刀だけ。
カガリノマエが『比翼の羽根』を使ってくれたので強制多段ヒットにより冷気により多く触れる事になる。
様子見をしたら負けという理不尽っぷりは相当精神を削る事だろう。
その上当たったら加速が『連理の鶴翼』の効果のため当たったら砕かれる可能性があると言う状況が相当なメタになっているのだ。
加えて漂う鬼火を切ってしまえばやはりその部分は熱されて余計に熱衝撃の威力を上げてしまう。
・鬼火を容易に切れない。
・多段攻撃で破損しかねない
・素の速度で負けている。
言い訳も三つあれば立派な理由になる。
勝っている場所が三箇所あれば、俺が勝つ理由と言って差し支えない。
ただし、俺の勝ちにも条件がある。
刀の破壊、並びに鍔の回収。
だからカガリノマエの刀が砕けるまで熱衝撃を加えなければならない。
「どうした!そんなものか!!その程度の力量で止められると思うな!!」
舌打ちする。肉体への負担が極端に大きいからパフォーマンスが最初よりも落ちているのだ。
水蒸気爆発は威力故に衝撃がモロに肩を破壊するし、加速系統の技能は三半規管を容赦なく揺さぶるから吐き気がするどころの話じゃない。
更に魔素を行使すればアニがいるとはいえ簡単にガス欠を起こす。
俺は瞬間的に強いが長引けば長引く程不利になるのだ。
対してカガリノマエはどうか。
水蒸気爆発の傷はあれどまだまだ健在。
刀が刃こぼれしているが肉体自体に損傷はなく立ち回りも無駄がない。
こっちはスタミナもあるから先に俺が倒れるのは自明だった。
「ッ!?」
刀を弾くたびに潰れたマメから血が流れる。
その度に視界が明滅するような感覚に陥るが奥歯を噛み締めてひたすら耐える。
「そろそろ負けを認めろ」
「まだ負けを認める訳には…いかないッ!」
まだなのか…?
まだ刀は折れないのか?
「一つ良い事を教えてやろう。私は貴様の誘いに敢えて乗った。つまりは私の刀より先にーー貴様の刀が折れると言う事だ」
鉄の悲鳴が鳴り響く。
『雹招来』が折れたのだと遅れて気付く。
カガリノマエが眼前に迫りーー。
「私の刀は鋭い。打ち合えば並以下の刀ではこのように折れる。格の違いを理解出来たか?」
「殺しはしない。ただ、二度と目が覚めないだけだ」
カガリノマエの刀が振り上げられーー。
俺は強がりでも何でもなく、単純に笑って見せた。
「ーーそれを待ってた」
「水よ、ドバーッと雑に流れろ」
俺諸共カガリノマエの上から水が流れる。
対象は俺の『唯式咎流』。
「まさか貴様ッ!」
ここで蜥蜴の尻尾切り。
木刀から手を離し、とんずらで逃げに走る。
「爆ぜろ、『唯式咎流』」
爆発ーー!!
さて、唯式咎流が爆発の起点になった理由。
それは一重に唯式咎流からカガリノマエの刀に熱を送り込んでいたからに他ならない。
更に言えば最初の水蒸気爆発はこれで水球を打つ事で発生させていた。刀身が熱されているなら条件は満たしている。
「俺のミスリードと奥の手。効くだろ?」
ミスリード。
それは自ら『水を打つ』事で爆発を引き起こすと印象を意図的に操作した。
カガリノマエは爆発のトリガーを誤認したから肉薄する事を躊躇わなかったのだ。
「お、おのれ…貴様ッ!」
「ジャック!!いつもの頼む!!」
ジャックの蔦が伸び、握られた物を手に取る。
「やっぱ、俺には杖の方が似合うわ」
ここで、ビリヤードのように杖に手を添える。
「『連理の鶴翼』ッ」
「決着を付けよう」
「これが終止符だ」
それこそ、渾身の一撃。
最速の突き、受けてみろ。
「『破邪…穿一』ッ!!!」
全身全霊を賭して突きを放った突きは真っ直ぐにカガリノマエへと吸い込まれるように前へと進む。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「無駄だ!いなして倍叩き込めば私の勝ちだ!耄碌したかッ」
「んな訳…あるかぁぁぁぁッッ!!」
だって。
とっくに。
お前の刀は砕けているんだからっ!!
カラリと乾いた音と共に刀身が欠け落ちる。
それをカガリノマエは信じられないというような表情で見つめていた。
「おのれ…貴様…」
「……はぁ、はぁ、俺の勝ちだ」
怨嗟の声を退けて俺は勝利を宣言した。
『見事!!一刀両断!!!』
惹句は喝采を叫んだ。ドッと観衆が沸く。熱に浮かされたような民衆達の歓声が止まない。
さぁ、モノローグを始めよう。
あの日を終わらせる為に。
「惹句、刀のツバ、回収完了だ」
「OKだよ。さあ、これにてお終いだね。…終わらせようか。絶望を」
魂の導き手はそう言ってツバをその手に握り締めた。




