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シロガフルヨアケ【3】

「……ぉ、おいレモン」


 そう声をかけるには遠かった。


 しかし、レモンの笑み溢れる。


「こっちは力を極限まで抑えてやってんのにお前はボロボロで残念だったなぁあ!」


 と言う悪役の様な発言はしっかり耳に届き、空に浮かぶ氷の塊が、そのゴツさが、怨嗟(えんさ)の質を体現していた。


「死ねぇぇええええ!!」

「いやちょ!!」


 普通の白い魔物とは違う様で、話せそうなら話とかないと勿体ないと思った俺はレモンを為に入ることを決めて。


(スキル流水(りゅうすい)!!)


 そのスキルを唱えると、虚空に水の塊が現れ、巨大な槍の様な氷塊を掲げるレモンの顔面に、継続的に水の塊は直撃した。


 そしてビームの様に数秒勢い強めで発射し終えると勢いが衰えていき、最後にはずぶ濡れのレモンが肩を震わせている姿だけが残った。


 俺はと言えば残り少ない魔力を使い、どっと舞い込んできた更なる疲労にぐでっとなりながらもレモンの元へと走り近づく。


「ちょっ…はぁ…レモン」


 そしてようやっとレモンの元へ到着すると。


「…ちょっと、どう言うつもりなの…悠夜さん…」


 見られるだけで恐ろしさに脚が震え上がってしまう殺意昂る目で俺を睨んだ。


 けれど、ここで怯み上がっても仕方ない。俺は息を切らしながら頑張って説明をする。


「……喋れる…?」


  するとレモンは怪訝な面持ちで俺に問うた。


「ちょ、はぁ……ゴリラ、なんか言って」


 俺がそう言ってゴリラに視線を向けるが、ゴリラはただ首をコタンと傾げるだけ。


 そんな様子を見たレモンは大きな苛立ちを孕んだため息を吐いて、そして言った。


「魔力の使いすぎで頭更におかしくなっちゃっただけなんじゃ無いの? ほんとに、イラつかせないでよ」

「いや、ちゃうって。喋れんねんって。タスケテ、ッてカタコトで喋ったんよ! 口の構造的に無理があってかすんごいモゴモゴしてたけど!」


 そう言うと、口と鼻から血を垂らすゴリラは言った。


「タスケ、テ…?」


 と。


「お…! そぉそう! 殺される、助けて」

「殺される…タスケテ……」

「ほら!」

「……」


 パチクリと、それを聞いたレモンは瞬きをする顎に手を置いて。


「何でこんな所に着ぐるみが…」

「ジッパーねぇだろあきらかっ! もしそうだとしたら一体何人体制なんだよこの白ゴリラ!」

「……?」


 ゴリラはそんな俺たちを前に首を傾げる。

 そして徐ろに尻を地面に落ち着けた。

 戦う意思はないと言う事なのだろうか。


 俺とレモンはお互いに目を向けてから、そして俺がゴリラに問うことにした。


「何で、俺たち、狙った?」


 言葉がどれくらいわかるのかが分からない為、単語をはっきりと発して模索しながらだが。


 すると、ゴリラはゆっくりと答えた。


「…狙う。オマエラ、ナカマキルする。ズット。だからオマエラヲ殺す。安全」

「ぁ……」


 そう言われて思い当たるところは山ほどあって…なるほどと、俺はすぅーっと息を吸いながらレモンに目を向けた。


「何ですか、別に魔物ですし。理性がないので最悪人里に出て来てしまうから仕方のない話です。可哀想だとか言うならそれはただのエゴです」

「敬語出てるぞー」

「……うっさ…」


 レモンはそんな突っ込みに不貞腐れる様にそっぽを向いた。


「悪い。あの…なんだ、殺すのには理由があったんだよ」


 俺はその経緯について語ろうとゴリラに言葉を投げかけると、ゴリラが新出の言葉が出てきたのか「…リュー?」と単語を返してきた。


「りゆう」


 それを聞いて俺はゆっくりと、聞き取りやすいように発音する。


「リユー?」

「りゆう」

「りゆー」


 口の構造上発音しづらいのか伸ばし棒の発音になってしまう。だが…まぁここは日本語学校でも何でもない。


 俺は兎に角話を進めようと思い、その発音にオッケーサインを出して話を続ける。


「で…なんだ、君ら…俺たちにとって危険な奴ら」


 そう言うと、ゴリラは目をかっぴらいて言った。


「……危険、俺たち強い…知ってる!」

「おぉ、いきなり流暢に…」

「俺たちは、強い。アイ、メッチャ強い。ナカマ強いだけ、頭ないナットシィグ」


(ノットナッシング…か…?)


