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25 ネガティブサイコパスな私は追放された甲斐性無しでポジティブサイコパスな僕は悩殺しにきたお嫁さん



「給金はこのぐらいになるわ。あと夜間(やかん)の仕事も多いけど、大丈夫?」


「はい、頑張(がんば)ります!」


 姉様方(あねさまがた)からの質問に(ほが)らかに答えるその子の姿(すがた)に、声に、私は体の底から恐怖が()き上がるのを感じている。まだ十歳にも()たないであろう可愛(かわい)らしいその少女の姿が、私は恐ろしくてたまらない。


「うん、問題ないわね。インちゃんからは何か質問とかある? 先輩(せんぱい)として何か一つぐらい聞いておいたら?」


「あ。いえ。ないです。ないです。はい」


「?」


 せっかくの面接官としての仕事をきちんと(まっと)うできていないがそんなことはどうでもいい。 今は一刻(いっこく)も早く。この場から(はな)れたい……!


「それじゃあ面接はこれで終わりね。じゃあ早速(さっそく)研修(けんしゅう)に――」


「その前に、僕はちょっとその人とお話ししたいです」


 面接官たる姉様の言葉を(さえぎ)って、その子は私を()しながらそんなことを言う。


 どう考えても失礼な態度(たいど)だ。だが姉様方は文句の一つも言わない。まるで魔術か何かに(あやつ)られるかのようにそのまま部屋を出て行ってしまった。


 私もどうにか姉様方と一緒に部屋を出ようとして、その背中に少女の声がかけられる。


「改めて自己紹介しましょうか、インさん。お久しぶりです、ヨウ・プラララスです」


 悪寒(おかん)(ふる)えのせいで(あし)が動かない。


 どうにか「どうして……?」と口にするのが精いっぱいだった。


 少女は。ヨウと名乗ったその少女は。とても(うれ)しそうに答える。


「何から話しましょうか、まあ順番にいきましょう。まずあの日、インさんが僕のことを『(きら)い』だと嘘をついてくれた(・・・・・・・・)あの日ですね」


 (うそ)じゃない。(まぎ)れもない本音だ。そんな私の反論が口から出ることは、当然ない。


「あの言葉の結果、インさんが表出(ひょうしゅつ)しました。そしてインさんの中には邪神が、邪神の中には僕が封印されるという()()の状態になってしまったのです」


 マトリョーシカだっけ。そういう人形があったなと。私は現実逃避(とうひ)をするように思い出す。


「次に、僕は邪神の封印を(のが)れて表出しました。これでインさん、僕、邪神という順番になったわけですね」


「ど。どうやって……?」


「ふふっ。簡単な話ですよ。強い感情があれば表出できるのはインさんにも言った通りですし、それに何より、インさんは僕のことを気にかけて(・・・・・)くれたでしょう? 邪神を儀式(ぎしき)()び起こすように、僕にとってはインさんのその気持ちこそが何よりも大きな呼び声となったんです!」


 そんな馬鹿な。私がヨウを呼ぶわけが……いや、そうか。私はヨウの存在を強く恐れていた。まさかその感情が呼び声となってしまったとでもいうのか?


「それから僕は、インさんと楽しくお(しゃべ)りするつもりだったんですが、残念ながらインさんは(おぼ)れて気を失ってしまいました。だから僕がインさんの中から魔術を使って、インさんの身体(からだ)をどうにか(りく)まで運びました」


 そうか。海で溺れたあの状態からどうやって助かったのかと思っていたらそういうことか。


「それは。素直に感謝するよ。ありがとう」


「いえいえ、どういたしまして。それにお礼を言いたいのはこちらですよインさん。まさかインさんが、これほどまでに深い計略を()られていたとは思いもしませんでした!」


「……何の話?」


「僕がそのことにやっと気づいたのは、海から上がってからです。こうなることを予測していたから、インさんは僕に『嫌い』だと言ったのだと」


「いや本当に何の話?」


「それに気づいた僕は早速、インさんの体で自慰行為(じいこうい)をしました。男性の体でそういうことをするだなんて初めての経験だったのでそれ自体で結構楽しめました。射精(しゃせい)の感覚はもう一度ぐらい味わってみたいです」


 ……何言ってんのこいつ? もう話についていけそうにないんだけど。


 これ以上この話を聞いてしまうと後戻(あともど)りできなくなると私は直感した。なのでどうにか(あし)を動かして部屋から逃げようとしたら、私の(こし)にするりと細い(うで)が回された。


 言うまでもなく。ヨウが()きついてきたのである。


 体こそは十歳()らずの(おさな)いものだが、()める不気味さは確かにヨウのものだ。私は恐怖のあまり(ひざ)をついてしまう。


 背後(はいご)でヨウは言う。


「そしてインさんの精子を採取(さいしゅ)した僕は、インさんの封印を(やぶ)って自分が表出しました。僕、インさん、邪神の順ですね。そして自分の体にインさんの精子を入れて、子を(はら)みました」


「……」


妊娠(にんしん)した状態でインさんと封印を入れ()えるとどうなるか分からなかったので、そこからしばらくは僕が表出していました。その間に『国を守る剣(グラディウス)』のギルドマスターにも挨拶(あいさつ)しに行ったんですよ。インさんという男性と結婚(けっこん)しますって」


 子作りの話はともかく結婚の話って私聞いてたっけ? 


