表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星5SSRランク美少女が、無課金な僕にメチャクチャ課金してきます  作者: 黒鉄メイド
4回転目 無課金系美少女&配布系美少女
78/91

19.メインイベント:【二人の想い】

 そして時は現在に戻る。

 トレーニングルームで、僕と結香は向かいあう。

 

 結香は赤く腫れた顔を歪ませて、身を構えた。


「廃課金兵状態(モード)……てことは、私を止めに来たんだね……。でも無駄だよ、どれだけ止められようと、私はこのライブに出るんだから……っ!」

「勘違いするな。僕は、結香を止めに来たんじゃない」


 結香は口を開けて、困惑の表情を浮かべた。


「じゃ……じゃあ七芽くんはどうして廃課金兵にまでなって、私の前に現れたの……? 私を止める以外、一体何をしに……」

「そんなの決まってる、結香のライブを成功させるためだ」

「! なんで……どうして……どうしてあなたはいつもそうなの……どうしてそうやって、いつも優しいの……!?」

「優しくなんてない」

「優しいよ! どうしてあそこまで酷いことした人間にそこまで出来るの!? どうしてそこまでして関わろうとするの!? 私たちはただの友達なんでしょ!? なのにどうして……どうしてのなの七芽くんっ!?」


 荒い息を吐きながら、結香は僕を睨んだ。


「あなたのそういう何気ない優しさが嫌いっ! 人生無課金主義者なんて言いながら、困ってる人がいれば、誰でも助けちゃうあなたが嫌いっ! その後も見放さず関わってるのが嫌い! だからみんなあなたのことが好きになっちゃうんだよ! 離れられなくなっちゃうんだよ! それなのにあなたは、振り向いてすらくれない……っ。そんなの酷いよ……! そんなことするくらいなら、最初からそんな残酷な優しさ、振りまかないでよっ!!」


 つり上げた両目。その端からは、再び涙の粒があふれ出す。

 膝は次第に折れて、彼女は地面に両脚が付き、両手で顔を押さえた。


「やめて……やめてよ、七芽くん……。その優しさは、苦しいよぉ……そんなことされたら私……あなたのこと嫌いになれないよ……諦めきれないよ……っ」


 結香は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、両手で何度も何度も擦るが、涙の粒は溢れかえり、払おうとしても追いつかない。


 そんな結香の姿を見て、僕の拳が力強く鳴った。


 今、結香が泣いているのは、黒波墨汁や愛果の所為なんかじゃない。


 紛れもなく、僕が原因だ。

 今まで僕が、結香に曖昧な態度をとり続けたからこそ、結香はその都度傷つき、崩壊した。破産した。

 

 これまで一番、結香を傷つけたのは、僕なんだ。

 

 だから、苦しむ彼女を見て僕が傷つくのはお門違い。

 これは僕が背負うべき罪――そして罰だ。


 傷だらけの結香を癒やすために、僕はしなければいけないことはただ一つ。

 たった一つの想いを、結香にはっきりと伝えなくちゃいけない。


 だからこそ、僕は結香に近づき、小さくしゃがみ込んだ結香を抱き寄せ包み込んだ。

 結香の身体が、一瞬跳ね上がる。


 だが、彼女は僕に腕を回さない。身を委ねたりはしない。


「ごめんな、結香。僕は今まで散々、結香に甘えてきた。それなのに僕は結香の気持ちに全くと言っていいほど答えなかった。本当にごめん。大切な友達だったのに」

「っ……やっぱり七芽くんは、私のことを友達としか思ってないんだね」

「ああ」

「そうなんだね……」

「そう思ってたんだ、これまでは。でも今回に経験してようやく分かったよ――僕は結香と過ごす日々が好きだ」

「っ!」

「結香と一緒にお弁当を食べたり、ボケたり、ツッコんだり、談笑したり。つかず離れずのイチャラブを楽しむ、そんな日々が、僕には何より楽しかった、心地よかった――そして何よりも大切だったんだ。もう誰にも渡したくないくらいに」


 僕の言葉に、結香が僕の服を掴んでくる。

 丸くて小さな拳を振るわせながら。


「それは……一体なんなの……? その言葉の意味は……どういうことなの……?」

「なんでもない僕の率直な想いさ。僕は、結香のいない日々なんて考えられない」

 

 いや、これではまだ僕は逃げてる。

 また彼女を傷つけてしまう。


 覚悟を持って、僕は結香にちゃんとした言葉で、伝えなくてはいけない。


 僕の想いを――僕が言える最大限の言葉を。


「結香、僕は結香が好きだ。結香が頑張ったから、君は僕にとって何よりも大切で、大事な存在になったんだ。結香のこれまでの課金は無駄じゃない。その全てがちゃんと、僕に届いてたんだよ」

「……ななめ……くっ……うっ……うぁあああぁぁぁあっああ……っ!!」


 結香は今度こそ、僕の胸に顔を埋めて泣いた。僕はそんな彼女を、確かに抱きしめる。

 服に染み付いた涙は熱く、僕の胸に深くしみこんでいく。


 結香は確かにここにいる。

 僕の大切な人は、今、ようやく戻ってきてくれたんだ。


 長い間、結香は泣いてた。

 どのくらい時が経ったのかは分からないけど、とにかくとても長い時間、僕らは抱き合っていた。


 これまで開いた空白を、確かに埋めるように。


 結香はようやく落ち着いたらしく、んぐんぐ、と言いながらも、顔を上げる。

 泣きはらした顔は、酷い有様だったけど、そんな結香が、今ではとても愛おしく感じる。


「大丈夫か?」

「……うん、七芽くんがいるから」

「そうか」


 ようやく結香が戻ってきた。

 そんな感覚を覚えて、僕の口元が自然と上がる。


 では、最後の仕上げをするとしよう。

 これまでの結香がしてきた課金に、向き合うことにしよう。

 

「結香、さっきも言った通り、僕は結香のことが好きだ。だから……僕と付き合って――」

「ずるいよ」

「へ?」


 ずるい? 一体何が?


