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証拠集め。

「お父様!」

「ルディ!お前なのか!」


 私はお父様と『再会』した。

 

 ロータが私を介抱していたのは王宮のいくつかある小さな中庭の一つだった。

 そこからすぐ近くの貴賓室の一つにお父様はいた。


「あれ?お母様は?」

「おまえの死に顔を見るのが辛かったようで、今は少し風に当たっているよ」


 そう聞いて、少し胸が痛んだ。

 おせっかいで優しい母にこれ以上心配をかけるのは忍びない。

 でも、私は止まるわけにはいかない。


「そう。じゃあちょうどいいか」

「ちょうどいい?それよりロータス君。ありがとう。君を信じて本当に……」

「お父様!その話、後でいいですか!」

「え?なんだ、一体……貴族は礼が全てだと教え……」

「私を毒殺しようとした犯人、私知っています」


 私ははっきりと言った。

 お父様の顔は見る見ると変わり、そして吐き出すように答えた。


「証拠が無い……」

「証拠?お父様……まさか」

「先ほど『彼』と話してみて勘づいてしまったのだ。こいつが犯人だ、と。父親の勘だ」


 そうか。確かに彼なら気づかれてしまうかもしれない。

 なにせ、最後に私を見て……私の死に様を見て!嘲笑ったのだから!


「だったら!」

「もう殺す必要は無い。お前が帰ってきた。それだけで私は十分だ。あとは何か理由をつけて引き離すだけだ」

「お父様……」


 私は何も言えなくなった。

 お父様は公正で実直な人だ。

 だからお父様が殺すと言ったなら、過程の話としても絶対に殺しただろう。

 でも私は……。


「ローレイズ伯、私は反対です」

「ロータス君。これは家と家との問題だ。大変申し訳ないが、君は口を挟むべきではない」

「単に私怨だけから言うのではありません。ローレイズ伯家は所領の守護者であると同時に法の守護者でもあるはずです。果たしてこのまま法律を軽視したままで良いのでしょうか?」

「もう遠い昔の事だ。今の王国法はローレイズの手を離れ、伯爵家は単なる一貴族に過ぎない」

「ルディ様を救ったのは、人が『遠い昔』に置き忘れた秘薬だったのでないですか?」

「それは確かに。しかし……」

「ローレイズ伯は傾いた私の家を建て直して下さいました。主家でなく、貴方が。その時貴方は『古く由緒正しき家』だから援助なさった」 

「その……通りだ。しかし」

「お父様。やってやりましょうよ!だってあいつ、私を殺そうとしたんですよ!?罪には罰!これがローレイズの家訓でしょう!悔しくないんですか!?娘が一度死んだのに!」

「…………。そうだな。死ぬほど悔しいな。よし」


 お父様は膝をパーンと打って言った。


「いちかばちか、やってみるとしよう」

「それでこそお父様です!」


 私達は最後に声を潜めて小さく誓った。

 絶対にエゼルに法の罰を与えてやる、と。

 

 

 

 それから私達はたくらんだ。

 にっくきエゼルに最高の罰を与えるために。

 まずは証拠集め。

 そして舞台を整えるための工作だ。

 

 エゼルはすぐに会いに来た。

 精一杯喜んだそぶりをしているが、苛立っているのがバレバレだ。

 誰も彼の殺意に気づかなかったこれまでとは大違いだ。

 ツメが甘いタイプなのだろう。


「いいのかい?ルディア。結婚式を再開したいなんて」

「もちろん。だってずっとこの日を待っていたんですもの」


 私も彼に倣ってほんのわずかな怒りも漏らさないように努める。

 計画のために結婚式は是が非でも必要な舞台だ。

 

「そうか。そこまで言うのなら……しかしあんなことがあった後ではやはり心配だ。事情が事情であるし内々に行うわけには行かないだろうか?」

「エゼル様が守ってくださるでしょう?」


 私は満面の笑みで言った。

 貴方を心から信じています、という感情を込めて。

 これは嘘ではない。だって本当に信じていたのだから。


「わかった。ルディアの事はこの命に代えて必ず守ると誓おう!」

「嬉しいですわ……」


 嘘つき。

 もし前の、完全に彼を信じていた私でもきっと気づいていただろう。

 いまや、彼の声と表情にはひとかけらの誠意も感じ取れない。

 

 とにかく結婚式の再開は速やかに進む事になった。

 

 問題は証拠集めだ。

 もちろんバレないよう、こっそり行う必要がある。

 これはお父様の人脈が大いに役に立った。

 王宮に仕える兵士や使用人に顔が広かったのだ。

 そう言えば、初めて王宮に来た時も色んな人と話していた気がする。

 

