名ばかりの勇者
魔王の剣が、俺の胸を貫く。
吐き出す吐血。
薄れ行く意識の中で、召喚されてからの数々の出来事が走馬灯の様に流れて行く。
「ああ・・・死ぬんだな。」
妙に死に行く間際ながら、落ち着いている。
瞼が重い・・・そして勇者が死んだ。
勇者を倒した魔王軍は、王国を蹂躙して国は滅んだ。
かつて王国があった町角の住民に隠し伝えられた言葉があった。
魔国の重圧と差別に苦しみながら、彼らの唯一の拠り所となる言葉。
【勇者は必ず甦り、魔王から皆を救う】
いつの日か、勇者が必ず助けてくれると信じて、人々は苦しい日々を生き抜いていく。
女神様は魔王に支配された地上を憂いている。
だが、助ける術が無くて困り果ていた。
「新たな勇者を召喚したいのですが、地上に召喚する人々が居ないのよ・・・」
勇者召喚を警戒する魔王は、召喚魔方陣の構築に目を光らせていた。況してや、召喚に必要な魔力が集められない状態となっていた。
召喚がダメなら・・・ふと、思い付いた。
あの死んだ勇者の魂は、今何処に有るのかしら?
天使に探させた結果、亡くなった勇者は、平凡な農夫として生まれて僻地で暮らしていた。
前世が勇者とは知らない、ひとりの平凡な農夫。そんな彼の前に、魔王の目を盗んで、天使が遣わされた。
勇者の前世を思い出させて、戦いに赴く決意を固めさせたい為に。
所が平凡な男に向かい、急に【貴方の前世は勇者なの。戦ってくれますか?】と言われても、即答出来る筈も無いだろう。
知ったもんだの話し合い?の結果、即席勇者が生まれた?
静かながら、名も知れぬ僻地で名も知れぬ男の、新しい冒険が始まった。




