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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
魔獣両断、月華勝負
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魔獣両断、月華勝負4

行ける。

…ジャックと一には仕込みを頼んでいたから別行動になっていたのだ。

そのジャックが戻って来たと言う事はGOサインに他ならない。


ならば時間稼ぎはお終いだ。


パチン

右手で指パッチンをすると水膜が弾け、ついでとばかりに水蒸気も晴れる。


「何のつもりだ」


「こう言うつもりかな」


晴れた合間から覗いたのはーー観衆。


「さて、ここからは悪手の打ち合いだ」


一の吹く龍笛の音が流れる。


『今宵限りの妙なる演目は『月華勝負』。二人の若者の恋物語と相なりまして候。主演は異邦人のハールーンと言わずと知れた『剣姫』篝の二人でお送り致す。御ゆるりと観覧あれーー』


龍笛が止み、ナレーターが入れ替わる。


『此処に在わす少女は後に『剣姫』となる強者。相対するは或る日の剣の達人ーー』


雷が落ちたかのような拍手の嵐の中、幕は上がる。


「な、何なんだこれは…」


観衆に向かって堂々とお辞儀をすると一層期待が高まったのか拍手も割れんばかりだ。


「これが、君を観たくて集まった観衆さ」


「貴様、勝負を何だと心得ている!」


「別に、俺は剣でって言った覚えはないけどな。それより、上手く合わせてくれよ?」



『少年少女剣持ち遊ぶ。その様は微笑ましく、また揚々とーー』


今夜だけのスペシャルなナレーション、惹句ジャックが言葉を紡ぐ。


その間、俺はカガリノマエの刀に熱を与えるべく木刀を振るう。

それだけだと斬られるから目を狙って極小の水球を発射する事でパフォーマンスを落とす。


「今日も見事な剣の冴え!さぞや立派な剣士になれるだろう!」



『けれど、時間はかくも残酷である』



場面変えのシーンはお馴染みの水蒸気先輩の独壇場だ。


「刀、割るけど良いか?」


「何を言う…!!?」


手立ては勿論ある。


「一ッ!!」


「あいさ!!」


属性武器。

この世界では武器自体に属性が付与されていることも少なくない。

しかし魔素師カルマンがその時々に付与を行えば大抵の属性武器の上位互換が出来てしまうのだ。

故に属性武器は軽視されがちだ。

しかし、時と場合によれば魔素師カルマンの付与を超える場合もまた存在する。


例えば、そもそも魔素カルマが観測されていない現象を再現する場合だ。

現在観測されている魔素カルマの総数は僅か六つ。

それぞれ、火、水、土、風、光、闇の発現を司る。


だから。


ーー金属の欠ける音がした。


「『雹招来』、抜刀させて貰った」


一の打った『雹招来』だが。これは微弱な氷の属性が付与されている。

刀身を氷で包むと言った派手な効果は無いが、代わりにとても冷たい。

鞘から抜けば冷気が噴き出す。


一曰く。


『切断面を凍結させて再生持ちの相手を封殺することをそうていしとったんやけんど、如何せん切れ味が最低で斬ろうとするとかえって怪我する鈍らになってもうてな。最近では専ら冷房代わりや』


だそうだが、熱と冷気と言ったら考えるべき事は一つだけだ。

熱衝撃。キンキンに冷やした物体と熱した物体が接触することで起こる現象。


これまでのいやらしい手口で熱を蓄積していた篝の刀と『雹招来』との温度差は余りに大きい。

故に、刃が欠けた。


「くっ…!」


篝は攻めれない。

当然だ。()()()()()()()


惹句と一が連れて来た愉快な観衆はいわば街の象徴。

街に生き、街で暮らし、街を愛し、梶を好く者どもだ。

そんな彼等が篝にとっては疎ましくて仕方がない。一思いに皆殺しにしてしまえば楽だろう。

しかし悲しいかな。カガリノマエという魔獣はルールを順守している。

否、ルールを破れないのだ。向けられる悪意が怖いから。

その上、この場で一人でも殺せば臆病者どころか卑怯者の誹りを免れる事は出来ない。

俺を倒すにしろ肩がボロボロであることと付け焼刃の剣術以外の要素が絶望的に噛み合わない。


パチンと指を鳴らす。


水蒸気が晴れ…現れるのはお面を付けた無数の蔦。


『ハザミの宵を騒がす魑魅魍魎が二人を絡めとる!!』


惹句のナレーションにも力が籠る。


実質見世物としては三流以下だから熱量と臨場感でゴリ押しするしかない。

そもそも、酔いを抜きがてら片手間に脚本書いて、二人をパシって企画したのだ。一も自棄を起こしてか笑い転げていた。が、俺はガチのマジな訳でーー。


龍笛の音もアップテンポに変わる。


「魔獣め!悍ましき者め!鎮まれ!」


この蔦は惹句の蔦にお面を付けただけの即席かつチープな魔獣役でカガリノマエの牽制もこなしてくれるイカス奴だ。


カガリノマエも気付いたようだ。

俺が言った通り、これは悪手の打ち合いなのだと。

これは単純な技量比べではなく、いかに観衆のトラウマから自分を守るかが問われるエチュード。

カガリノマエの管轄外の領域だった。


「どうだい?こういう勝負もアリだと思うけど」


「ふざけるな…私がよもやこんなに俗な催しに使われるなど屈辱の極みだ」


本心なのだろう。


「だが、大体は察した。思うにこれは歴史の焼き直しだ。ならばーー私は貴様を甚振る事ができるのだろうな。…梶を殺した『連理の鶴翼』で」


「ーー残念ながらそれは出来ない」






「ハッピーエンド至上主義者のご都合主義マシマシ片手間シナリオのガバガバさ、君は気付いていないと見えるな?」



『最後に彼女は魔獣に憑りつかれてしまった!!そして彼の肩を切り裂いてしまう!!」


火の粉を血の代わりに散らす。


「さて、こっからは君のお待ちかねのシーンだ精々良く踊ってくれよ?」


「下種が、だがその意気は認めよう。…地獄を見せてやる」



再び水蒸気が覆うーーーー。


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