4-1「もちもちトークラッシュ」
「フィオさん、あそこ……煙出てませんか?」
「あー、あれ?多分湯気よ。だってここ……
温泉で有名な、和みの町・ウォーラなんだから!」
-和みの町・ウォーラ編-
□Side Hearty□
「んー、やっと着いたー!!」
いつも以上に元気なフィオさんが、両腕を掲げて喜んでいる。
町の入り口にそびえる大きな木の門は、遠くから見た時よりもずっと大きく、威圧感があった。だけど、見た目より軽いのか、はたまた女の子の力でも開けられるように設計されているのか、門は思っていたより簡単に押し開けることができた。
「おぉ……」
町の中を見て、真っ先に声をあげたのはユイナちゃんだった。狼狽するような、小さな声。
「やっぱり、まだ駄目そうですか……?」
「んー、ちょっと苦手意識あるけど……まあ、多分だいじょぶ」
ここまでの道のりでは人一倍明るく振舞っていたユイナちゃんだったが、やっぱりまだ人間は苦手らしい。門の前はいろんなお店が立ち並び、人通りも多いから尚更だ。ユイナちゃんは口では大丈夫と言ったけど、体は少しだけ私の方に寄せている。
「……それで、フィオさん? 温泉に行くんですよね?」
「んー、でもまだちょっと早いかしらね……」
広場に立った時計を見ながら、フィオさんは答えた。時刻はまだ昼の2時半だ。
「……あ、そうだ!」
「これが……」
「モチ……」
「ガブガブガブガブガブガブガブガブ」
カウンターに並んだ、白やピンクのまんまるな一口サイズの食べ物を見て、私とフィオさんは小さく呟いた。ユイナちゃんは呟いてない。もう既に8つぐらい食べてるから。
温泉に行く前の時間潰しに、私たちは町で評判の喫茶店に寄り道した。私より前から旅をしているフィオさんも、"モチ"は食べたことがないということで、注文してみたところだ。
「いただきます……はむっ」
私は蜜がかかった白玉を串で刺し、口に入れた。
口の中で弾けて舞う蜜が、濃い甘みを舌に響かせる。転がる白玉を噛んでみると、程よく染みた蜜の甘みと、もちもちした歯ごたえが私を幸せの中に落とした。私はたまらず、次の一個をすぐ口に放り込んだ。
「あー、全部食べちゃダメですよユイナちゃん! 私ももっと食べたいです!」
「ちょっと!? あたしの分二個しかないんだけど!? 蜜ほとんどかかってないすみっこの二個なんだけど!? もー!!」
*Side Fio*
「どこ行ったのよ……」
「さあ?」
あれから約1時間。一言にまとめると、ハーティが迷子になった。あたしたちは町を歩きつつ、あの子を探している。
「……うっ」
「どうしたのよ?」
「いや、やっぱまだ人間は苦手だなーって。やけにこっち見て来るもん、みんな」
「それは……多分、あんたの服装が悪い。なんなのよそのシャツ」
「へ?」
あたしは、ユイナの文字が描かれたシャツを指差した。
「何よ、"天下無双 竜王戦20連勝"って。二度見しない人いないでしょ」
「二度見されたら勝ち」
「二度見されたくないって言ったばっかでしょ」
「竜王戦負けたら負けだと思ってる」
「そりゃ負けよね」
「フィオは40歳ぐらいまでは結婚できない」
「それその先も出来ないわよね多分? 殴るわよ?」
言葉の殴り合い、この一連のやりとりをそう名付けよう。
そしてこっからは、殴り合いでもない普通の会話。
「お嬢さん、月が綺麗ですね」
「あんた頭打った?」
「いやー、言ってみたかっただけ。ちょっと聞きたいことあってさ」
「聞きたいこと……? 何?」
「ハーティが心のヒーラーを目指すようになったキッカケってさ、なんかあるの?」
「……ふふーん、いい質問するじゃない」
「と、言うと?」
「何を隠そう、あの子に心のヒーラーの道を示してあげたのはこのあたしよ! あんたを助けたのも実際はあたし……なんて不粋なことは言わないけど、ちょっとぐらい感謝してよね」
「おおー。指導者より教え子が圧倒的に優秀だぁ」
「ちょっとあんた! なんであたしばっかりそうやって煽んのよ! あんたの煽り、三つに一つぐらい普通に心に刺さってるから!」
「だってフィオの反応面白いしー」
「……でもさ、なんかいいよね」
「何がよ?」
「だからさ、フィオがハーティを助けて、そんでハーティが僕のこと助けてくれて……って。心を繋ぐ! って感じ?まさしく心のヒーラーだなぁ、って」
「……なるほど。考えたことなかったけど、たしかに素敵なことよね。心を繋いでく……うん。なんか良い!」
「でしょ? だからフィオ、ありがと!」
「え……なな、何よ急に!?」
「ハーティのこと助けてくれて。僕とハーティを会わせてくれてさ」
そして__ユイナは確か、最後ににっこり笑った。
「くっ……いけない、さっきのやりとりのせいでコイツが可愛く見えてしまう……」
「ギャップ萌えしたな、フィオ! 既に君は僕が攻略した!」
「落とされてないから! ギャップ萌えって本人が自分で言ったりしないから!」
この一連の会話について、あたしの感想は。
やっぱりコイツ、ホントは良い子なんだって。
もっと仲良くなれたら良いって。
そう思えた。
「……あ、ハーティいるじゃない!」
「ホントだ! おーい!」
あたしもこの子に向けて、記念すべき第一歩を踏み出せた。
そんな気がした。




