天道を象りし壮烈と絢爛の【3】
「あ、ああいえ…」
何と反応すれば良いのか分からず、ただ一本ずつ机の上に並べられていく光景をマジマジと見つめる。
「………」
並べられていくそのどれもが装飾が凝っており、煌びやかだ。豪奢な雰囲気を放ちながらも絢爛の趣を誇示し続けている。
なにより形状が特徴的な剣が一本ある。
虹色の反射をしつつも純白の色を極めた、独創的な凹凸感と組み合わせられた装飾品が神々しい剣。特に特徴となるのが長めの柄と刃との結合部を中心に、ドーナツよりは少し大きく、太くはない円形の飾りがついている。
その円形の飾りには外縁部に等間隔でトランプに描かれているダイヤモンドのような尖りが生えていた。
柄の先っちょも同様に尖ってる。
ただ全体的に見ると刺々しい、というよりもやはり幾ばくかの神々しさが目立った。その煌めきはこの世のものでないと思えるもので、白と時折反射して目に映る虹色の輝きは、正に太陽の化身であると言えた。
後の並べられた剣はTHE日本刀と言わんばかりの剣と脇差。日本刀の方は鍔と鞘、柄の加工。鞘の美しく黒光りする色の上を、一筆の金色の波が駆け走っている。
紐は橙で染められており、その平べったい紐で鯉口を閉じていた。
脇差も同様の造形をしる。
そして最後の一本が、西洋的な造形の短剣。
翠色に透き通る鞘と柄。宝石のような煌めきがある…と言うか宝石をくり抜いて作られたそれだった。綺麗かと言えば綺麗だ。
「この剣って……もしかしなくても」
俺はそんな台の上に置かれる剣達に目線を向けながら、期待の声を上げると吉積さんは頷きながら言った。
「…そうだね、雅俊君の持ってた武具だね。もっと言えば逞しくなれよって渡された僕の剣と刀と言った所だが」
この世界のものではなさそうな作りと言うこととその言葉が理解を深めさせてくる。
この宝石のような短剣も、この苛烈で、壮烈さを体現する、正に厳めしくも神々しい天道の様な剣も、こんなものあってたまるかと言うくらいに何かが違う感が凄い。
ただのものではない。
「……」
そうして見惚れるように剣達を眺めみる俺に、吉積さんは微笑みながら言う。
「…悠夜君。この脇差と日本刀はやれないがその西洋剣と宝石剣は君にあげるよ。生憎そういうギラギラした西洋剣は好きじゃなくてね」
と。
「…ぁぇ…?」
びっくりして声が詰まり、遅れて「い、いいんですか…?」と言葉を返す。
吉積さんは「あぁいいとも」と深く頷きながら言う、そんな吉積さんの言葉に俺は戸惑いの声を上げた。
「な、なんで」
そう切実に。
すると、吉積さんは指を組み合わせ親指をくっつけたり離したりしながら。
「何でって言われたら……気前の良さ…と言うのは嘘か。実際好みでなくとも貰い物だ、譲渡するには勿体ない代物。うちで代々の家宝にしようと思ってはいた物だ」
そう言葉にした。
「…じゃあなんで」
「悠夜君は雅俊君の形見を持ってないと聞いている」
それを聞いて確かに。
「その通りですが…」
そうだった。
「まぁあの雅俊君だ、何処かで渡そうとは考えてたらしいが花奈さんに止められたようでね。悠夜君にはずっと秘密にしておくと決めてたらしいから」
「…ええ、その話は母の口からも聞きました」
「そうだね…まぁだから、と言うわけではないが、これは俺からの餞別の品…ではないな。君の門出と良き今後を祝っての事での贈り物だ。是非とも宝物にしてほしい」
「………」
そうは言ってくれるが元は吉積さんの物で、父さんが吉積さんを思って譲渡したもののはず。ならここで俺が優しさに肖ってもらっても良い物なのか。
貰ったとしてここで、俺は何といえば良いのだろう。端的に思いを込めてありがとうございます、といえば良いのだろうか。それとも長々と今の気持ちを語るべきなのだろうか。