「こんなの全然フェアじゃない。駄目駄目のルール違反だよ。だから今、七芽くんの告白は受けられない」

「えっと結香さん? 一体なんの話をしてるんですかねぇ? 全くもって意味が分からないんですけど」


 なに? 僕何か間違えた?

 何か告白の手順を間違えた?

 でもそれは仕方ないだろうが、ちゃんとした告白なんて、生涯殆どしたことがないんだから。

 

 て、これ断られたの?

 嘘、めっちゃ覚悟決めてきたのに。

 人生無課金主義者引退宣言しに来たのに。

 

 ヤバい、今めっちゃ泣きそう。

 僕が号泣しそう。


「そ、そんな今にも泣くじゃくりそうな顔しないでよぉ!? 別に七芽くんからの告白が嫌だってわけじゃないから!?」

「……本当ぉ?」


 では一体何が駄目だったと言うのだろうか?

 さっぱり分からない。


「いわゆる吊り橋効果て話だよ。こんな状況なら、誰が相手でも、その場の空気で告白しちゃう。だからフェアじゃないの」

「はぁ……」

「こんな状況で七芽くんと付き合ったら、硝子さん多分、ものすごく激怒すると思うよ? ずるい、卑怯だって。私だってそう思う。こんな状況……あまりにも美味しすぎるもん……」

「でも僕は本気で結香の事が好きで――」

「ならもしも、これが私じゃなくて、硝子さんの出来事だったらどう?」

「どうって言われても……」


 だってあの硝子さんだぞ?


 結香と違って何もできない駄目駄目お姉さんで、外にも一人で出かけれらず。二十歳になっても風呂にすら一人で入れない。そんな駄目駄目人間ながら、現実とちゃんと向き合って、自分の長所を生かし努力して生きている。困った時は相談に乗ってくれるし、いざとなれば頼りになる。その上、僕と気があって、おっぱいも大きく、駄目な要素を覗けば僕の好みドストライクな、あの硝子さんとこの状況に出くわしたらなら――、


「やばい、確実にエッチする」

「ちょっと!? 欲望に正直すぎるよ!?」


 なるほどなぁ……。確かにこれ吊り橋効果だわ……。

 相手が硝子さんだったとしても、僕、絶対に告白しちゃうもん。

 空気に流されまくっちゃうもん。 

 大人の階段上っちゃうもん。


 あっぶねぇ……。そう言えば前に、我慢できなくて硝子さんのこと押し倒しちゃったの忘れてたわ。


 いや、本当に結香が相手でよかった。

 別に深い意味はないぞ?

 僕らは健全な関係だったから、そうなっただけだ。あはははは。

 だから、結香の胸から目線は逸らしておこう。


 仕切り直しに、僕は喉を鳴らす。


「でも、僕の気持ちは本当なんだぞ。僕は結香のことが好きだ」

「うん。七芽くんの気持ちは十分に伝わったよ。だから今、別の気持ちが溢れてきちゃってるもん……」

「一体何の感情だよ?」

「決まってるよ――七芽くんへの愛だよ」

「いつものことじゃねぇーか」


 呆れて笑う僕に、結香は微笑み返す。


「全然違うよ。これは醜い感情の暴走じゃない――どこまでも純粋な私の想いだから……!」


 彼女の周りを覆っていたはずの空気は、以前の禍々しい黒い物と違い、桜色の艶やかで暖かいものに変化したように感じた。


 破壊するための台風ではなく、穏やかでいながらも強く心地よい。そんな風。


 そんな優しい風を纏って、結香は明るく笑った。


 とても眩しく、見ているだけで誰もが虜になってしまうような、そんな純粋な笑顔を。


 今の彼女は、決して黒台風などではない。

 名を付けるとするならば――。


「『北南高校の桜吹雪スプリング・ウィンド』て、ところかな」

「ん? なんの話?」

「別に何でもないさ」


 僕は結香の手を引き、彼女を立たせ、身体を支える。


「七芽くん、改めて言うね。ライブが始まるまででいい。私に、あなたの人生を課金してください」

「ああ、僕の夏休み全てを課金してやるよ。そして一緒にライブを成功させよう――愛果を、負かしてやろうぜ」

「――うん。ありがとう、七芽くん」


 朗らかに微笑む結香の顔を見て、僕は契約書にサインした時のことを思い出す。

 僕は彼に、ライブ成功の暁として、ある一つの条件を出したのだ。


『黒波さん。僕からも一つだけ、あなたに誓ってもらいたいことがあります』

『言ってみろ』

『もし今回のライブが成功したら、結香と直接会って話してあげてください。彼女は、何よりもあなたを大切に思ってる』

『――ふん、いいだろう』


 保険として、僕お手製の契約書を彼のサインをもらった。

 まあ、サインをもらう前に、契約書の出来に対してぼろくそに言われて、秘書の人に改めて書き直してもらうハメになってしまったが、これで互いに契約は結んだ。

 

 だから絶対にライブを成功させなくちゃいけない。


 結香のために。

 僕の大切な人の願いを叶えるために。強く、胸に誓った。

感想三件、ありがとうございます!


何らかのご意見、ご感想がありましたら、お気軽にお書きください!

また、評価ポイントやレビューを付けてくださると、大変ありがたいです。今後の励みになります! 

お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