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最強の魔術師、最初の仕事を決める

 恵玉。

 まあ簡単に説明してしまえば恐ろしく美味しいフルーツの一種だ。

 甘いのに、後味はさっぱり。

 決して甘さは控えめではないはずなのに、食べ終わった後にくどい甘さの残らない、いわゆる思考のフルーツというやつだ。

 生で食べるのもそれは言葉で説明しがたいほどに美味しいのだが、このフルーツの真の美味しさは調理した後に出てくる。


 加熱すればそれはとろとろの、甘さを凝縮したようなゼリー状のものになり、パンケーキや様々なパイによく合う。無味のパイ生地単体に、この甘い液をかけるだけでそれは贅沢な逸品へと変化し得る。


 逆に冷やすことで、身がしっかりと旨味を凝縮させ、引き締まった涼しげなデザートとなる。

 夏の定番フルーツといえば、一般的には下級のグルマである「赤の大玉(俗にスイカと呼ぶ)」が有名だが、一部の上流階級の貴族達の間では、「恵玉が夏の代名詞」という言葉が生まれるほどの人気っぷりだ。


 だがまあ、言わずもがな。うまいグルマほど強い。または希少だ。 

 この恵玉は、植物系のグルマで、更に言うと意志を持たないグルマだ。

 そのため、実質的な恵玉の入手難度は大したことはない。なにせ動かないのだから、戦闘にもならない。


 だがしかし、恵玉はその生息区域が厄介なのだ。その上希少な存在であることから、恵玉は市場ではそれはそれは高い値で取引される。

 さて、その恵玉の生息区域がどう厄介なのかというと、まあその生息する場所が砂漠のど真ん中なのだ。


 砂漠は恐ろしい場所だ。照りつける太陽や、歩き辛い足場なんていうまでもないことだし、それに加えて夜はすこぶる寒い。

 だがまあそんな環境的な過酷さは大した問題ではない。

 パーティーに一人でも魔法使いがいれば、水はほぼ無限に出し放題だし、夜に暖をとるのも造作もないことだ。

 

 もっと違ったところに危険は潜んでいる。


 砂漠地帯に生息するグルマは皆、血気盛んで強いときている。

 なんたって、少ない栄養で生き残った生物は皆、言うまでもなくその環境に適応し、進化し続けているがために生存能力が圧倒的に高く、かつ常に栄養に飢えたグルマは栄養を得るために誰それ構わず近くの生き物を捕食しようとする。


 中には毒などを操る本当に面倒なグルマもいるので、普通に考えて、砂漠地帯での探索は、並大抵のパーティーでは挑めない。

 生半可な気持ちでいれば、任務達成どころか、1日と持たないことは言うまでもなく、場合によってはパーティー全滅の危機である。


 そんな死と常に隣り合わせな砂漠地帯の中で、恵玉を見つけることはなかなか難しい。

 最終的には食料も性根も尽きて収穫のないままとんぼ返りしてくることが多い。


 だがまあそれはあくまでも、『並大抵のパーティーであれば』の話だ。

 僕にはご主人様がいる。

 ご主人様なら、「ひとっ走りいってくる」とかなんとか言って数時間後には御目当てのものを見つけ出して帰ってくるだろう。

 だから、別にご主人様がこの依頼を受けようとするのを止めたりはしない。


 何より、初めての仕事だ。

 ご主人様がやりたいものをやった方が絶対にいい。

 やりたくもないことをやって、「仕事なんてだるいだけだ」とか言われて、今後の仕事を拒否されるのは困る。今後も継続的に仕事してもらわないと、家から追い出されてしまうからだ。

 

 と、まあそんな感じで恵玉の依頼の書かれた紙を受付に持っていく。

 たまたま受付は先ほど登録をしてくれた受付嬢の人だった。


「あーはいはい。依頼受けてしまうですね?どの依頼ですか......え?」


 渡した紙を見た途端に、受付嬢さんの顔が曇る。


「失礼承知で言いますよ?協会での依頼は確かにランク制限がありません。それは先ほど説明した通りで、おふた方ともにわかっていただいているとは思いますが、さすがに登録したばかりの新人さんがこの依頼、というのは相当ハードルが......」


 受付嬢さんは苦笑いをしながら紙を返してきた。

 制限がないと言っていた割には、しっかりブロックがかかってるじゃないか。とは思ったものの、変に面倒なことはしたくないので、それについてはあえて触れない。


「確かに恵玉そのものは動くわけでもなく、何やら変な毒なんかを辺りに撒き散らすわけでもないですが......。失礼承知でお尋ねするようですが、どこに生息しているかご存知で?」


「もちろん知っていますよ。その場所がいかに危険なのかもわかっているつもりです。その上で恵玉の依頼を受けようと思うんですが」


 できる限り変に思われない程度に返答をする。

 ビギナーが遊び半分でいくような場所じゃないことぐらいわかっている。だが、ご主人様がこれと言っているのだから、もう仕方がないのだ。

 何が何でもこの依頼を受ける。


「そうですか......。まあ先ほど申し上げた通り、何が起きても責任は取れないですよ。まあおふた方がどれほどまでに腕が立つのかも私は存じていませんので何とも言えませんが、くれぐれも命を捨てるような選択はしないでくださいね?」


 受付嬢さんは、しぶしぶ依頼の受諾を許可してくれた。

 そうと決まればすぐ行動だ。


 ぱっぱと行動することが大切だ。

 まずは家に戻って色々揃えるものを揃えなくば。

 僕は人目を気にすることなく大きな「ぐう」というお腹の音を立て、小さな声で「腹減った腹減った腹減った」と連呼しているご主人様を引っ張り、今にも追い出されそうな家へと戻って行った。




 

 


 


 

 


 

 


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