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13 ネガティブな私にある武器は逃げ足と羽毛と悪口



 どうにかこうにか必死に(さく)(めぐ)らせて。


 結局。私は暗殺者から逃げていた。


 とはいえ本当にただ逃げるだけだとヨウから(うたが)われてしまう。

 なので私はこう言いながら逃げていた。


「この羽毛(うもう)だけは守ってみせる! この純白を誰にも(けが)させはしません!」


 ……まあ。つまり。「私は一流の暗殺者だから戦おうと思えば戦えますけど、そしたらこの羽毛ちゃんが汚れちゃうから仕方(しかた)なく逃げているんですよ」という()(わけ)にもならないような()()いをしているのである。


 この馬鹿げた演技(えんぎ)がヨウに通じるかは分からない。しかし他に策がなかったのだ。


 私は正直言って邪魔(じゃま)くさいから今すぐにでも捨ててしまいたい大量の羽毛を必死に両手で(かか)えたまま、森の中を逃げ回っていた。


 後ろからはあの暗殺者が追ってくる。

 私よりも体格は良く筋肉もかなり付いているようだが、足の速さでは私に()があった。


「意外と逃げ足が速いわね……いいかげんに止まりなさい! 『炎よ矢となれ(サギッタ)火矢(フランマ)』!」


「うひゃあ!」


 暗殺者の詠唱(えいしょう)により生み出された一筋(ひとすじ)の炎が、私のすぐ横を通過していった。炎はそこらの木にぶつかって、一瞬でその木を(すみ)へと変えた。


 あの暗殺者。どうやら魔術を(あつか)えるらしい。たくましい外見からはなかなか想像がつかないがそれは私の勝手な偏見(へんけん)なのだろう。


 といってもこの逃走中に見た限りでは「火矢」の魔術しか使えないようだ。連発したり軌道(きどう)を曲げたりなんてことはなく、ただ一発()っすぐ飛ぶだけの炎である。


 単純に魔術の(うで)だけを見るならばヨウとは比べるべくもないが、威力(いりょく)自体は申し分ない。少なくともひ弱な私にとっては恐るべき脅威(きょうい)になる。まともにくらってしまえば致命傷(ちめいしょう)(まぬが)れないはずだ。


「私の大切な羽毛ちゃんが燃えたらどうするんですか馬鹿!」


 相手が炎の魔術を使ってくれるのはせめてもの幸運だった。羽毛が燃えるから仕方なく逃げているのだとヨウに思わせることができる。多分。


「じゃあその羽毛そこらに置きなさいよ! そんなの無視してあげるわよ! 『火矢(サギッタ)』!」


(あぶ)なっ! ……いやそう言って盗むかもしれませんし。私の暗殺は(うそ)で初めからこの羽毛が狙いかもしれませんし。そうだそうに違いない。お前は実はこの羽毛を殺しに来たんでしょう!」


「何を意味不明なことを言ってるのよ……。というか何、その羽毛。何でこんな夜中に羽毛持って外をうろついてるの? あたくしには理解できないわ」


「お前なんかにこの羽毛の価値は分かるまいバーカバーカ!」


 いちおう反撃(はんげき)も忘れずに私は逃げる。悪口で相手の精神にダメージを与えるのもきっと立派な戦いのはずだ。というか他にダメージを与える手段が思いつかない。魔術なんて使われたら手も足も出ないし、それがなくても体格差で(おと)る私では肉弾戦でも(かな)わないだろう。


 (わな)仕掛(しか)けたり道具を用意する余裕もない。ならば私にある武器はせいぜいが言葉ぐらいだった。あとは逃げ足とこの羽毛ぐらいか。まあとにかく舌戦(ぜっせん)だって立派な戦いだ。


 そんな戦いをしながら逃げて逃げて逃げ続けて。気づけばそこは先程の羽毛畑であった。


「な、なによここ……?」


 同じく羽毛畑に足を()()れた暗殺者の怪訝(けげん)な声が聞こえる。


 まあ。気持ちはわかる。

 この羽毛畑には私も面食らったものだ。


 畑ということでここにはしっかりと(たがや)された土が広がっているのだが、その土から()えているのは鳥である。正確に言えばガチョウやアヒルだ。


 空から落ちてきた鳥がくちばしから地面にまっすぐ()さったような姿が、この畑のあちらこちらにあった。何かの儀式(ぎしき)かと思ってしまうような異様な光景である。羽毛畑だと知らなければ(だれ)しもがそう思うに違いない。


「……この羽毛畑にまで来るなんて。やはりお前の狙いはこの羽毛たちですね!」


「あなた、頭は大丈夫?」


 本気で心配しているような眼を向けられてしまった。


 いや気持ちはわかる。そもそも羽毛畑なんて単語が口から出る人間がまともなはずはない。


 というかこの状況。この羽毛畑を私が作ったように思われているのではないか?

 鳥を一羽(いちわ)一羽(いちわ)地面に突き刺してこの狂気の空間を作り出したのだと。


 ……それはものすごく不本意だなあ。これらは多分この島の奇妙(きみょう)な動植物シリーズの一つだろうから何もおかしくはないんですよと、どうにか理解してもらいたいところだ。


「ま、いいわ。このイカレた畑はあなたにとって大切な場所のようね。じゃあ、こうしましょう。あなたがこれ以上逃げるようなら、あたくしこの畑を燃やすわよ」


「なっ!」


 しまった。ドジを踏んだ。


 まさか羽毛を人質(ひとじち)に取られるだなんて思ってもみなかった。


 どうしよう。羽毛が大切という設定でここまで来た以上は羽毛を見捨てるのは不自然だ。

 私は足を止めるほかなくなる。


 すると暗殺者が「え、こいつマジでこの畑が大事なの?」と不審者を見る目つきで、しかし暗殺者としての使命も当然忘れていないようにナイフを片手にこちらに近づいてきた。

 

 魔術は温存するつもりのようだ。下手に魔力を浪費(ろうひ)するのを(きら)ったのだろう。堅実(けんじつ)な判断だ。

 

 得体(えたい)のしれない畑の羽毛たちには決して()れないようにしているのもその堅実さゆえだろう。私だってこれが作物(?)と知らなければそうしたはずだ。誰がどう考えてもこれは怖い。


 誰だって、未知のものは当然恐ろしい。


「……」


 その当然のことに。私は一つの光明(こうみょう)()た。


読んでくださった方々、評価・ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます。


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