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ジャックがパーティーを離脱した

俺は見晴らしの良い平原に立っていた。


それは何故かと言うとギルドが初心者用に月一で開催している斥候の講習会だ。

どうやら斥候職に必要なスキルを身につける事が出来るのだとか。

今回は二泊三日での合宿だ。

そしてーーメシが無料タダ。毎日金欠な俺は一も二もなく飛び付く訳だ。


「…『魔王の欠片』の回収を急務にして欲しいんだけどねぇ」


そう未練がましくボソボソと告げるジャックを少し疎ましく感じながらも手を動かす。

ジャックは小金稼ぎや顔繋ぎを始めてからずっとこの調子だった。

『魔王の欠片』の所在判明から俺は行動を開始し、積極的にモンスターを狩った。

実戦での杖、ダガーの練度確認、スムーズに抜刀出来るか、対亜人、人用に杖をどのように運用するか。考え、考え、ひたすら強くなるべく鍛錬を開始した。

そんな中始まった今回の講習会は渡りに船だった。

スキルを身につければ戦略が広がる。

戦闘時の選択肢は多いに越したことはない。


「しょうがないだろ、実力ない、金ない、コネもない。ないない尽くしでどう『魔王の欠片』を回収しろってんだ」


だからかいつもより幾分か棘のある返答をしてしまった。

人が鍛錬をしている最中、『そろそろ安全マージン取れてなくても大丈夫だから攻略しようぜ!』なんて言われたら当然ストレスを溜め込むだろう。


「それはそうだけど…」


「それにゴブリンの巣なんだろ?生態について書かれた本にはやっぱ十八禁な方のゴブリンが書かれてたしな」


「お得意の第一魔素ファースト・カルマでどうにか出来ない?」


これも最近よく聞く言葉だ。

俺の第一魔素ファースト・カルマは…平均より若干火力が強いだけだった。

要するに、外れと言うには一歩足りないが強いかと問われれば首をブンブン横に振って良い程度の力でしかない。

これがチートと言えるのか?

チートとはズルだ。バランスブレイカーと言い換える事も出来る。

自分の弱さに自己嫌悪を催している中でそんな事を言われるのだから正直ウザい。


「生憎、そんな予定は無さそうだ」


でも…と尚もジャックは食い下がる。

それに対して俺は例えばーーと話を切り替えた。


「ジャック。世の中には三タイプのクズがいる。女の子を守れるクズ、女の子を守れないクズ、女の子を敢えてスルーするクズ。この三つだ」


「…ゴブリンの巣の懸念かな?でも…キミならなんやかんや上手く回せると思うんだけどねぇ」


フッと酷薄な笑みを浮かべながらジャックに問う。この中でならどれが最低か、と。

ジャックは当然のように最後ーー女の子を敢えてスルーするを選択した。


「良いやつから順に並んでるんだから分かりやすいよね」


「残念、間違いだ」



「正解は女の子を守れないクズだ」


即座にジャックは反応し、反論する。


「それは嘘だね。結果的に守れなくてもその過程は尊ぶべきもののはずだよ。例えその事が楔になったとしてそれを乗り越えた先には新たな強さが、見るべき景色があるはずだよ。その行為自体に意味が無いなんて事は言わせない」


無理だとジャックの言葉をぶった斬る。


「それは理想論だ。小説かゲームのやり過ぎだ」


「助けようとして助けられなかった。…助ける過程での失敗なら許容されて然るべきだと思うけど。反省や自省は明日の自分の昇華を促す筈さ。きっとね」


…それは誰も救われてなんかいない。

悪戯に傷を増やしているだけだ。


「なぁ、ここに居るのは誰だ?唯の凡人だろ?等身大で見てみろよ。考えりゃ簡単に分かるさ。この場合は女の子を救えなくてマイナス、自己嫌悪で更にマイナスだ。対して守れるクズは最良、スルーは次点だ」


誰も救われない終わりなんて、もう懲り懲りだ。だから自然と語気も荒くなる。


「…もしかして、自分の精神衛生や保身を考えているのかなぁ?だとしたらキミはクズ…いやサイコパスじみてるねぇ」


「…お前も傲慢だな。俺の視点になって見ろよ?いきなり殺されて転移したらクソ怖いおっさんに蹴り殺されかけた。その癖特別力が強い訳でも無い。訳のわからない黒尽くめの人間に殺されかけて。挙句そいつらにせめて追い付こうと努力したら努力を辞めて死地に行けと?冗談じゃない!!」


「…キミには失望したよ。じゃあ、僕は帰るね。大丈夫、後釜は探せばごまんと居るだろうし。代役は気にしなくても良いから。用意が出来しだいキミから『魔王の欠片』を奪い取るから覚悟はして欲しいかな」


せせら笑うようにジャックは言った。


ガチリと何かが噛み合う音がした。

窪んだ感情がリンクしていき何かと意識が混ざり合う。



《『魔王』■ルクィンジェ》



「奪えるのか?『魔王おれ』からしてみればコイツは決して弱く無い。簡単に殺せるとは思わない事だ」


「『オルクィンジェ』…ッ!元はと言えばキミの怠慢じゃないかなぁ!?キミが怠慢をしでかさなければ僕達がこんな手間をかける事も無かった!そうだよねぇ!!」


虚ろな目で、俺と俺の中の何か…『魔王』オルクィンジェとやらがジャックにNOを突き付ける。


「なぁ、『ニャルラトホテプ』が俺にした事を知っているだろう?天使が邪神に届き得る訳がなかった。ただそれだけの話だ。俺は怠慢など一度たりともした事は無かった」


「神殺しの『魔王』が何をいけしゃあしゃあと!」


はぁ、と溜め息をつく。

認識が甘い。それに、何より俺たちに責任を転嫁したこのカボチャ頭には怒りを通り越して呆れを覚えた。


「去れ、邪魔だ。代役だかなんだか知らないがありったけ持って来るが良い。そのことごとくを殺して俺は再び『魔王』として世界を壊す」


「…キミは小さいなりにも神を本気で怒らせた。お望み通りに清人よりも強い代打を大量に送り込んでやる。それにどう言う訳かキミが憑依されてるウチは強いけど憑依が解除されれば途端にいつもの清人だ。『魔王』なんかじゃない」


この日最大の嘲笑をくれてやる。


「案外清人が俺に追いついていつかは追い越すかも知れないのにか?」


そうかい、と一言言い残すとジャックは消失した。


「はぁ、『魔王』というのも難儀なものだな…。疎まれ嫌われ、挙句に宿主すら戦火の運命に巻き込む羽目になるなんてな」


辺りを見回す。

普通なら見えないような遠くまで見通せるのは『魔王』の恩恵故か。


「…杉原清人という人間も相当に不憫なものだ」


『魔王』の呟きは風に紛れて、やがて消えた。




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