緑の難民
昨夜、クロニクルの広域スキャンが捕捉した『マップ外縁部の謎の小集団』。
その正体を確かめるため、レオ、ミニア、ヴェルフの三人は【超高速魔導シャトル】に乗り込み、地上の【泥レンガの砦】へと移動していた。
「それじゃあ、気をつけて外の調査に向かおう」
「了解ニャ、レオ様!」
冷たい荒野へ足を踏み出した、その瞬間だった。
ピクッ……!!
「っ!?」
ミニアの三角耳が激しく左右に揺れ、鼻を何度もくんくんと鳴らした。
「どうした、ミニア?」
「レオ様、風の向こうから、すごく悲しくて、助けを求める人の匂いがしますニャ!」
ミニアの目が切迫感で鋭くなる。それは暗殺者や密偵の放つ危険な殺気ではなく、命の灯火が消えかけている善良な者たちの「切実な救求の声」だった。
(≪スキャンデータ照合。ミニア個体の指し示した南東4.8キロ地点にて、生体反応と一致する小集団を確認。何者かに追われています≫)
「ミニア、行こう!」
「あたし、案内するニャ!」
「いや、案内は要らないさ。——【記録刻印】!」
レオが胸元でルーンを光らせると、青い光の粒子が三人をつつみ込んだ。
次の瞬間——視界が切り替わった瞬間、そこは南東の深い谷間の岩場だった。
「ひっ……! た、助けて……っ!」
眼前では、ボロボロの布を纏った長耳の亜人、【エルフ族】の小集団が、荒地の岩肌に追い詰められていた。
その目の前で、下品なニヤけ顔を浮かべた聖王国の下級兵士たちが、ギラリと光る長剣を振り上げていたのだ。
「ハハハ!もう逃げ場はねえぞ、エルフのドブネズミ共が!聖王国の奴隷農地から逃げ出した罪、その首で贖ってもらうぞ!」
「子どもだけでも……どうか子どもだけでもお助けください……っ!」
母親が二人の幼子を抱きしめ、父親が血を流しながら身を挺して庇う。刃が振り下ろされる直前——
「俺たちの領地で、勝手な真似をしてんじゃねえよ!!」
シュンッ!
空中に一瞬で出現したレオが、背中の大剣【ヴェルザード】を一閃させた!
キィィィィィィン!
青い高周波ブレードの衝撃波が、兵士たちの長剣を一瞬で粉々に打ち砕く!
「なっ……何だ貴様らは!?」
『失せよ、羽虫ども。我が主の領域を汚す愚か者め』
ヴェルフが神獣の圧力を放つ。ただそれだけで地響きのような威圧が走り、兵士たちは悲鳴を上げて腰を抜かした。
「ひぃぃぃっ!ば、化け物が出たぁぁッ!」
命からがら逃げ出していく兵士たちを見送り、レオは大剣を鞘に収めると、ガタガタと震える【エルフ族】の小集団の前で膝をついた。
「もう大丈夫だ。怪我はないかい?」
「あ、あなた様は?私たちを、助けてくださったのですか?」
「ああ、もう安心だよ。一体なぜ、こんな場所で追われていたんだ?」
レオが優しく問いかけると、一人の男性が震える声で語り始めた。
「私たちは、聖王国の奴隷農地で代々酷使されてきました……。子どもたちに少しでも人間らしい暮らしをさせたくて逃げ出してきたのですが、追っ手に見つかってしまいっ」
「そうだったのか……。酷いことをするな」
レオは静かに憤りを覚えつつ、男の目を見て温かく微笑みかけた。
彼は、エルフ族のリーダー的存在であり、セルディクと名乗った。
「俺たちは今、この荒野で誰もが命を脅かされず、安心して笑って暮らせる場所を作っているんだ。よかったら、俺たちのところへ来ないか?」
「レオ様の言う通りニャ!温かいご飯もふかふかのベッドもある、すっごく安全で素敵な場所ですニャ!」
ミニアが飛び切りの笑顔で幼い子どもたちの頭を撫でてやると、絶望から一転して差し伸べられた温かな救いに、エルフ達の目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
「あ……ありがとうございます!ありがとうございますっ!」
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荒野の真っ只中で目立たないよう、ヴェルフの【隠蔽結界】で周囲の視線を遮りつつ、レオの【記録刻印 】で、彼らを地下都市【グラン・ゼノア】へと案内した。
農園ドームへと足を踏み入れた瞬間、セルディク達は絶句する。
そこに広がっていたのは、温かな光を放つ天井と、階段状に聳え立つ果てしなく広大な『大規模魔導農園』だったからだ。
自動耕作スライムたちが耕し、清らかな地下水脈が潤す圧倒的な楽園。
「こ、これは……なんという奇跡!」
セルディクが、膝から崩れ落ちて震える手で黒土を掴んだ。
「私たちは……聖王国で代々大切にしていた農地を奪われ、奴隷として酷使され、捨てられました……。作物を愛する私たちが、ずっとずっと夢見ていた最高の土壌が、ここにっ!」
セルディクはボロボロと涙を流し、レオに向かって深く額を床へ擦り付けた。
「レオ様!私たちエルフ族は、作物を育てる『植物生育魔法』の力を宿しております!どうか……どうかここで働かせてください!最高の作物を実らせてみせます!」
「大歓迎だよ!一緒に美味しい作物をたくさん作ろう!」
「はいっ!ありがとうございます、レオ様!」
コテージに連れていくと、ガルドの妻エルナが「まあ、大変だったわね」と温かいシチューとふかふかのベッドを用意して待っていた。
温かなスープを飲み、ふかふかのベッドに横たわったエルフ達の表情には、これまでの絶望が嘘のような希望の笑顔が浮かんでいた。
第24話をお読みいただきありがとうございます。
エルフ族が無事に保護できて本当によかったです!
『これからが楽しみ!』と思っていただけましたら、ぜひ最新話ページ下部の【作品フォロー】や【★で称える】から応援していただきますと、執筆の大きな大きな励みになります!(★1つでも大歓迎です。)
次回は、「セルディクの『植物生育魔法』と『大規模魔導農園』の融合」の物語です。お楽しみに!