 日本語とアメリカ英語が混ざった言葉に悩まされそうになりつつ、ゴリラの続ける言葉に耳を傾ける。


「でも俺、ナカマ…ナカマを………ナカマ使えるない」

「仲間…使える…ない?」


 するとレモンが隣から補足する様に言った。


「…率いる事を言いたいんじゃない? 確かにこいつ単体で考えたら強いと思うし、頭がいいっぽいから統括できなくないと思う」

「……トンカツ…ヒギィル」

「何だよその美味そうなの腹減るじゃねぇか……。えっとな、とうかつ、ひきいる。とう、かつ。ひき、いる、な」

「とーかつ、ひきーる」

「統括、率いる。仲間をまとめ上げる事……あー使う事、従える事」

「マトメル、シタガ…エル、事もなかま使う? とうかつ、ひきいる?」


 まぁ言いたい事は伝わってくる。


「まぁ、そう」


 俺は頷き再度統括と率いるを口ずさむ。


「とうかつ、ひきいる。…understand」


(……言語、ホント色々混ざってんな。この英語もわかる人なら訛ってるとかも分かるんだろうか)


 定かではない。

 だが、このゴリラの頭が良いのは確かだ。


 それに、コミュニケーションを意図して取ろうとしてそうな分、まだ対処の程があると言うものだ。


「で…そう。君が率いている仲間、俺たちにとって危険。だから殺すの、安全の為」

「危険…安全のため……だから殺す…」


 ゴリラは少し顔を顰めて言う。


「ヒドイ。…ヒドイわ。外ニハ出ないようにしてる、俺してる!」

「…それはマジでごめん、普通に知らなかった。君があの仲間達を従えてるなんて、思っても見なくて、まじでごめんっ」


 俺はしかし、言葉だけじゃ謝ってる事が伝わらないと思い、動物の行動的にも降伏していると分かるだろう体勢。手足を伏し、顔を地面に付けて言う。


「まじでごめん!」


(いや……まて、降伏と謝罪は別物か…)


 そう思い、少し顔を上げる。


 すると、ゴリラは下げていた腰を上げて俺の方へと歩いてきた。レモンはいつでも殴り殺せるように戦闘の体勢へ移ったのだろう、ズザッと雪を巻き上げる音が聞こえてきた。


(もしかして俺ワンチャン殺されるんか…)


 と、背筋を凍らせるがさっきまでひしひしと感じた殺意が感じ取れない。だからちょっとした不安程度の感情しか抱けず、寧ろ好意的に見えるゴリラに目線を送る。


「ナニ? コレ?」


 そうするとゴリラも俺と同じ格好を取って、そして俺に聞いてきた。ゴリラの顔面は目の前だ、顔も体も大きい事が窺える。


(いやほんまでけぇーなぁ……)


 体格差がよくわかるくらいだ。

 ちょっと怖い。


 あと息が掛かるほどに近くて…ふっつうに臭い。


「…最上級の許しを乞うごめんなさいって意味で、土下座って言うんだけど」


 俺はこれをどう説明すればいいか分からず、ただ普通に言ってみる。だが、ゴリラの中で何となく伝わっているのか頷いていた。


 そしてまた、単語を聞いてきた。


「ドゲザ…?」


 それに快く標準語ではないが、正しい発音で返してやる。


「そう。土下座」

「どぅげざ」

「…土下座」

「どげ…ざ」

「そう、土下座」

「どぅげ…どけざ……どげざ。これ、どげざ。イミ…ゴメンなさい…ユルシをコー」


 やっぱりこいつ、なんか感覚的に覚えてそうな気がする。


(学習能力やっぱ高いな…)


 そんな今の状況を俺は、昔渡来してきた言語の通じない外国人に対してお互いモノやジェスチャーを通し言語を教え合っていたような、そんな感じで少し楽しんでいた。


 それから俺は本題に入って言葉を紡ぐ。


「仲間、殺した、ごめん。安全のためだった、許して。もうしない。仲間殺さない」


 もう一度頭を地面につけて謝罪文を口にする。

 ゴリラはどう言った反応するのだろうか。


「……仲間…本当に殺さない?」


 暫く黙った後、ゴリラはそう言った。

 だが、簡単にそれは断言できない事を思い出し、条件を設定する。


「…俺たち人間を襲わないなら」

「ニンゲン……襲わない。…仲間、殺さない?」

「そう、殺さない」


 ゴリラはそれを聞いて、さらに俺の頭へと顔を近づけたのか、その息が掛かって髪が靡く。


(顔面雪の中に埋めといてよかったぁ)