(いや……)
吉積さんの気持ちだ、ちゃんと受け取って言えばいい。
「吉積さん……本当に、ありがとうございます」
「ああ、しっかり使ってくれよ」
一礼と、言葉に重みを。
ただそれだけか、味気ないなと言われても仕方ないが、誠意とは着飾るものでもない。
ただ、率直ながらも気持ちを強く乗せた一言を俺はそう伝えた。
「…けど…まぁ、今こうして渡したからってすぐに使えるものでもないだろうけどね」
吉積さんは苦笑気味にそういう。そしてそれは全くもってその通りで。
「…ええ、と言いますか頂けるというのはとても嬉しい事なんですけど保管場所が……誰かに見つかったりしたらちょっと大変かと」
家宝を持ってきた…家から郵送してもらった、という話でも中々、翠色の宝石剣とやらなんか特に昔の貴族じゃあるまいし、この豪勢な剣だって何というかだし、流石に金持ちでも持ってない。
多分。
なんにしてもレプリカ…とも言えない。
実際使うつもりなのだから下手に観賞用なんて言えないし。
すると吉積さんは「あーそっかぁ…」と頬を指でかきながら。
「じゃあ仕方ない。また来年、ダンジョンに潜れるようになった時に改めて渡す事にするよ。その時はたまたま見つけた重箱に入ってたとでも言っといてくれ。特にその長剣は太陽の光に照らされると所有者以外には見えないからね」
「…そ、そんなギミックが…」
重箱、と言ってもおせちに使ったりする漆の質感加工が施された箱の話ではない。
ダンジョンで見つかる箱、その中には武具や道具が入っていて所謂宝箱と言われているのだが、やはり土地ごとに特色があり、日本の宝箱は滑らかな木箱や艶やかな漆の箱が紅い綱紐に結ばれたもので知られている。
ただその宝箱は神出鬼没で、出現条件や中身のレベルが不確定。低階層で強い武器が手に入ることもあれば高階層でゴミのような武器が手に入る事があるそうだ。
また宝箱から出てくる物は少し特殊なのだが、それに準えてこれも同じように偶々見つかった凄い業物、という事で済ませる事ができる。幸い見えなくなる? という特殊加工付き、宝箱の産物としては丁度いい。
宝箱は見つけた人間が所有権を有すると規定されてるし、横から茶々を入れられることも無いし、こんな凄いものなのに国の介入がないのが変だ! なんて話にもまぁそうならないはず。
「まぁなんだ、折角持ってきたんだ。本物の剣だし、この際手に馴染ませる為に一度握ってみたらどうだい」
すると吉積さんはそう俺に勧めた。
俺は俺で折角だしの言葉に揺さぶられた。
「それもそうですね」
確かにこのまま見てバイバイというのは味気ないにも程がある。父さんの形見でもあるから触っておきたいという気持ちもあるが、魅力的過ぎる。
「じゃあ、先ずはこの剣を…」
「それはさっきも言ったけど太陽の光を浴びたら見えなくなる剣だね。雅俊君曰く太陽神の血をふんだんに使って鋳造した物なのだとか」
「何て物騒な……」
この煌めきとその効果はそれ故なのか。
(父さんまじでイカれてる)
しかし魅力は絶する程に感じる訳で、心の中で、浅く薄い忌避感を示すものの、差し伸ばす手は止められず。そうして俺は左手で鞘を、右手で柄を握ろうとした、その時だった。
「ぅ…ぇ……?」
バチッと全身に強烈な電撃が走った。
それでいて電気が勢いよく弾けるような音が全身から鳴った気もした。景色も一瞬だが歪んだ。
だから俺は慌ててその手を離し、吉積さんに目を向ける。
しかし、吉積さんは何のこっちゃわからんと言った風に首を傾げて「どうしたんだい?」と問いかけてきた。
「ぁ……い、いえ…」
(なんなんだ、今の…)
不信感を抱いた、強く。
だがもう一度触ると次はさっきほど激烈なものではなく、持ち続けていても同様の弾けるような電撃は感じなかった。