 そして、彼らの口の端々からエゼルの油断から出た「お漏らし」が聞こえて来た。


「じきに何かが手に入ると言ってはしゃいでいた」

「死んだ花嫁を『馬鹿な女』と罵って笑うのを見た」

「キレイな女の方と仲睦まじそうに歩くのを見た」


 断片的なものをつなぎ合わせると大体こんな感じに収まった。

 馬鹿な女、か。

 そうかもしれない。

 だってこんなゴミのような奴を信じていたのだから。

 

 手に入ると言っていたものはおそらく伯爵家の継承権だろう。

 結婚式の途中だったが、もしあのまま死ねば、私と彼の結婚の成立を主張すれば継承権は一応彼にも発生しただろう。

 もし、お父様が亡くなれば彼がうっかりローレイズ伯爵になってしまう事も十分あり得た。

 

 ……ただ、この中で一番気になるのは彼と歩いていた『キレイな女の方』。

 私は確かに最後に私を睨みつける女を見た。

 もしかしたら同じ人かもしれない。

 

 彼と歩いていた女の身元はすぐに判明した。

 なんと王家の末娘だった。

 名前はライゼリカ。

 話した事はないが、私のあこがれの人だ。

 彼女の話を聞き、遠巻きに見るたびに、いつもどういう人なのか想像していた。

 プラチナ・ブロンドで美しい髪、瞳、そして整った顔立ちと涼やかな声。

 美人で聡明。そして何より慈しみの心を持つ聖女のような人だという。

 

 流石にこの人は関係ないかもしれない。

 憧れの人だし。

 それでも一応、一度この目で見ておこうと思った。

 

「ごきげんよう。ライゼリカ殿下」

「あら。どなた?」

「ローレイズ伯爵家の次女、ルディアと申します」

「あらまあ!死から蘇ったと噂の!?」

「ええ。まあ……」


 それから彼女と数分にわたってお喋りした。

 どうやって蘇ったのかとか、体調はどうなのかとか、必要な物はなにかないかなど。

 思ったより少し早口な以外は、いたって評判通りの人物だったと思う。

 正直、ほっとした。

 流石に王家のお姫様と事を構えるのはちょっと厳しい。


 それに本当に素敵な人だったから。

 その美しさも、声も、性格も立ち振る舞いも、何もかも本物だと感じた。

 

 別れた後、彼女の背中をじっと見つめる。

 私も相当訓練したけど、この人は歩き方まで本当にキレイだ。

 この人は絶対に無関係だろう。

 

 ……トン!

 そう思っていた時、なぜか突然彼女が足で床を鳴らした。

 そして。

 

 私はゾッとした。

 尋常でない殺意を秘めた目で彼女が睨みつけてきたからだ。

 その激しい殺意に一瞬、私は自分がどこにいるのかわからなくなったくらいだ。

 あの時の、私が毒で倒れ意識を失う前に見た顔と同じ。

 この人だったんだ。

 

 ただ、それはほんの一瞬で、彼女はまた前を向き歩きだして行った。

 間違いない。

 こいつだ。




 それからはライゼリカ王女の情報を探った。

 だけど、叩けど埃は一切出てこない。

 今のままでもエゼルを追い詰める事は出来なくもない。

 ただ、あの王女。絶対になにかある。

 

 しかし、それから何日か経っても彼女には一点の曇りも無かった。

 結婚式まではあと2日。

 焦る頭で考えるもなにも浮かばない。

 もしかしたら彼女は本当になにもしていないのでは……?

 

 そう思っていたが、それだとこれまで調べたエゼルが「漏らした」情報の量と整合性がつかない気がする。

 エゼルは本当によくあちこちで私の暗殺の証拠となりうる「お漏らし」をしていた。

 はっきり言って、これでよく一度は誰にも悟られずに毒殺を成功できたなってレベルだ。

 

 そんな折、ロータが私にライゼリカ王女から接触があった、と教えてくれた。


「えーとそれで?」

「普通にお話して終わりでした」

「うーんやっぱり?」

「ただ」

「エゼルがこっちにやってきて」

「え!?」


 二人の関係を知る上で最高の形での接触だ。


「そしたら一瞬、一瞬だけ目が合った彼を睨んだんです。その目があまりにも恐ろしいので驚きました。本当に現実か疑いました」

「じゃあやっぱり私を睨んだのは勘違いじゃなかったのか……」

「僕も事前に聞いてなかったら多分見間違いだと思ったと思います」

「それでその後は?」

「特になにも。……ただ、エゼルはひどく怯えたような歩き方をしていました。表情や声は普通なのですが。これも注意深く見なかったら分からなかったと思います」


 そうか。そういう事だったのか。

 私は全てを理解した。

 これなら、彼女の犯した罪を暴く事ができるのかもしれない。

 

 私は調査の方向をほんの少しだけ変える事にした。

 彼女に睨まれた事や、彼女が誰かを睨んでいたことはないか?と聞くようにしたのだ。

 するとすぐに情報が集まるようになった。

 

 これで結婚式に間に合う。

 彼女を必ず追及できる。

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