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4.仮初めの恋人

「ふんっ!」

「危っね!?」

 

 高く上がった綺羅星の靴が僕の鼻を擦り、微かな痛みが伝わってきた。

 

「いきなり蹴ることはないだろうが!?」

「あんた……結香の気持ちを踏みにじるわけ……?」


 綺羅星は軽蔑しきった目つきで、僕を睨んでくる。

 まあそう見えるわな。


 僕も最初に結香からこの提案を聞いたときは、心底仰天したものだ。 

 お前、僕のこと好きじゃなかったの!? て。



『一番深い関係までいくには、付き合うくらいまでする方が早いと思うんだ。その方が一緒にいる時間も増えて、互いのことをよく知ることができるでしょ?』


 僕としては別に綺羅星のことなんて知りたくもないんだが……。

 でも結香はいいのだろうか? 僕が綺羅星と付き合うことになっても。


『うん。それで刹那ちゃんを助けられるのなら。あ、もしかして七芽くん、私に気を使ってくれたのかな?♡』


 ち、ちゃうわい! 後でなんかギクシャクするような展開が面倒なだけじゃい!


『ふふっ、じゃあ、そういうことにしておいてあげる。あ、それともし刹那ちゃんに手を出したら怒るからね?』


 それは怖い。結香さんが怒るとマジで怖いのだ。歩いた場所が更地と化してしまう。



 てなわけで、これは僕の考えた計画ではない。結香の発案したものだ。

 だからこそ、僕がここで退くわけにはいかないんだ。

 綺羅星に何をされたとしても。


「勘違いするな。付き合うといっても、ごっこ遊びみたいなものだ。その方が、お互いに色々と知ることが出来るし、繋がりのヒントとやらが見つかるかもしれないだろ?」

「それなら友達から始めるのが筋でしょうが、どうして一気に飛んで付き合う段階から始めようとしてるのよ!?」


 そう言うと思ってた。だから僕はあらかじめ綺羅星対策用の言葉を用意しておいたのだ。


「なら聞くぞ、綺羅星。僕らが友達から恋人になるまで、どれくらいかかると思う?」

「一生掛けてもあり得ないわ」

「だろ? なら友達よりも、ごっこ遊びでもいいから付き合った方が、早いじゃないか」

「下らない……そんなの死んでもお断りよ。誰があんたなんかと……」

「なら、そのまま誰とも繋がらないつもりなのかよ。結香とすら」

「っ!」


 その場を離れようとしていた綺羅星の足が即座に止まった。

 やっぱり、お前の弱点はそこか。


「結香はあんなにもお前のことを友達だって思ってるのに、そんなぎこちない関係のままでいいのかよ。それこそ、僕よりも今の綺羅星の方が酷いんじゃないのか?」

「あんたに何が分かるていうのよ!? 好き勝手言ってっ!!」

「ああ、僕はお前の事なんざ、これっぽっちも知らねぇよ。でもそれは、お前だって同じだろうが。僕の何を知ってる」

「くっ……!?」


 ぎりっ! と、強い歯ぎしりの音が廊下に響いた。


「……いい? 絶対に勘違いするんじゃないわよっ……。私たちはこれからあくまでも付き合った風の関係で接するだけ。ただの仮初めの関係よ。人と繋がれる方法が分かったら関係はすぐに解消する。分かったっ!?」

「ああ、もちろん。僕も星5SSR美少女と本気で付き合う覚悟なんて持ち合わせちゃいないよ」

「なら関係成立ね。それじゃ、私は行くから」


 綺羅星は早足でその場を離れて、何処かへと行ってしまった。仮初めの彼氏となった僕を残して。

次回から本格お付き合い(?)スタート!


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