第五十二話「この瞬間」
ゆっくりと愛は、剣の居る病室の前にいる麗子に近づいて来る。麗子は、仁王立ちの様に愛に向かい合う。対峙する二人。
「お父様から聞きました。剣君が目を覚ましたみたいですね」
「はい。先ほど」
愛は、麗子の横を通ろうとしたが麗子に止められる。
「何をするのですか?」
「すいませんが今は、通すことはできません」
「何故ですか?」
「剣様は、再び横になりました。事故から3年経っているんです。気持ちの整理をしたいんだと思うんです」
「話したんですか事故から今日までの事」
「はい」
愛は、麗子から2歩下がる。
「分かりました。では、日が沈んでからまた来ます」
「剣様にお伝えしときます。それと剣様の事は、野々村様には伝えないでください」
愛は、回れ右をしてその場を後にした。
時刻は、1時を過ぎた。再び剣は、起き上がっていた。
「剣様体調の方は、どうですか?」
「そうだね。まだ頭とか痛いときあるし万全じゃないかな」
「無理は、しないでくださいね」
「分かってるよ。ありがとう麗子さん」
麗子は、病室の窓から外を見ると中庭のベンチで本を読んでいる愛がいた。
それから時間が過ぎて日がおちて夜になり7時になった。
コンコンっとドアが鳴った。麗子は、ドアをスライドすると愛が立っていた。
「七塚さん」
「剣君!」
愛は、嬉しそうに剣の隣に移動して椅子に座った。麗子は、剣にお辞儀をして病室から出て行った。
「七塚さん。なんだか雰囲気が変わったね」
「そ、そうかな?」
「うん。大人びた感じがする」
「ありがとうございます」
会話が途切れ静かになる部屋。
「あ、あのね。剣君。私ねずっとこの時を待ってたんです」
「……」
「私の気持ちを伝えたくて。私ね。初めて剣君に会ったあの夜の日、剣君に一目惚れしました。次の日から貴方のことをずっと考えてたし、クラスが違ってても遠くから見てた」
剣は、何も言わずに愛の言葉を真剣に聞いている。
「貴方と中庭でお弁当食べた時なんかずっとこの時間が続けばいいなって想ってた。学校卒業したら剣君のお嫁さんになりたいっていつの間にか想ってました。……あのイヴの日私は、貴方に気持ちを伝える筈だった」
愛が何も言わなくなり下をうつむいた後剣の瞳をじっと見て。
「その気持ちを今伝えます……剣君。私は、貴方の事が好きです」
剣は、愛の想いを聞いて。
「ありがとう」
そう言った。
「……フフッ。剣君は、優しいです。そいうところも好きですけど」
愛は、椅子から立ち上がる。
「私の気持ちは、伝えました。次は、剣君の番ですよ」
「俺の番?」
「とぼけても無駄ですよ。私は、知っています。剣君の想いは、誰にあるのか」
剣は、窓の外の月を見つめる。




