渇きと飢え、そして知識の芽吹き
【最悪の荒野、グラ・ヴァル】に足を踏み入れてから初日の昼下がり——レオの足元には、ひび割れた赤茶けた土と、鋭く刺さるような岩肌だけが広がっていた。
強い日差しが容赦なく体力を削っていく。持参した革袋の水は底をつき、喉は焼けつくように渇いていた。
「くそっ……まずは水だ。何とかしねえと、拠点を立てる前に干からびちまう……!」
(≪マスター、生存確率の維持を最優先します。右斜め前方、約40メートル先の窪地へ移動してください≫)
脳内に直接届くクロニクルの淡々とした音声。レオは指示された窪地へ向かった。そこは周囲よりわずかに湿り気を含んだ赤土が溜まっている場所だった。
(ここに水があるのか!?)
(≪地下深層に水脈が存在しますが、岩盤に遮られています。まずは足元の湿った泥から水分を抽出し、体力を回復させなさい≫)
レオは夢中で泥をかき集め、破れた服の布で力任せに絞り上げた。ぽたぽたと落ちてきたのは、硫黄臭のするドロドロとした濁り水だ。
(こんなドロ水……飲んだら一発で腹を壊すぞ!)
(≪そのまま飲めば鉱物毒により即死します。……ですが、あなたの【魔性順応】を外部へ干渉させれば、一瞬で無毒化が可能です≫)
(外部へ干渉……!?己の体に入った毒を活力に変えるだけじゃないのか!?)
(≪【魔性順応】の本質は、毒素とエネルギーの可逆変換です。みぞおちの聖魔エネルギーを手のひらに循環させ、外部の毒素のみを磁石のように引き抜いてご自身の活力へと変換しなさい≫)
(手に毒を引きつける磁石を作るイメージだな……!やってやる!)
レオは濁り水を手に汲むと、集中して手のひらへ熱いエネルギーを送り込んだ。
パァァァッ……!
レオの手から淡い青い光が解き放たれた!
濁り水に含まれていた不純物と有害な鉱物毒が、青い光の筋となってレオの手のひらの毛穴から一気に体内へと吸い込まれていく!
「うおおっ!?毒気が手の中に吸い込まれていくぞ!?」
(≪抽出成功。吸収した毒素の活力変換を完了しました≫)
吸い上げた毒素が体内で温かい活力に変わり、手の上の水は澄み切った清涼なピュアウォーターへと変質した。それを一気に飲み干す!
「んぐっ……!はぁあぁぁっ……冷たくてうまああい!!生き返った……!!」
一滴で身体中に活力がみなぎり、遠のいていた意識がはっきりとクリアになる。
(毒を吸い取って自分を強化しつつ、対象も綺麗に浄化しちまうのか!すごすぎるぞ【魔性順応】!)
(≪体力の最低限の復旧を確認。本命の【水脈】の確保へ移行します。足元の黒色玄武岩盤を破砕してください≫)
(おうよ!でも、こんな分厚い岩盤、どうやって破砕するんだ?)
(≪【万能書庫】にアクセス。……岩盤の構造解析を完了しました≫)
レオの視界に、幾何学模様の光とともに、岩盤の内部に走る「一番脆い断層線」が赤いターゲットとして鮮やかに投影された。
(≪万能書庫レベル1『生存と集落の書』より構造破砕データを抽出。ターゲットの交点へ、【魔性順応】で強化した打撃を一撃叩き込みなさい≫)
(万能書庫の知恵と、俺の強化パンチの組み合わせか!乗った!!)
レオは両足を踏みしめ、みぞおちに充填された聖魔エネルギーを右拳へと一気に集束させた。青い光の粒子が拳を包み込み、激しく鳴動する。
「叩き割れて……弾け飛べぇぇぇっ!!」
ドガァァァンッ!!
「なっ……!?」
青い光を纏った渾身の正拳突きが、岩盤の弱点へ直撃した!
一瞬の静寂の後、凄まじい衝撃波が爆発し、厚い黒色玄武岩盤がバリバリと太い亀裂を走らせて木っ端微塵に砕け散った!
ブシュゥゥゥッ!!
砕けた岩の隙間から、冷たく清らかな水柱が勢いよく天に向かって噴き出した!
「で……出たあああ!!水脈だ!!」
(≪万能書庫の知識と【魔性順応】の共鳴により、安全な水資源の確保プロセスが完全に確立されました≫)
(≪……ピピ。無毒化された湧き水内より、微量の『高純度魔導鉱素』を検出。……分析。この地下深層には、世界を浄化する莫大な古代エネルギーが眠っている可能性があります≫)
(地下に莫大な古代エネルギー……?頼もしい掘り出し物まで見つかったな!)
喉を存分に潤し、完全復活を果たしたレオのお腹がグ〜ッと盛大に鳴った。
(水分は完璧だ。……次は飯だな!ガッツリ力が出るやつが喰いたい!)
(≪前方15メートル先の岩影に『紫斑キノコ』および『毒刺トカゲ』の反応を検知。あのトカゲは強烈な麻痺毒を全方位に噴射します≫)
(麻痺毒か!ちょうどいい、俺のエネルギー補給になってもらうぞ!)
レオは気配を消して突進すると、毒トカゲの目の前に躍り出た。
プシューッ!!
トカゲが放った強烈な麻痺毒ブレスがレオを包み込む。しかし——
パキキキィン!
(毒を吸い上げて……肉体強化!!)
麻痺毒が体内で爆発的な運動エネルギーに変換され、レオの動きはさらに加速した!
「捕まえたぞ!!」
「ギャッ!?」
電光石火の動きでトカゲを掴み上げると、手のひらから青い光を注ぎ込んでトカゲとキノコの毒素を一気に吸い上げて完全無毒化!
そのまま火を起こし、香ばしく炙ってかぶりついた。
サクッ……ジュワァァァ!
「う、うまい……!毒を抜いたら身がプリプリでめちゃくちゃジューシーじゃないか!」
(≪食料問題の解決プロセスも確立。生存確率、85%まで上昇。お見事です、レオ≫)
お腹を満たし、活力に満ち溢れたレオは、【グラ・ヴァル】の中央にそびえ立つ漆黒の巨木——【鉄鋼樹】を見上げた。
「水も飯も確保した!次はあいつを利用して、俺たちの『第1号の拠点』を作るぞ!」
最高の相棒クロニクルと共に、最悪の荒野に最初の「拠点」を築くべく、レオは希望に満ちた足取りで歩み出すのだった。




