この世界の理と、落ちこぼれの少年
大陸の中央に君臨する『グランディール聖王国』。この国を支配しているのは、血統でも財産でもなく、ただひとつ『魔法適性』という絶対の理だった。
炎で軍隊を焼き払い天候すら操る超攻撃魔法や、死の淵から人を救う神聖魔法の保持者は、上層貴族として権力と富を独占する。作物を育てたり井戸から水を汲んだりする生活魔法を持つ平民たちも、それぞれの適性に応じた社会の歯車として生きていた。
15歳を迎えたすべての少年少女は神殿へ集められ、『適性石』に手をかざして己の価値を証明しなければならない。
もしそこで魔法適性が著しく低いと判明すれば、待っているのは肉体労働以外の価値を認められない最下層民としての過酷な人生だ。
貴族の奴隷として虐げられる古代の知識を持つ亜人族や、野蛮な獣と蔑まれて国境付近へ追いやられた獣人族と同じく、社会の底底へと追いやられる。
なぜなら、この国には絶対に疑ってはならない教条が存在するからだ。
——「魔法の使えぬ者に、生きる価値なし」と。
分厚い城壁と高位魔導士の結界に守られた都市の外には、正体不明の有害物質『瘴気』を吸って凶暴化した『魔物(魔獣)』たちが徘徊している。
人間を襲い食い荒らす恐ろしい脅威から身を守るためにも、人々は魔法の力を神のように崇め奉っていたのだった。
そんな魔法絶対至上主義の王国で、武官の家系に生まれたレオ・アルヴァレスもまた、かつては希望に胸を膨らませる純粋な少年だった。
「俺、将来はすごい魔法を使って、みんなが笑顔になれる大きな町を作るんだ!」
しかし、15歳の『適性の儀式』の日、彼の思い描いた未来は無情にも打ち砕かれる。
神殿の適性石に手をかざしたレオを包んだのは、眩い光などではなく、不気味なほどの「沈黙」だった。
【全属性適性ゼロ】
攻撃、回復、生活、果ては最低限の魔力操作すら不可能。
歴史上、前代未聞の完全なる無能。
神官からの憐憫と蔑みの視線、そして父親からの激しい怒りの落胆。
アルヴァレス家の面汚しとして生家を叩き出された15歳のレオには、着の身着のままで王都の路頭に迷う道しか残されていなかった。
だが、レオの心は死ななかった。
どんなに無能と蔑まれ、泥を塗られても、胸の奥でメラメラと燃える熱意だけは消せなかったのだ。
「魔法がダメなら、筋肉と根性だ! 魔法が使えないなら、自分の手と足で生きてやる!」
身分を隠したレオは、王立開拓軍の最下級兵士——実質的な「使い捨ての雑用係」として入隊した。そこは、いつ城壁の外から魔物が襲ってくるかもわからない、過酷な土木作業の現場だった。硬い岩盤の砕石、湿地の泥抜き、重い資材の搬入。誰もが嫌がる過酷な作業に、レオは文句ひとつ言わずに飛び込んだ。
誰よりも早く起き、誰よりも遅くまでツルハシを振り続ける日々。
食らいつき、死に物狂いで泥にまみれた。そうして過ごした3年間で、かつてひょろひょろだった少年の身体は、どんな過酷な環境にも耐え抜く強靭なタフさと、土木の現場知識をその身に深く刻み込むこととなった。
18歳になったレオ・アルヴァレス。
魔法の使えない「落ちこぼれ」の少年は、泥臭い下積みを経て、己の運命を大きく変える「人生の岐点」の瞬間へと一歩ずつ近づいていたのだった。
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