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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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14/59

王子がやって来るらしい

翌朝。

私はいつもより少しだけ機嫌が良かった。


理由は簡単である。

昨日。

食堂で働く許可を勝ち取ったからだ。

もちろん条件付きではある。


変装必須。

勉強優先。

フォレスト同行。


王家の影まで付くらしい。

少し大袈裟な気もするけれど、許可は許可だ。


勝利である。


「楽しみね」


朝食後、私は上機嫌で紅茶を飲んだ。

今日は食堂へ行く予定はない。

まずはお店で出す料理を考えなければならないからだ。


前世で食べていた料理はいくらでも思い浮かぶ。

問題は再現できるかどうかだ。

一応お城の調理場にお邪魔して調味料をみたところ

大抵の料理は作れそうだった。


「エレ」


向かいに座るフォレストが呆れた顔をした。


「また何か企んでるな」

「失礼ね」


私は胸を張る。


「考えているだけよ」

「お前の場合それが一番危ない」


失礼である。


⸻


「エレノーラ」


夕食後のティータイム。

お父様が私を呼んだ。


その瞬間、嫌な予感がした。


最近学んだのだ。

お父様がこういう呼び方をする時は、大抵ろくなことがない。


「何でしょう」


私は警戒しながら紅茶を口に運ぶ。


向かいにはお母様。

隣にはお兄様。 


少し離れた場所にはフォレスト。

今日も何故か呼ばれているらしい。


本来なら剣の訓練の時間だ。


「ご愁傷様」


私が小声で言うと、


「原因がお前だからな」


と返された。


「三週間後」


お父様が口を開く。


「カナルド帝国第一王子、アルベール殿下が来訪する」


私は瞬きをした。


ああ。

婚約者だ。


そういえばいた。


「そうなのですね」


私は頷いた。

お父様が少し首を傾げる。

反応が薄かったらしい。


だってまだ会ったことがないのだ。

知らない人である。

なんなら今この時まで存在を忘れていた。


「そして」


お父様は続けた。


「約一ヶ月滞在する予定だ」


私は固まった。


「えっ長くないかしら?王子って暇なのね。」


思わず口から出た。

部屋が静まり返る。


お母様が目を瞬いた。

お兄様が紅茶を吹きそうになった。


フォレストは顔を伏せている。

肩が震えているので笑っているのだろう。


「長いか?」


お父様が聞いた。


「長いです」


即答だった。


「一ヶ月ですよ?」

「そうだな」

「そんなに話すことあります?」

「婚約者だからな。まぁ我が国の視察も兼ねているのだろう。」


私は少し考えた。

そして真顔で言った。


「私はそんなに暇ではないのですが」

「暇じゃないのか」

「暇じゃないです」  


私は胸を張った。


「週四で魔法塔」

指を一本立てる。


「週三で食堂」

二本目。


「勉強もあるわ」

三本目。


「忙しいじゃない」

「忙しいな」


お兄様が額を押さえる。


「王女の予定ではないな」

「そうかしら」

「そうだ」


全員一致だった。


「エレノーラ」


お父様が真面目な顔になる。


「アルベール殿下は大切な客人だ」

「分かっています」

「時間は作りなさい」


私は少し考えた。

そして頷く。


「努力します。ちなみに夕食だけ共にするとかでもよろしいのでしょうか?」


お父様は何とも言えない顔をした。


おそらく、努力ではなく確約が欲しかったのだろう。

しかも夕食だけではダメらしい。


だか私にも予定がある。


魔法塔も大事だ。

食堂も大事だ。


婚約者は……まあ、うん。どうにかなるだろう。

視察でもなんでも好きにしたらいいと思うわ。


⸻


翌日。


私は食堂へ来ていた。


「お嬢ちゃん本当にまた来たんだね?」


おばあさんが少し心配そうにでも嬉しそうに言った。

私は胸を張った。


「ええ、もちろん約束は守るわ。今日はオムライスを作りましょう!」


沈黙。


「おむ……?」

「らいす?」


知らないらしい。


不思議な話だ。

ケチャップもある。

卵もある。

米だってある。

なのにオムライスだけ存在しない。


きっと誰も思いつかなかったのだろう。


「任せなさい」


私は腕まくりをした。

前世で何度も見た。

作り方は知っている。


完璧だ。


⸻


三十分後。

私は現実を知った。


「失敗したわ」

「そうだな」


フォレストが頷く。

卵が焦げた。


⸻


さらに二十分後。


「また失敗したわ」

「そうだな」


今度は破れた。


⸻


さらに三十分後。


「どうしてかしら」


私は卵を見つめる。

知識はある。


作り方も知っている。

なのにうまくいかない。


「なんで知ってるのに作れないんだ?」


フォレストが聞いた。


「知識と技術は別物よ」


私は真顔で答えた。

フォレストも真顔で頷いた。


納得したらしい。


⸻


そして、

四回目。


ついに。ついに。


「できた!」


私は歓声を上げた。


ふわりと焼き上がった卵。

その下にはケチャップで炒めたご飯。


完璧である。


たぶん。


⸻


「食べてみて」


私はおばあさんと息子さんへ皿を差し出した。


二人は顔を見合わせる。


そして一口。

沈黙。

もう一口。

さらにもう一口。


私は緊張した。


もし美味しくなかったらどうしよう。

そんな不安が頭をよぎる。


やがて。


「うまい」


息子さんが呟いた。

私はぱっと顔を上げた。


「本当!?」

「本当だ」


今度はおばあさんも頷く。


「初めて食べる味だねぇ」

「美味しい?」

「美味しいよ」


その言葉に胸が温かくなった。

なんだかとても嬉しかった。


⸻


「これなら売れるかもしれないな」


息子さんが言う。

私は満足げに頷いた。


「でしょう?」

「自信満々だな」


フォレストが呆れる。


「成功したもの」

「四回目でな」


細かいことは気にしない。

成功は成功だ。


⸻


帰り道。


夕焼けに染まる城下町を歩きながら私は満足していた。


新しい料理は成功した。

食堂の雰囲気も少し元気になった。


良い一日だった。


「そういえば」


私はふと思い出す。


「三週間後に王子が来るのよね」

「ああ」


フォレストが頷く。


「一ヶ月もいるらしいわ」

「そうだな」


私は少し考える。そして結論を出した。


「やっぱり長いわ」


フォレストが呆れ顔だ


「まだ言うのか」

「だって長いもの」


私は空を見上げる。


「魔法塔と食堂の時間は減らしたくないわね」

「そっちが優先か」


当然である。

私は大きく頷いた。


「ちなみにアルベール殿下とやらは今何歳かしら?」

「俺の一個下だったから九歳だ。」

「子供じゃない」

「お前も八歳だろ」

「それとこれとは別よ。」


そんな私を見て、フォレストは深いため息を吐くのだった。

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