「そして赤子を()んだ僕は、今度はまた封印の中に(もど)りました。インさん、僕、邪神の順です。その状態で、僕はまた自身に封印の魔術を使い、その赤子へと自分を封じたのです。邪神の(たましい)ごとね」


「あのう。私ちょっと仕事が()まっているので。その話の続きはまた今度に……」


「ふふふ、さすがはインさん。聞かなくても分かっているということですね。まあこれはすべてインさんの計画なんですから当然ですよね。そう、僕は(みずか)らを赤子に宿(やど)し、そしてその封印を(やぶ)ってまた表出しました。つまりは新たな体に生まれかわったということですね。中には赤子の魂と邪神の魂がありますが、インさんの遺伝子(いでんし)を受け()いだ素晴らしい体です。これで僕も素晴らしい人間に一歩近づけたというものですよ」


「そうですか。おめでとうございます。ええとそれじゃあ今日は研修はいいから一度帰って……」


「赤子になった僕は、『国を守る剣(グラディウス)』のギルドマスターの手によって孤児院(こじいん)(あず)けられました。できればまたギルドマスターに育ててほしかったんですけど、断られちゃいました、残念です。その代わりにインさんが目覚めるまではインさんを『国を守る剣(グラディウス)』に置いてくれるとのことだったので、なんだかんだ言ってもやっぱり優しんですよ、ギルドマスターは」


 ああ。だから私はあそこで()ていたのか。そしておよそ一年の記憶の欠落(けつらく)。納得したけど、知りたくなかったなあこんな事実。


「そして最後に、こうして成長した僕はインさんとの再会を()たせました。いやあ、さすがはインさん、本当にお見事です。インさんがあのとき『嫌い』と言ってくれなければ、これほどまでのハッピーエンドにはなりませんでしたよ。アダムとイヴも良いですけど、やっぱり他の人もいないと少し(さび)しいですしね。それにちゃんと結婚のことをギルドマスター(おとうさん)に報告できたのは、嬉しかったです。そこまで気遣(きづか)ってくれたインさんには、感謝してもしきれませんよ」


「……」


「それに、子作りを断ったのもこれを見越(みこ)していたのでしょう? 直接おしべとめしべをつけなくても子供は作れると(あん)に伝えてくれてたんですね! それに今は僕の中には、僕、赤子、邪神という順番で魂がありますが、これなら赤子の魂が緩衝材(かんしょうざい)となるので簡単には邪神の魂が表出することはありません。そしてこれで僕は邪神の力をより近くで取り出せるからさらに効率的に禁呪を使えますし、インさんは邪神の力に(なや)まされる心配もありません。すごい、すごいですよインさん、完璧(かんぺき)じゃないですか!」


「……そうだね良かったね。それでヨウさんはこれからどうするつもりなんですか?」


 私はもう、なんだか(つか)れてしまった。今後の展開がネガティブなものしか()かばない。


 そんな私に。抱きついているヨウはとても素敵な笑顔でこう言うのだった。


「もちろん、今日からはここでインさんと一緒に毎日を過ごしますよ。あと数年したら改めて子供も作りましょうね! きっと素敵な家庭を作れますよ!」


 私はがくりと項垂(うなだ)れる。どうにか断りたいが、もうその気力も湧いてこない。


 せめて私の思いがこの少女に少しでも届くようにと。私は無駄だと知りながら神に祈り、言葉を(つむ)いだ。


「私はギルドから追放された甲斐性(かいしょう)無しなので。ヨウさんには相応(ふさわ)しくないんじゃないかなと……」


「大丈夫。そんな些細(ささい)な事気にならなくなるぐらいに、僕がこの身体で悩殺(のうさつ)してあげますよ。娼館だから色々と勉強できそうですしね。はっ、まさか、インさんはそれも見越(みこ)して娼館に!? さすがですインさん!」


 どうやら。彼女のポジティブの前では私のネガティブは(かな)わないらしい。



 追放されたネガティブな私が、このポジティブな少女に殺される日は、きっと遠くない。







ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

感謝してもしきれません。


私の実力不足ゆえにあらすじとはだいぶ違う話になってしまったのは大変申し訳なく思います。

それでもここまで読んでくださった皆様に、心から感謝いたします。


またいつか小説を書きたいと思いますので、そのとき楽しんでいただけたら幸いです。

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