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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
七夕に願いを叶えよ魔獣
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イベントスキット3 歌の溢れる異世界

想像とは違う異世界だ、と改めて感じていた。


「ん?どうしたのかなぁ?浮かない顔して。眉間にシワよっててキモいよ?」


ジャックがそう言ってから初めて眉間におじいさんみたいなシワがよっていたことを自覚し、シワを伸ばしつつ目頭を軽く揉む。


「異世界って言ったら歌が至る所から聞こえそうなもんだよな」


え!?と大袈裟にジャックが反応する。

あの超現実主義的サイコパスがファンシーを語るか!と些か心外な事を天下の往来で喋るものだから視線が嫌でも突き刺さる。

ジャックは若干影を薄くする能力があるので能動的に喋らなかったりすると目立たないが、能動的に喋ったり、格上の相手が視線を向ければ簡単に看破される程度の代物でしかない。

つまり、カボチャに詰られる超現実主義的サイコパスという不名誉極まりない状況になってしまうのだ。


これは不味いと、街を一旦出て再び宿屋に移動する。最初に一括で払っているのでまだ暫くは拠点に使える。

ただ、名物だという蒸気酒はまだ飲めていないが。


「で、何で歌が出るのかなぁ。僕、気になっちゃうよね」


「だって、俺が想定してた異世界って中世だからだよ」


中世だから?と器用に首を傾げるカボチャ頭に、どうやっているのかと場面を気にせず話しかけたくなる所をグッと堪えて自論を述べる。


「中世なら異世界補正が無ければ夜は暗いし、作業は人力だろ」


あっ、とその後言わん事を察したのか声が出る。


「仕事歌だね。キミもどうやら立派に日本人やってるみたいだねぇ。驚き桃の木山椒の木」


仕事歌は労働の際、単純作業で眠る事を防いだり、呼吸を合わせる際に歌われる歌だ。御者なんかも夜間では寂しさを紛らせたり馬を宥めたりするのに使われる場合もある。


他にも確か外国にもラ・マルセイエーズがフランス革命の時に歌われたはずだ。人は良きにしろ悪しにしろ歌を歌いたがるものなのだ。因みにラ・マルセイエーズは今ではフランスの国歌だ。

そう言えばこの世界にも国歌の概念はあるのだろうか?


「でも、至る所からソーラン節が流れる異世界ってシュール過ぎないかなぁ!?」


「まあ、確かに」


想像する。夜間は寂しさを紛らせるようにヤードッコイ。昼間は息を合わせてイーヤーサーサー。ハードッコイ、エッコラショ。

…果てし無く日本的だ。何だろうか、この形容し難いミスマッチ感は。ケーキの上に伊勢海老がドドンと乗っているかのような。或いはオランウータンが競輪をしているみたいな…果てし無くシュールな感じがする。


そう言えば田植えにも確か歌があったか、ここら辺では見ないがまだ見ぬ日本人がジャパニーズ米を探しているのかもしれない。

待てよ?

確かこっちには黒水という醤油がある。そっちでも仕事歌があったりするのだろうか?


「なぁジャック。もしかしてこの世界って本当にイデア論が働いてたりするのか?日本人が発酵のプロセスをチートで丸パクリしてたらかなり興醒めだけど」


「そうだねぇ。実際、イデア界はあるから。と言うか僕達はイデア界の産物だからね、世界は多かれ少なかれイデア界に似るものだよ」


「あるのか!?」


こともなげに言い放つジャックに思わず盛大な突っ込みを入れてしまった。


「そもそも、殺神が出来ない理屈はそこにあるんだよ。ホラ、ヘカテの三叉路殺神事件ってあったでしょ?あれの肝がそれなんだよ」


「いや、どれだよ」


そもそも事件の名前からして知らない。メガネの少年が活躍しそうな事件名ではないか。

ノータイムで突っ込むとこれ見よがしに溜息を吐きながら呆れた声音で、


「神は死んだら一部の例外を除いて全てイデア界送りになって時間の経過でリスポンするんだよ。まぁ、それでもリスポンするとは言えヘカテは結構やらかしてるんだよねぇ」


成る程、と手を叩く。

三叉路殺神はヘカテの怠慢により起きた事件で責任を追及される立場にある…みたいな感じか?

にしても神がリスポンとか不敬ではなかろうか?…ジャックを散々杖で滅多打ちした身で言えた事ではないかも知れないが。


たまにジャックが下級であれ神だと忘れてしまう。つまり神のような威厳と言うか気品?を感じさせないジャックが悪いQ.E.D(証明完了)


「因みに三叉路って神々や精霊の集う場所ってイメージで合ってるか?」


そだねー、とやる気が全くない返答を頂戴しつつ思考する。

…そもそも三叉路で殺人、否殺神をやらかせるモノとは何だろうか。


『この場での言及は敢えて避けますが私達が保有する最高戦力の一つです』


ふんふふーん♪


そうヘカテは言った。


ふふんふふーん♪


短絡的に考えて一択しかなかった。


ふふふふーん♪


ベシッ!

思考する隣で割りかし大きめな鼻歌をかますジャックにチョップを食らわせるとジャックは恨めしげにこちらを仰ぎ見た。


「ハールーンが仕事してそうな顔してたから仕事歌をと思ったのに!?」


「要らないねぇ!?ソレすっごく要らないねぇ!?」


ジャックの口調を真似ながら不満を突きつけると珍しく『ねぇぇ』と、しおらしくなった。…『ねぇぇ』が口癖とは笑えない。せめて『あうぅ』か『あうあうぅ』とか『はにゃーん』とか『ほぇぇ』で済ませて貰いたい。勿論女体化は基本。コレ譲らない。


どうやら色々面倒な盤面が拡がっているようで頭がクラクラした。

大分場もぐだぐだしてきたし、残りは休みを決め込もうと頭のモヤモヤを振り払うようにベッドに身を投げる。

疲れていたのか直ぐに眠る事が出来た。


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