「………」
まぁだが、なんにも感じないなら何でも良い。
こう言うのって所有権利が入れ替わった時とかに起こるイベントのようななにかだろう、多分そう。アニメとか漫画とかゲームとかでよく見た。
うん、悪いものじゃあないはずだ。
多分そう。
そんな熱射に揺れる景色のような不安定な気持ちを抱きつつ、もう一度鞘をしっかりと持ち、柄をぎゅっと手の中に収めて握りこむ。
「……」
そうしてスーッと、横に鞘をズラし、刀身を滑らせながらこの場で露わにさせる。
(なにこれ…すげぇ)
見た瞬間、ただただそう思った。
語彙力が無くなってしまう輝き、鞘と同様真っ白い刀身。刀身に虹色の反射はないが強烈な純白の映写がこの瞳にグッと焼き付く。
握るとしっくり嵌まる柄の感触、握る時間が多くなるほど手に馴染んでくる。
「かっこいいですね…」
西洋剣の場合、何と言うのかは知らないが鍔の部分を中心に円を描いて作られた装飾は、太陽を元にデザインしたものなのだろうか。
ここだけ反射の色が虹色ではなく橙であると言うことは、ある意味大衆的な色感を参照したと言うことなのだろうか。
『ーー太陽神の血をふんだんに使ってーー』
(剣が所有者以外には見えなくなる…か)
殺意しか無い武器だなと、思った。いやまぁ武器はそういう物なのだろうけれど、鋭さにも刀身にも、狂気と磨きが幾数段にも掛かっていて、満ち満ちている。
(俺…昔の父さんに会える気しないわ)
それから宝石剣も触ってみたりした。
宝石剣は見た目通りの短刀で、小手技や剥ぎ取りによく使ったと父さんが言っていたらしく、用途としてはまあそんな所だろうなと思っていた。
そうして小一時間軽く振ってみたり触ってみたりして堪能した後、再度吉積さんに預かってもらうため返した。
「ぁ、もうこんな時間」
「ほんとだ…ごめんな、こんなに長く話すつもりはなかったんだが」
「いえいえ、それだけ楽しかったですし良い物をいただけたので」
そうした後も多少の話を広げ、コーヒーのおかわりをもらい23時、そこでお互い明日の予定のことを考え、お開きにする事となった。
「今日はほんと、色々とありがとうございました」
「いやいや、こっちも楽しかったし雅俊君のを渡せて…ほんと、良かった。また時間があったら話そう」
「ええこちらこそ、お願いします」
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そう言葉を交わし、悠夜が階段を降りていく所まで見送った圭はふぅっと息を吐いて応接間の席に再び就いた。
そして指と指とを絡ませて、腕と背を上へと伸ばし、パキポキと身体中の骨を鳴らした圭は一つ。
(ぁ、話すの忘れてたな……)
その事を思い出していた。
だが、圭はそれでも慌てる事なく、ゆっくりと身体を伸ばすのをやめて汗のかいたコップを口に添わせた。
ゴクゴクと、その黒い液体を喉の奥へと流し込んでいく。甘い、美味いと圭は思った。
「………」
今回忘れていた話というのは悠夜以外にもう一人、特別枠で参入した人物がいる事。それについての事だった。
けれど、圭はもう一度コーヒーをうん、やっぱりまぁいいかと思いながら啜った。
(寧ろ変に意識させるのも毒だろうし…)
そもそも特別重要な話ではない。
ただの話のネタだった。
だからそう、もう一度呼びつけたりメールを送ったりする必要はない。
圭は自身の隣に置いている刀を手に取って、半身だけ外に出す。
そうして顕れた、キラリと光を反射する赤黒い刀身。
それに目を向けてそっと微笑む。
(辛い事もあるだろうけれど頑張れよ、悠夜君)
立ち直れたのなら尚の事、と圭は祈りの声を心の中でそっと上げていた。