 生ぬるい空気に臭い息、ちょっと息止めとこ。


 なんて考えていると。


「……ワカッタ。じゃあ…お前らココ、ストップ」

「え? …あ、うん」


 ゴリラは徐ろに立ち上がるとそう言って、氷山を迂回しながら森の中へと消えていった。そして暫くして、ゴリラが雪をかき上げながらこの場に戻ってきた。


 滑りながら勢いを止めたゴリラのかき上げた雪が、丁度レモンにぶち当たる。


 ガブサッ! と雪の雨を食らったレモンは風魔法でその雪達を弾き飛ばしたが、そこから現れた顔はピクピクと目元を震わせていた。


 機嫌が最高潮で悪くなってるのだろう、手指もピクついていた。


(ゴリラに殴り飛ばされた事といい俺の流水といいこれといい、災難続きだな)


 いや、もしかしたらこれに関しては狙ってやられたのかも。意趣返し的な。


 そう考えるとちょっと面白かったり…。


「なに」

「い、いやなにも」


 俺はキッと睨みつけられ、スッと目を背けて言葉で首を横に振った。


「で、でゴリラ、何しに行ってたの」


 話を早く変えてしまおうと、咄嗟に考えついた俺はそう慌ててゴリラに視線を向けて聞いてみる。


 するとゴリラは握っていた手を開いて、不恰好な掌大の木の破片を俺に見せた。


「これは…?

「…こーゆーのあかし。昔ニンゲンいっぱいいて、ちょっとのニンゲンが固まってて、ナニカワタシテタ。ダカラワタシもワタス、仲間にもワタシテル。お前仲間」


(…交友の証って事か。てか、人間いっぱいいてってことは…隕石落下前からいたってことか。いやほんまなんでこんなところにゴリラなんて居んだろう)


 熱帯地でも普通にゴリラの生息地でもない。てか普通にいない、熊くらいだこんなでかいバケモンが居るのは。


 謎は深まるばかり。


「それ、ニギッタラ、頭キーッてナル」

「握ったら…?」


 そうオウムを返すとレモンが捕捉してくれるみたいで。


「多分それ魔力の籠った木から作った魔笛(まてき)だと思う。ほら、初めてここに来た時から変色した木とか所々あったじゃん。あれあれ」

「あ、あぁ…そういえば」


 思い返せば木々の中に度々黒くて腐ってるような木があった。


(そっか、魔力がこもってたんか)


 ちゃんと木として地面に根を伸ばしてたり、綺麗に葉を生やしながら立ってたから、腐食してるには変だなぁとは思ってたけど。


 なるほど、スッキリした。


 そうして木々の事を思い返しレモンに目線を持ってくると、レモンはまた説明を続けた。


「一応魔笛(まてき)の構造としてはその木に共鳴主、この場合ゴリラの魔力が先に込められていて、それに対して第三者が魔力を流すと共鳴効果が発動する感じ」

「ほぇー」


(よく分からん)


 まぁ……多分要するに、魔力を流したら相手に伝わる伝達機器みたいなもんか。


「…こんなもん?」


 と言いながら俺はその木のかけらに魔力を流す。するとキーンッと耳鳴りのような甲高い音が鳴り、木が持続的に、小刻みに震え始めた。


「頭キーッてなった、お前何処にいるかわかるわかる」

「そりゃ…前に居るからわかるだろ」


 しかしその考え方はちょっとズレていたようで。


魔笛(まてき)は効果を発動すると共鳴主に居場所を探知させるの。視覚情報とは別の感覚で、脳に情報が統合されてないからそんな言葉になる感じね」

「ほんとそう言う解説聞いてるとお前頭よく見えてくるよ」

「……馬鹿にしてんの?」


 まぁ何にしても、と、そう俺は思いながら木のかけらにーーもとい魔笛(まてき)に魔力を流すのをやめてゴリラを見て言う。


「つか暇になったら会いに行くわ。どうせ当分は山に篭りっぱやろうし」


 そういうとゴリラは嬉しそうに飛び跳ねた。

 地面がちょっと揺れる、雪を弾き飛ばす感じで跳ねてるからドサドサ言ってる。重量感パナイ。


 はて、此奴の体重は何トンあるのだろうか。

 ダンプカーがジャンプしてるのと一緒なのだろうか。マジで揺れが凄い。


「アイニキテ、アイニキテ。遊ぼ、ことばで遊ぼ。痛いのイヤダ」

「お、おー…了解」


 後ろの氷山を見ながらゴリラは言う。

 少し怯えの見える目を見て、俺は苦笑いでそう返した。


 こうして俺とゴリラは友達……仲間? となった。

 レモンは…知らん。

 怖がってる感じがするから多分嫌われてると思う。

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