第四十九話「沈黙のクリスマス」
翌日。剣は、意識不明のままクリスマスを迎えた。手術後7階の個室に移された。剣は、目を閉じて静かに呼吸している。口には、酸素マスクを常につけている状態。個室には、朝から麗子、愛そして明音が剣に寄り添う。中でも明音は、ずっと剣の左手を両手で握り続けている。
「麗子さんちょっといいですか?」
愛は、麗子を個室から連れ出した。
「今日は、野々村さんとお二人にしましょ」
「……ですが」
「分かっていますわ。私も一緒に居たいですし、麗子さんは、メイドとして離れたくない気持ちも……だけど、今日は、あのお二人にしてあげたいのです」
愛の申し立てに考える麗子。
「分かりました。それでは今日一日。ですが、万が一の時のために私は、病院内にいます」
「ありがとうございます」
愛は、麗子に頭を下げた。
「お止め下さい。メイドの私に頭を下げないでください」
「えっと。それじゃ今日は、家に帰ります」
その場から離れた愛。
個室に剣と明音だけになった。明音は、剣に話しかけるが何も応答がないまま時間が流れていく。
「剣。忘れたの?今日は、一緒に出掛けるんだよ?早く起きてくれないと困るんだけどな?」
「……」
「もしかして寝たふりしてる?だったら起きてよ。時間が無くなっちゃうよ?」
「……」
「私ね行きたいレストランがあるんだよ?凄くパスタが美味しいって有名なんだよ。ちなみに剣の奢りだからね?クリスマスなんだから」
「……」
なんどもなんども剣に話をするが何も起こらない。
「ねぇ?剣。ずっとこのままじゃないよね?ちゃんと起きるよね?」
「……」
「何か言ってよ。クリスマスなんだよ?これじゃ私が馬鹿みたいじゃない」
明音は、眠り続けている剣の腹部に覆いかぶさり、自分の顔を擦りつける。
「待ってるから。私ずっと、ずっと剣のこと待ってるから。一か月、半年、ううん。一年でも五年でも十年だって待ち続けるから、どんな時でも剣の傍から離れない。何度もここに来て声をかけ続けるんだから。絶対私の元から離れたりしないで」
個室の外に帰ったはずの愛がドアにもたれていた。
「私も同じこと言いたかっんだけど、先に言われちゃったなぁ」




